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尹大統領 事故から7日目に“初謝罪”

【独自解説】156人死亡の韓国・群衆事故で相次ぐ警察の“不手際”や“ウソ” “セウォル号の教訓”生かせず広がる国民の不信感…尹政権への影響は?

 韓国・梨泰院で156人が命を落とした群衆事故。韓国国内では警察の不手際・ウソが続々と発覚し、警察の元幹部らが業務上過失致死の疑いで捜査されていることも明らかになりました。国家哀悼期間が終了した今、責任の所在をめぐって政府への批判が強まる可能性も…尹政権への影響はあるのでしょうか?「コリア・レポート」編集長の辺真一氏が解説します。

「虚偽報告」に「職務怠慢」…広がる国民の不信感

警察庁 署長ら6人を捜査

 韓国の警察庁特別捜査本部は11月7日午前、龍山警察署前署長、龍山区庁長、ソウル警察庁総警、龍山消防署長ら、現場責任者の6人を業務上過失致死傷の容疑で捜査中であることを公表しました。また龍山警察署の職員に関しては、事故当日の内部報告書を事故発生後に削除した、職権濫用・証拠隠滅の疑いでも捜査しているということです。

龍山警察署の署長が虚偽報告か

 職務怠慢で既に解任されている龍山警察署の李林宰署長(当時)は虚偽報告が疑われています。事故が発生したのは午後10時15分で、「午後10時20分には、現場に到着していた」という報告書を作成していましたが、実際には、事故の約20分前の午後9時57分に公用車で事故現場から徒歩10分の距離にあるノクサピョン駅に到着していました。しかし、車での移動にこだわり、道路が混雑していたため、う回ルートを探していたというのです。そして午後10時55分に車から降り、ゆっくりと歩く姿が確認されています。午後11時5分にようやく現場付近に到着したということです。

「コリア・レポート」編集長 辺真一氏

Q.一刻を争う状況だというのは、この署長に逐一報告があったと思いますし、防犯カメラの映像などを確認すれば、虚偽の報告だとすぐに分かると思うのですが?
(辺真一氏)
「そうですね。危機意識の欠如あるいは責任感の欠如と言えばそれまでなのですが、恐らくこういう現場の事故処理は、『下の者がやることだ』という特権意識があったのではないでしょうか。直前までデモや集会の対応に追われて、やっと終わって一息ついていたのでしょう。韓国では『署長は署に居て、現場から報告を受けるのが本来の役割だ』という考え方があって、このような現場に行くときもノロノロというか、怠慢ぶりがこういう形で表れたのではないかと思います」

ソウル警察庁 管理官の職務怠慢か

 ソウル警察庁には「状況管理官」という職務があり、担当者は勤務時間中は状況室に待機し、ソウル警察庁庁長に治安状況を逐一報告することや、大規模死傷事案が発生した場合には機動隊の派遣などを指揮する役割を担っています。しかし事故当日の状況管理官だったリュ総警は、状況室におらず、自室で勤務をしていました。また事故から1時間以上が経った午後11時39分に状況室にいる別の職員から報告を受けて、事故を把握したということです。これが庁長への報告や機動隊派遣が遅れた原因との指摘もあります。特別監査チームはこの幹部や状況室にいた職員20人以上を監査しているということです。

警察トップ 事故発生時は「キャンプ」で対応に遅れ

 また、韓国警察庁の尹長官は、事故当日は休日で知人と登山をしていました。午後11時ごろに爆弾酒と呼ばれるビールや焼酎を混ぜた酒を飲んでキャンプ場で寝ていて、警察庁からのメールや電話での報告にも対応をせず、連絡に気が付いたのは日付が変わった午前0時14分ででした。電話で初めて報告を受け、午前0時19分にソウルの警察庁に電話で対応を指示したということです。事故発生からこの2時間のあいだに、消防庁からは15回、人員等の要請があったということです。

Q.韓国は休戦中とはいえ、一種の戦時下にある国ですよね?トップが危機に備えるという意識は警察の方に叩き込まれていないのでしょうか?
(辺氏)
「本来はそうあるべきなんです。トップ二人が事故から1時間後や2時間後に事故を知っていて、本来なら代行とか代理とか次長がいるのですが、ここも全く機能してないのは、恐らくこのNo.2やNo.3が命令を出すことは、越権行為的なことで、後で上から文句を言われ怒られるのではないかと考えているのでしょう。もう1つは、責任を回避したいと思い、確実に指示を出せない、命令を出さない、というようなことも考えられます」

“セウォル号の教訓”生かせず…尹政権への影響は?

雑踏警備「マニュアル」は17年前から存在

 韓国の行政安全省は、「主催者がないイベントはほとんど前例がなく、安全管理の指針やマニュアルはない」としていましたが、2005年から韓国警察は、組織されていない多くの人が集まる行事の「安全管理マニュアル」の運用を始めています。このマニュアルでは、多数の人が集まる行事において、「ささいなきっかけによっても、急迫した混乱状態が発生するか、死亡者が発生するなど、大惨事につながる場合もある」とし、極端な混雑した状況などが発生しうる場合、「地下鉄の入り口などに警察を先に配置して事故を予防することや、警察官が施設で安全空間・通路を確保しなければならない」としています。

“セウォル号の教訓”生かせず

 また、2014年に韓国で起こった「セウォル号」の事故を機に、2021年3月、警察・消防・軍・地方自治体・医療機関など333か所をつなぐ災害関連のホットライン「災害安全通信網」が1兆5000億ウォン(約1500億円)を投じて構築されました。しかし、今回の事故では上手く作動しなかったといい、行政安全省・キム災害安全管理本部長は「通信網に問題ないが、実際の活用のための訓練が不十分だった」と釈明しているということです。

尹大統領「厳正に責任を問う」(11月7日)

 これらを受け、尹大統領は11月7日に行われた全国安全監視委員会で、「国民の安全を守るために危険に備え、事故を予防する警察業務に対しては代々的な革新が必要。真相究明を徹底し国民にその過程を一点の疑惑もなく公開する。その結果に従って、責任ある人に対しては厳正に責任を問う」と話しました。尹大統領は2022年8月、行政安全省に警察を統括する「警察局」を発足させたばかりで、これは政府が検察改革によって権限が強化された警察を統制するものでした。

Q.尹大統領が行った警察改革は、悪い方向に出たのでしょうか?
(辺氏)
「今の段階ではそういう形の責任追及も行われています。韓国では捜査と起訴はずっと検察がやっていたのですが、文在寅政権下ではその捜査権を奪って警察に渡しました。警察と検察はこの種の事件や事故の対応を巡って、どちらかというと検察が警察より上に立って色々な形で指示命令するのを前々から警察は苦々しく思っていました。それが文在寅政権下で警察庁長官もそれなりの存在がクローズアップされ、尹政権になった矢先にこういう事故が起きたわけですから、検察の捜査権を奪いそれを法律で定めた文在寅政権の責任だという形で、与党は必死に巻き返しています。逆に言うと警察が身内を捜査するのは限界があるから、また検察に捜査権を与えるべきではないか、という議論が今、“与野党の抗争”という形に持っていかれているのが非常に気になります」

Q.トップの代理が機能していないなど、韓国では属人的に組織が作られていて、さらには大統領が代わればみんな変わる、権力闘争の末に権力を得た人間がたくさん集まっている、という韓国社会の怖さも感じます。
(辺氏)
「政権が変わると、長官だけではなく行政の局長クラスも全て変わります。この種の事故に対するマニュアルがあるにも関わらず、それが活かされないということは、まさに前政権の全否定という形で、あらゆるものを破棄してしまう悪習が表れてしまったのだと思います。韓国は日本以上に上意下達です。大統領をトップに上からの命令指示がなければ下が動かない、あるいは動けないんです。こういう大惨事が起こったときの臨機応変な対応が、スピーディーでないということは、2014年の“セウォル号”事故でも韓国人は経験しているはずなんです」

(「情報ライブミヤネ屋」 2022年11月7日放送)

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