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過去最大規模の経済対策

【独自解説】暮らしの“お金”はどう変わる?《第二弾》 元・経産省官僚「緊急経済対策でみんなにバーッと水を撒かなきゃいけない」「ケチケチしないで、早くやってくれ」

55兆7000億円の経済対策

(岸田首相)
「コロナ禍で厳しい影響を受けた方々に寄り添って万全の支援を行う。経済を一日も早く成長軌道に乗せて参ります」

政府が2021年11月19日に発表した、過去最大となる55兆7000億円の経済対策。私たちの暮らしの“お金”はどう変わるのでしょうか?10万円給付、賃上げ、そしてGoToトラベルの再開など、元経済産業省官僚の石川和男(いしかわ・かずお)さんが独自解説します。

経済対策の内容は?

経済対策 55兆7000億円の内訳

2021年11月19日に政府が決定した経済対策の内訳は、経済対策55兆7000億円のうち、“コロナ”ウイルス感染症の拡大防止に22.1兆円。専用病床の確保や事業者支援などです。次に社会経済活動の再開と次なる危機への備えに9.2兆円。ワクチン、治療薬の開発、無料のPCR検査、GoToトラベルの再開などです。「新しい資本主義」の起動には19.8兆円。18歳以下に10万円給付や看護師や保育士などの賃上げなどです。さらに、防災・減災、国土強靭化に4.6兆円。自然災害からの復旧・復興の加速などとなっています。GDPの下支えとなる押上げ効果は5.6%です。

元経済産業省官僚・石川和男さん

Q. 55兆7000億円の経済対策は、金額的には岸田さん頑張ったなって感じですか?

(元経済産業省官僚・石川和男さん)
「過去最大なんですよ。毎年だいたいこの頃は補正予算を組んで景気対策やるじゃないですか。確かに金額だけ見ると過去最大規模で、そこは本当に意欲は感じられるんですが、どこからお金を持ってくるのだって財源論が必ず出ます。55兆7000億円という金額はすさまじい金額ではあるんですが、実は今まで安倍政権、菅政権はコロナ対策で補正予算を積んできましたよね。それのまだ使ってないものが30兆円ぐらいあるわけです。それと今年度の予算の中で剰余金みたいな形でまだ使ってないってものが4兆円から5兆円ぐらいあるんです。となると今回新しい補正予算を編成するのは、明日正式に決まるはずなんですけれども、だいたい25兆円ぐらいかなと。ただ合計して(過去最大の金額で)今回ドンとやるという意味においては、そういう意気込みを感じますよね」

10万円給付の所得制限の是非

10万円給付に所得制限

10万円給付の際の960万の所得制限の基準になっている児童手当とは、モデル世帯となる 「夫と専業主婦、子ども2人」の場合で所得制限限度額960万円となっています。世帯合算はせず、主たる生計維持者の取得で判断されます。960万円未満の場合、児童1人につき0~3歳未満…1万5000円、3歳~小学生…1万円、第3子以降は1万5000円、 中学生…1万円となっています。960万円以上の場合、児童1人につき特例給付一律5000円で、来年10月以降、年収1200万円を超える場合は支給なしとなっています。

18歳以下の子どもや生活困窮世帯を対象にした10万円の給付。子どもには2021年内に現金で5万円。そして、2022年春を目途に5万円分のクーポンの支給が決まりましたが…。

(自民党・高市早苗政調会長)
「(支給の所得制限を)世帯合算ではなくて、主たる所得者の年収で判断していくとの方向が漏れ聞こえてきて、大変不公平な状況が起きると」

“所得制限のルール”が不公平だと自民党内部から異論が噴出。また、コロナの影響で失業していたとしても、給付の対象外となってしまうケースもあるといいます。

Q. やっぱりスピード感が大事だから、いちいち世帯年収は計ってられない、ということなんですか?

(石川和男さん)
「そもそも年収を計ること自体がとろくなるのです。だからこれは私もいろんなところで申し上げているんですが、要するにこれは緊急対策。緊急経済対策でみんなにバーッと水を撒かなきゃいけない。砂漠になった所に水を撒く時に特定の植物に水を撒いたって、それは全体としては底上げされないので。あくまでも当初予算で、児童手当や介護給付などの恒久的な対策はある意味区分していいんですよ。しかし緊急対策でこんなことやったらそもそも緊急で配れない。(公明党が言ったようにとりあえず配る方が速い?)それが速いというか、それが結局一番いいです。なぜかというと政府や国は国民の細かな情報を持っていないからです」

住民税非課税世帯“10万円”対象外も

生活困窮世帯10万円について、コロナで無職も対象外になる場合があります。住民税非課税世帯とは、前年中の合計所得金額が市町村等の条例で定める額以下の人などです。ことし職を失った人は昨年まで働いており、住民税を払っている場合は生活困窮世帯に向けた10万円給付の対象外になることもあります。

(石川和男さん)
「18歳以下、住民税非課税世帯など、それぞれ(条件が)あったじゃないですか、こういう人に配ること自体はものすごくいいです。しかしそれ自体を個別に見ればいいんですけれども、必ず穴が出ます。社会全体が不景気の時に、(給付の対象を)選ぶというやり方が、これは本当不公平感が出るんです。だから“(政府に)やってもらった感”が出る人は相当限定的になってしまう。強いて言えば更にそれがどうなるかというと政権基盤が揺らぐことになってしまう。政権基盤が揺らぐということは、これからコロナ禍を乗り越えるために、政治的にいろんな対策やっていかなきゃいけない時に、内閣支持率が下がったとか言って、思い切ったことができない。だから今回あんまりケチらないで、みんなにやったらいかがかと私はあえて言いたいですね」

賃金の引き上げ

賃金の引き上げ

保育士の平均年収は374万5000円から、月9000円アップ。介護職の平均年収は360万400円から、月9000円アップ。地域のコロナ医療など一定の救急医療を担う看護師の平均年収は491万8300円ですが月4000円アップが検討されています。これについて介護施設施設長は「運営するためにはケアマネージャー、事務員、生活相談員、看護職員も必要。(賃金を)上げるのであれば全職種を」と話しています。

Q.こういう方々のお給料を、普通の業種よりも低い訳ですから、もっとドンと上げる政策をとらないといけないのでは?

(石川和男さん)
「例えば今、介護、保育、看護師これ医療・介護・福祉分野ですけれども、実は消費税10%のうち2%は子ども、子育てで保育関係に行きます。それ以外の8%は年金、医療、介護とこうなるわけです。高齢者と子ども向けの対策として消費税ですらそうなっているのに、保育士さん介護職さんの給料は、全産業平均から比べるとだいたい月収で5万円から10万円ぐらい安い。財源として消費税をあてるということは、保育と介護が大事だって政府が認定しているわけじゃないですか。そこまで政治的に大事なところに今回月9000円。上げないよりはマシかもしれませんけど全産業平均で毎月5万円から10万円低い所に月9000円。こんなケチケチしていちゃダメだと思います。今回そこが本当に不満がたまると思います。また、今回コロナでお医者さんも含めて看護師さんは現場で苦労されていますよね。コロナの患者さんがいて自分も感染するのではないかという非常に心配な中でやっておられる。それにもかかわらず月4000円(上げる)と言われると、多少平均年収は介護関係、保育関係より高いにしても、自分たちの扱いは、政治はそう考えているのかと。こんな額だと悲しいと思います」

GoToトラベルの再開

GoToトラベル再開へ

続いてGoToトラベルの再開について。実際の例をもとにしてみると、GoToトラベル 4人家族の場合(平日に宿泊のみ)、現在の割引額は35%、クーポン15%ですが、見直し案では、割引額は30%、クーポン3000円分となっています。1人一泊3万円で合計12万円の場合、現在は6万円お得(4万2000円の割引、1万8000円クーポン)ですが、見直し案では4万円お得(2万8000円の割引、1万2000円クーポン※上限1人7000円)となっています。

GoToトラベルどう変わる?

Q.前回やった時に、高級旅館は値段が下がったのでお客さんが集まったが、リーズナブルな所にお客さんがなかなか集まらなかった。今回の見直しはどうですか?

(石川和男さん)
「こういう政策というのは、とにかくやってみないと効果の影響が出てこない。今回の見直しで、数字は小さくなっていますが、小さな旅館も含めて全体にお金が行き渡るようにしているので、この限られた財源の中でこれをGoToキャンペーンの中で配ろうという趣旨においてはこの見直し自体は私はいいと思います。ただ、問題は早くやってくれということなんです」

ガソリンなど価格上昇

ガソリン価格の高騰

そんな中、ガソリン価格が高騰しています。2021年9月の終わりに1リッター158円だったものが10月の最初に160円になって11週連続で値上がり、11月8日にはもう169円に達したということです。レギュラーガソリンの平均が170円を超えた場合は、元売り業者に補助金を出してガソリン高騰を抑えようということです。

「トリガー条項」とは?

ガソリンに関する税金については、こんな制度があります。通称“トリガー条項”と言われる 「揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の特例税率の適用停止」。通常1Lあたり、本則税率28.7円と上乗せ分25.1円がかかりますが、ガソリン平均価格が3か月にわたり160円/Lを超えると、上乗せ分25.1円が適用停止となり、1Lあたりおよそ25円程度減額となります。

Q.元売り業者に補助金ではなくて、ガソリンスタンドに補助金出さないと消費者に恩恵がないのでは?

(石川和男さん)
「元売りの会社ってそんなに多くないので、交付の事務からすると元売り会社に渡したほうがお金の行き方としては速いです。ただ問題は元売りから実際に末端のわれわれが使うガソリンスタンドまでにどうやってこの安くなった分が行くかというのは、これは相当時間かかります。これ補助金を配るというよりは、やっぱり今税率を下げるトリガー条項というのがあるんですよね。これをやったほうが明らかに効くとは思うんですが、政府は補助金のほうを選択しましたね」


Q.マンションとか家の値段が無茶苦茶上がっていますが、お金がジャブジャブに余っている所は余っているのですね?

(石川和男さん)
「はい、そうです。それが俗にいう所得の分布の格差になっちゃっているのです。持っている所がたくさん、いま金融機関もたくさんお金持っているじゃないですか。ところが投資先が無い。欲しいものをたくさん作るということです、経済対策は。(消費の背中を押してあげるということですね?)そういうことです」

(情報ライブミヤネ屋 2021年11月22日放送)

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