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内部崩壊の序章? ロシアで“クーデターリスク”高まる

【独自解説】ウクライナ侵攻の戦況変化 ロシア軍の“東部重視”は「キーウ再攻撃への“時間稼ぎ”」 ロシア情報機関に異変「“クーデターリスク“高まる」という報道も

 ロシアのウクライナ侵攻について、両国による停戦協議がトルコのイスタンブールにて“対面式”で行われる見通しとなりました。焦点になっているウクライナの「中立化」や「非武装化」について、落としどころは見かるのでしょうか。一方、ウクライナ東部の支配に集中することを改めて発表したロシア。そこにどんな意図があり、政権内部にみられる数々の異変とはいったい何なのか、元時事通信社でモスクワ支局勤務経験もある拓殖大学・海外事情研究所の名越健郎(なごし・けんろう)教授と、外交・安全保障が専門の笹川平和財団・上席研究員の小原凡司(おはら・ぼんじ)さんが戦況を分析します。

“対面式”での停戦協議 進展はあるのか?

トルコで“対面式協議”へ

Q.ゼレンスキー大統領の主張は一貫していて、ロシア側にはのめる条件ではないとは思うのですが、あえて対面式で行うことで何か進展は期待できるのでしょうか?
(笹川平和財団・上席研究員 小原凡司さん)
「進展というよりも、プーチン大統領としてはこうして停戦協議に応じている、ロシア側の言い方であれば『停戦を持ち掛けているのにウクライナが拒否している』とういうことになるんだと思いますが、反対にウクライナ側としてはできるだけこの停戦協議を延ばさなくてはならないのです。この停戦協議が終われば、決裂したということでロシア側が一気に攻勢をかけくるということになります。ただロシア側がこれをのんでいるのは、まだ大規模な軍事攻勢がかけられないから、その準備のために時間をかせいでいるのだと思います。ウクライナ側の方が一つ一つの問題について議論を持ち出して、延ばしているという印象は持っています。」

Q.ウクライナで起こっていることをどれだけのロシアの国民が知っていて、ウクライナに侵攻している兵達は今の状況をどのぐらい把握できているのでしょうか?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「ウクライナの情報機関が『この戦争を望んでいるのは世界で2人しかいない。プーチン大統領とショイグ国防相だけだ』と、宣伝戦の一環として言っているのですが、やはり大義名分がない、必然性もないということで、ロシア軍の戦意が高くないと言われるのも、やはり戦争の正当性がないというところからきていると思います。」

英・トラス外相が制裁解除の条件に言及(3月26日/英「テレグラフ」紙の報道)

Q.イギリス外相の提案ついて、プーチン大統領はどう考えているのでしょうか?
(小原凡司さん)
「この発言の中に『ロシア軍の撤退が完全な形で実現し』とありますが、これはプーチン大統領には絶対にのむことはないと思います。すでにクリミア半島を略奪し、さらにそのクリミア半島からロシア本土を陸上で結ぶルートはプーチン大統領はどうしても欲しいわけですし、黒海に面している部分はすべて押えたいわけです。そいうことを考えると、このトラス外相が言っているのも西側からの働きかけではありますが実効性があるとはなかなか考えにくいとは思います。」

Q.プーチン大統領は「西側諸国はロシア帝国1000年の歴史を否定している。そんな奴らを許すか!」というようなことを言っているのですが、それは本心なのですか?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「この戦争はそもそもプーチン大統領の個人のプロジェクトなのですが、やはり彼の歴史観に相当依拠するところがあります。大統領になった後に帝政ロシアの歴史を読んでいて、特にエカチェリーナ女帝を最も尊敬する人物に挙げています。そういう歪んだ歴史観に基づいて侵攻した形跡があるわけです。今の国際秩序、国際法には一切合致しないわけです。だから非常に危険な戦争だという気もしますね。」

ロシア軍“東部にシフト”発表は 「キーウ再攻撃への“時間稼ぎ”」

ロシア国防省が「東部の“解放”に集中する方針」を発表(3月25日)

Q.ロシア軍はこの侵攻が失敗というのは絶対言えないわけですよね?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「そうですね。プーチン大統領は2月21日の演説で『東部2州の独立の承認が目的だ』と言いましたが、その3日後の24日にいきなり『ウクライナの非武装・中立・非ナチ化という政権交代』というものに戦争目的を拡大して一気に全面戦争に出て行ったということで、戦争目的を2月21日の最初の段階に戻そうとするということは、やはりキーウ攻略がうまく進んでいない、苦戦しているという反省もあるかもしれないです。ただ、落としどころがどうなるかはまだ全く読めないと思います。」

Q.やはりキーウ(キエフ)が最終目的なのでしょうか?
(小原凡司さん)
「プーチン大統領は2013年頃、クリミア半島を略奪する前から東部ではファシズムが親露派の人たちを虐殺しているというようなことを言っています。このころからファシズムという言葉をずっと使って非難しています。そして今も東部で親露派の人たちを虐殺しているのは“現政権、ゼレンスキー政権”で、これを倒すというのはプーチン大統領が最初に掲げた目標です。独裁色の強い権威主義国家では、絶対に失敗を認めることは許されないわけですから、今は停戦、停戦というのは終戦ではないのでタイミングを見てプーチン大統領はまた難癖をつけて、必ずキーウにやって来ると思います。」

Q.ロシアが仮にウクライナ全土を掌握して傀儡政権を作ったとして、これだけ破壊したウクライナを再興する力、掌握する力はロシアにはないと思いますが、どうなんですか?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「おっしゃるとおりで、ウクライナ人の反露感情というのは決定的になっています。これから何世紀も続く可能性もあり、もう完全にロシアとウクライナは決裂すると思います。今後、ロシアが仮に制圧したところでウクライナを管理、維持するというのは至難の業だと思います。だからそれをいずれ諦めて東部だけにする、そういう方向に今、検討していると思うんです。プーチン政権というのは戦術的に対応する場当たり的なところがあるので、まだ最終目標というのは出てこないと思いますが。」

Q.ロシアは今まで紛争に介入したときには飛び地のようなものを確保してから戦闘にとって不利な時期は引き、戦車が動きやすい冬になってから動きだすというようなことをやっていますが、今回は今、支配できている東南部の地域だけを飛び地として押さえて、いったん夏を越すという考え方をロシアが持っているというのは、ありえるでしょうか?
(小原凡司さん)
「ありえると思います。少なくともクリミア半島に対する補給を陸上からできるようになるという点では、ロシアにとっては一つの成果だと思います。もう一つ、もともとプーチン大統領は誤った情報に基づいて軍事合理性のない戦争をやっていますので、キーウにロシア軍が入っていけばウクライナ軍はすぐに降伏する、そしてウクライナ国民はロシア兵を歓迎するはずで、キーウを押さえれば全国を押さえるのはそんなに難しくない、抵抗されるということは考えてなかったんだと思います。今の状況を見れば何十万という兵隊を入れなければいけないがそれは今のロシアの陸軍の現有能力の2倍、3倍という数に当たるわけですから、とても現実的ではないということだと思います。ロシアはここを復興する気はなく、NATOの支配地にならなければいいという考え方なのではないかと思います。やはり陸上で国境を接している国が一番恐ろしいのは戦車などの車両が何の障害もなく一気に国境を越えてくることで、ロシアも過去にはドイツの進撃を受けたわけですけれど、反対にヨーロッパ側もソ連の大戦車軍が入ってくるのは怖いわけですね。ですから、ここをプーチン大統領は中立化、非武装化と言っていますけど、要はロシアの緩衝地帯にしたいのだと思います。」

進むプーチン離れ “真の脅威”はシロビキ

プーチン大統領の“真の脅威”はシロビキ

シロビキとは、プーチン政権内で高い地位に就いている治安機関出身者の呼称です。名越さんによると「シロビキの中でもパトルシェフ安全保障書記、ボルトニコフ連邦保安局長官、ナルイシキン対外情報局長官は、1970年代後半プーチン大統領とKGBの支局で同僚として活動した最も信頼する側近」だということです。

そして、30年間ロシアの作戦を分析している、元CIAのスティーブンホール氏によると「オリガルヒが寝返ったとしてもプーチン大統領は脅威を感じない。オリガルヒは治安部隊を利用できない。真の脅威はシロビキ。特にパトルシェフ氏やボルトニコフ氏は強い権力を持つだけでなく利用し、暗殺計画も可能。体制が腐敗していると感じれば自分たちの利益を守るために、必要なことは何でもするだろう」ということです。

Q.プーチン大統領の元同僚の最も信頼する側近たちは、ロシアという国が崩壊するか、プーチン大統領がいなくなるか、そういう選択を迫られる可能性があるということでしょうか?
(小原凡司さん)
「ロシアの崩壊というよりも自分たちの立場が悪くなるということなのではないかと思います。プーチン大統領は今回の戦争を実質的に失敗したわけですけれども、その責任が誤った情報にあるというふうに考えているといわれていますから、FSB・連邦保安局の幹部たちが調査を受けたり、SVR・対外情報局のナルイシキンが公の場で叱責をされるようなことがありました。こうした情報機関すべてに対して今、プーチン大統領が不満をぶつけているんだとすると、今度は情報機関側の方で、なんらかの自分たちを防衛する措置というのを取る可能性はあると思います。」

Q.ウクライナ国防省のフェイスブックの投稿では「ロシアの政界エリートの一部はプーチン大統領の後継候補としてボルトニコフ氏を擁立し、手を組んでプーチン氏排除の方法を模索している。ウクライナ軍の能力分析をしているボルトニコフ氏に対しプーチン氏がいら立っている」と伝えています。名越教授は「プーチン氏と長年盟友関係にあるボルトニコフ氏が単独で裏切ることは考えにくい。ウクライナ側の情報戦の一環ではないか」ということですが、何が真実か分からないですね?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「ただボルトニコフ、パトルシェフといった人たちは70年代以降、盟友関係にありますから、一蓮托生なわけで裏切るということはまず考えられないです。今出いているのは、FSB・連邦保安局の幹部が西側や反体制派に内部情報を流しているということで、『今回のウクライナ攻撃は非常にずさんで苦戦を強いられている。初戦で大量の戦死者を出している。出口戦略があいまいだ。そもそもFSBに連絡がなく、ほんの一握りの人で決めている。』というふうに作戦を酷評しているんです。やはり軍、FSB内部にウクライナ戦争、攻撃への相当不満がたまっているんじゃないかという気がします。」

Q.仮に、このボルトニコフ氏を擁立しようとする人がいるとして、ボルトニコフ氏がロシアのトップになったときにロシアの体制は変わりますか?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「変わらないと思います。今、欧米では、フォーリン・アフェアーズなんかには『プーチン体制は核を持った軍事独裁者、独裁体制になる』という恐ろしい議論が出ていまして、民主改革派政権になるという見方は少ないですね。」

英紙報道 「ロシア“クーデターリスク”強まる」

ロシアで“クーデター”が起こる可能性も?(3月23日/英「ザ・タイムズ紙」の報道)

名越教授は「ロシア国内でプーチン氏に不満をもつ者がいてもあくまで個人レベルでクーデターには組織的な反乱が必要。今後組織的な反乱が起こる可能性があるとすれば、ロシア軍が生物化学兵器を使用した場合ロシア国内でも『一線を越えた』と受け止められる可能性がある。」としています。

Q.プーチン大統領が生物・化学兵器を使用した場合は、FSBの長官たちを中心として、何か内部反乱みたいなものが起きる可能性はあるということですか?
(拓殖大学 名越健郎教授)
「僕は記者として8年間モスクワに居て、その間に軍や情報機関の方と話すことも多かったのですが、やはり彼らは愛国者であって非常にバランスが取れています。平和主義者でもあり平和を望んでいます。そういう経験から、仮にプーチン大統領が独断で生物・化学兵器、大量破壊兵器使用に踏み切った場合は大統領でも排除しないといけないという議論が起きるのではないかと、根拠はないですが記者としての長年の勘で思っています。」

Q.やはりロシア国内で何かが起こらないと、停戦やロシア軍が引くっていうことはないのでしょうか?
(小原凡司さん)
「停戦まではありうると思いますが、終戦にこぎ着けることは難しいと思います。また、政変を起こすためには、やはり暴力装置が働かないといけない。軍隊や治安機関がそちらに加担するか、少なくともそういった動きを抑え込まない・中立を保つ、そういった必要はあると思いますのでこういった情報機関や軍の動きというのは注目されると思います。」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年3月28日放送)

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