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ウクライナ情勢の気になるポイント

【独自解説】ウクライナを“朝鮮半島化”「狙う可能性高い」、中国の望みは「ロシアのほどほどの弱体化」、プーチン大統領が重要視「5月9日」とは?専門家が解説

 ロシアの狙いはウクライナの“朝鮮半島化”という指摘もある中、一方で噂されるプーチン政権内部の混乱。今、ロシア国内で何が起こっているのか?首脳会談は実現するのか?そして露との協力関係拡大を表明した中国の思惑は?ロシア政治の専門家・慶應義塾大学の廣瀬洋子教授が解説します。

伝わらない真実…プーチン政権内部に混乱?

慶應義塾大学 廣瀬洋子教授

 アメリカホワイトハウスの広報部長は、プーチン大統領は側近から、ロシア軍の戦況がよくないことや経済制裁による影響について、『誤った情報が伝えられている』と述べました。その理由は、側近はプーチン大統領が怖くて真実を伝えられないからだとしています。さらにプーチン大統領がロシア軍に欺かれたと感じていて、プーチン大統領と軍幹部との間に、継続的な緊張関係が生まれていると指摘しています。アメリカの高官は「プーチン大統領は誰を信頼すべきか、考え直す可能性がある」と述べ、ヨーロッパ上級外交官は「プーチン大統領は、実際の戦況よりもことが順調に進んでいると考えていたようだ」とコメントしています。

アメリカ「プーチン大統領に誤情報が伝えられている」

Q.今までの欧米の情報はかなり正しいんですが、このプーチン大統領に正しい戦況などが伝わっていないという情報も、正しいと考えられますか?
(慶應義塾大学 廣瀬洋子教授)
「正しいと思います。今回一連の欧米の情報は極めて正しいケースが多く、ロシア側も非常に恐れています。そして、その正しい情報が、今回ロシア側の戦況が悪化している一因にもなっています。アメリカは入手した情報を、ウクライナ側に相当厳密に伝えていまして、入手してから30分とか1時間以内にウクライナに伝えているということです。ウクライナ軍はそれを得ることで、ロシア軍に対して先手先手で戦うことができているようです」

Q.クレムリンの中にスパイがいるのですか?
(廣瀬教授)
「その可能性は無きにしもあらずなんですが、その点をプーチン大統領は非常に恐れているようです。また、軍部にもスパイがいるんじゃないかと思っていて、それが戦況の悪化に結びついています。それは、作戦を早く伝えてしまうと、それがアメリカやウクライナに筒抜けになってしまうと考えているので、上層部に数日前に伝えるだけになってしまい、全体に伝わらないうちに戦闘が始まり、作戦がうまくいかない、ということも多いようです。また、司令官自体に情報漏洩の脅威を感じていて、司令官を置かないで戦闘をさせていることもあると聞いています」

Q.ロシア軍は指揮系統がうまく働いていないということですか?
(廣瀬教授)
「そうです。そうなっている一因として、あまりに正確に情報が捉えられているので、情報を出せずにいるということがあると思います」

露との協力関係拡大…中国の思惑は?

中露外相会談で協力関係拡大を表明

先日、中国とロシアの外相会談が行われました。両外相は、アメリカなどによるロシアの経済制裁について「一方的で非効率」と批判をし、協力関係を拡大するとしました。

Q.中国はロシアに軍事支援までするのでしょうか?
(廣瀬教授)
「ロシアとしては、ここで中国のサポートがほしいとお願いしたと思います。本当ですと、ロシアは軍事的支援までお願いしたいところですが、中国がそこには絶対乗ってこないのは明らかです。中国としては、ロシアとの関係は維持して、さらにアメリカに対抗する路線も維持したいところなんですが、ロシアと近づきすぎて中国も制裁の火の粉を浴びることは避けたいので、微妙な距離を取りつつ経済的な支援はする、ということだと思います」

Q.中国はロシアを配下において、ユーラシア大陸を抑えにかかるのでしょうか?
(廣瀬教授)
「そこは非常に微妙だと思います。2018年頃から、ロシアの方が下になっているのは間違いないのですが、ロシアは認めたくないところなんです。中国としては、ロシアが弱体化していけば中国の優位性が高まりますので望ましいと思っています。今回も、ロシアが頼れるのはもはや中国だけになっていて、ロシアの物流も中国製品が欧米のものにとって代わっていると聞きます。今後、ロシアの石油や天然ガスを買うのも中国だけになってくると、安く買いたたくかもしれません。そうすると、ロシアの経済はますます弱体化していきます。しかし他方で、あまりロシアが弱くなってしまうと、中国がロシアを養わなければいけなくなり、一緒に自滅する可能性もあります。ほどほどのところで弱いロシアを維持してくれるのが、中国にとって一番望ましいと思います」

ロシアの狙いは、ウクライナの“朝鮮半島化”?

ロシアの「“朝鮮半島化”画策」をウクライナが指摘

 ロシア国防省は、親ロシア派が支配する東部での軍事的な成果を強調し、第1段階の主な目的は達成されたとした上で、東部のドンバス地方の開放に集中する方針を示しました。ウクライナ国防省は「ロシアが自らの支配地域をウクライナから分断し、朝鮮半島のようにする可能性がある。ウクライナに北朝鮮と韓国を作ろうとしている」と話しています。

Q.ロシアはウクライナの朝鮮半島化を狙っているのですか?
(廣瀬教授)
「その可能性はあると思います。当初の目的とは言えないのですが、キーウ(キエフ)の陥落が難しくなっていますので、『この東部が第一の目的だった』と国民に訴えていく可能性は、極めて高いと思います」

2014年 ドネツク州・ルガンスク州の独立を問う住民投票の結果

Q.2014年に行われた東部の独立投票で、「独立賛成」が高い数字になっていますが、住民は本当に賛成なのですか?
(廣瀬教授)
「投票自体一人で何回もできていたりして、数の管理もできていない状態です。クリミアの時も、セバストポリでは投票率が100%以上だったりしましたので、怪しいです。こういう住民投票が公正にできていないという状況で、高い数字には全く根拠がないと思います」

首脳会談の実現は?終戦期日は「5月9日」!?

ウクライナとロシア双方の主張

 ウクライナとロシアのそれぞれの主張ですが、NATO(北大西洋条約機構)への加盟断念と中立化に関しては合意しているように見えます。しかし、安全保障で新たな枠組みを提案するウクライナに対して、ロシアがそれを認める可能性は低いと言います。東部2州の扱いや、クリミア半島問題などでも、協議は難航しそうな状況です。

Q.首脳会談の可能性も言われていますが、もし実現したとしても話が付くとは思えないのですが…
(廣瀬教授)
「ウクライナもロシアもそれぞれ譲歩したかのように見えるのですが、お互いにとって譲歩にはなっていないんです。まず問題になっている安全保障の問題で『安保理理事国などが参加する』となっていますが、当初は入っていたロシアは抜けています。そうなると、もう“リトルNATO”のようになって、むしろNATOよりも細やかにウクライナの安全保障に対応できる状況になってしまうので、ロシアは許容できないでしょう。東部2州についても、ロシアは絶対に譲れないでしょうし、クリミアも交渉の余地はないので、全くかみ合っていません」

ロシアにとって重要な「5月9日」

Q.ウクライナ軍参謀本部は「ロシア軍は5月9日までに戦争を終わらせるように命令を受けていると」発表しています。この日は特別な日なんでしょうか?
(廣瀬教授)
「5月9日というのは“旧ソ連諸国”にとってナチスドイツに勝利した日です。『ゲオルギー・リボン』というオレンジと黒のストライプのリボンを身に着けて『我々はドイツに勝ったんだ』と大きなパレードをしたり、戦争で亡くなった方を悼んだりする非常に重要な日なので、そこに向けて勝っていきたいというのはあると思います」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年3月31日放送)

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