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習近平国家主席3期目続投なるか?

【独自解説】習主席“生涯主席”への道に異変!?政権No.2が“ゼロコロナ”に異議…専門家「共産党の分裂が見えるダメ状況」

 “ゼロコロナ”政策を続け、経済が低迷する中国。そんな中、異例の3期目続投を目指す習近平(しゅう・きんぺい)国家主席ですが、今政権内部で異変が起きているとの見方があります。にわかに注目を集めるのが、政権ナンバー2の李克強(り・こっきょう)首相との発言の“ズレ”です。いったい何が起きているのか、中国事情に詳しいフリージャーナリストの福島香織(ふくしま・かおり)さんが解説します。

国内の混乱招くも「曲げられない」“ゼロコロナ”政策

上海の“ゼロコロナ”政策の状況

 一時、1日に3万人近い感染者がいた中国ですが、“ゼロコロナ”政策の影響で、6月11日には国内の感染者数は263人にまで減少しています。そして、今年の中国の国内総生産(GDP)伸び率の政府目標は、前年比5.5%前後としていましたが、アメリカの大手メディア「ブルームバーグ」によると前年比4.5%となる見込みだといいます。福島さんによると、経済は事実上の“マイナス成長”とみられており「皆がロックダウン(都市封鎖)に戦々恐々としていて、今年の経済の劇的なV字回復は難しいだろう」ということです。

 また、6月1日にロックダウンが解除された上海ですが、スーパー・地下鉄などの利用には72時間以内の「陰性証明」が必要など、依然として厳しい対策が取られています。6月11日~12日には2000万人以上を対象に「PCR検査」を実施、1人でも感染を確認した場合、地区ごと14日間封鎖になるということです。

フリージャーナリスト 福島香織さん

Q.上海はロックダウンが解除されたものの様々な制限がある一方で、北京ではナイトクラブなどでクラスターも発生していますが大規模なロックダウンはしていません。上海と北京の違いはあるのでしょうか?
(フリージャーナリスト 福島香織さん)
「北京は首都ですから、首都を完全にロックダウンをするとかなり混乱するからだと思います。上海は習政権にとって、『政敵の街・言うことを聞かない官僚の街』のようなところもあるので、権力闘争が背景にあって、ごり押しをしている可能性もあります」

Q.上海は良いが、政権の中心である北京がロックダウンするのは、政権としてもダメージがあるということですね?
(福島さん)
「そうですね。北京の政治の中心である中南海の近所でも封鎖されたりしていますから。これが中南海に広がってしまって、中南海がロックダウンされるようなことはあってはいけないことですので。ただ、北京のロックダウンをやらないという安心材料もなかったりするんです。3月中旬くらいまでは“中国の経済エンジン”である上海をロックダウンするなんてありえないと皆思っていましたので。それをやってしまったというところが、今の政権の恐ろしいところだと思います」

習主席「“ゼロコロナ”を堅持する」

 6月8日、四川を視察した習主席は「“ゼロコロナ”を堅持する」と発言しています。この理由として、習近平指導部は「中国は人口も高齢者も多く医療資源が不足しているため、政策を緩和すれば多くの重症者や死者がでる」と説明しています。

 しかし、福島さんによると、“ゼロコロナ”はコロナを退治することや人民の健康を守るため、というよりむしろ「習主席の政策の道具になっている」と言います。実際に、コロナになって重症化して亡くなる人よりも、“コロナ政策”によって病院に行けない、透析に行けない、薬がもらえないことで亡くなっている人や、追い詰められて自殺した人のほうがよっぽど多いにもかかわらず、今欧米を真似て政策を転換することは、習主席が“コロナ政策”において敗北したと認めるに等しいということです。

(福島さん)
「特に共産党の、このような強権政治においては、政策の間違いが失脚の原因になったりしますから、今はここでは曲げられない、『自分の言ったことは絶対正しい』ということを主張しないといけないのだと思います」

3期目続投のカギ?李強書記とは

習近平国家主席、3期目へ

 習近平国家主席は、今年後半にも異例の3期目の政権に突入するのではないかと言われています。そうなる、党の肩書は“建国の父”である毛沢東と並ぶ「党主席」になる可能性があるということです。

Q.習主席は、中国共産党・総書記つまり党のトップ、さらに国家主席という国のトップであり、中央軍事委員会・主席で軍のトップですが、この中国共産党の中で「党主席」になるということは、意味合いが変わってくるんですか?
(福島さん)
「総書記は、党のトップということなんですけれども、実は集団指導体制の中においては、総書記と他の政治局常務委員のメンバーとの立場は基本的には対等なんです。そのため、例えば物事を決めるときに、総書記がやると言っても、他のメンバー6人が反対するとできない、7人の合議制でやりましょうという集団指導体制のルールがあるんです」

Q.党主席になると、自分1人で決められるのですか?
(福島さん)
「そうです。例えば毛沢東氏は党主席でしたが、任期もありませんでしたし、自分が言ったことに対して、他の人たちがどんなに反対しようとしても、それができるという立場でした」

どうなる?習主席側近の処遇

 4月、上海市のトップである李強(り・きょう)共産党委員会書記が、住民から責められる場面がありました。福島さんによると、上海市の“ゼロコロナ”政策は、習主席と李強書記に責任があるということなのですが、習主席が李強書記に責任を負わせる形で混乱の収束を図ると、“習主席派であっても切られかねない”というメッセージになってしまい、3期目続投に影響が及んでしまうということです。

Q.上海市のトップ・李強書記は、習主席がかわいがっている人なのですか?
(福島さん)
「そうですね、もし習主席が3期目を連任することになると、この人が首相に引っ張り上げられるのではないか、というような前評判もあったぐらい、期待の人だったと思います」

中国共産党の序列

Q.今は政治局員ですけど、次のチャイナセブン(政治局常務委員)の中には入ってきますか?
(福島さん)
「次の党大会で政治局常務委員になって、首相職をやる可能性はあるんじゃないかと言われていたんですけど、今の状況を見ると『その芽がなくなった』と言われています。『習近平派が弱くなった』と言われる一つの原因ですよね」

Q.習主席にとって“ゼロコロナ”を打ち出したことが、自分の首をしめることになっているとうことですよね?
(福島さん)
「そうですね、“習近平スタイル”というのは、人から『これが間違っている』と言われても是正できないスタイルになっています。そのぐらい、自分に権力を集中させて、全部自分でやろうとする、そういう政権なんです。だから例えば、『現場に任せる』と言ってしまえば、恐らくは、李強書記だって現場の官僚の訴えを聞いて現実に即した政策を取ったかもしれないですけども、習主席が自分に逆らう人を容赦なく失脚させるのを見てきたので、忠実に習近平路線を上海でやりました。その結果、もし彼が責任を負わされるということになると、『上の指示を聞いているからといって必ずしも安泰ではない、では現場の話を聞いたほうがいいんじゃないか』というような官僚の動きが今、出ています」

習主席が警戒する“No.2”李首相

党のNo.2李克強首相とは

 一方、中国共産党のNo.2である李克強首相は、北京大学の経済学部で経済学博士号を取得。大学時代には、共産党のエリート集団である青年組織、「共産主義青年団」の幹部にもなっています。2013年、首相に任命されました。当時のトップ・胡錦濤(こ・きんとう)前主席に“主席候補”として後押しされるも、習近平支持者に押し切られた形だったといいます。関係筋によると、高い手腕を持ちながらも慎重な政治家で、市場開放を志向する一方、思想よりも実利を重視する人物だということです。福島さんは「李首相は、習主席に思うところはあるが、真面目で官僚気質、野心がないとも捉えられる。しかしそこが、反習主席派が押そうとしている理由でもある」としています。

李首相「ノーマスク」視察のワケ

 5月18日、李克強首相一行が雲南大学を視察した際、多くの人がマスクをしていなかったということで、中国メディア「新華網」もマスクなし写真を掲載して視察の様子を伝えています。福島さんによると「屋外でマスクを外すことは習主席も行っているが、李克強首相の行動は、国の内外からも意味深に捉えられている」ということです。

Q.密になってもみんなマスクをせず、マスクをしていた側近の人が慌てて外す姿もカメラに収めらてれていたということですから、意味深ですね。
(福島さん)
「そうですね。実は習主席も、こういう屋外の活動でマスクをしてないということ自体はあります。指導者というのは、『自分が健康で強いんだ、ウイルスなんか怖がっていないんだ』ということをアピールしないといけないので、それは習主席も同じだと思います。ただ、中国国内の写真の載せ方など報じ方が、李克強首相を持ち上げているような雰囲気なので、みんな『これは意味深ではないか』と言っているのは事実です」

10万人全国大会での李首相の発言

 5月25日、10万人以上を動員した経済のテレビ会議が開催されました。その参加者には李克強首相のほか、4人の副首相や経済関連の中央官庁の責任者など重要人物が多数いる中、習主席は不在だったということです。そこで、李克強首相は中国の経済について、「パンデミックの打撃を受けた2020年よりも深刻だ。我々は防疫対策、コロナ対策と同時に経済発展の任務もやり遂げなくてはならない」と述べたといいます。福島さんによると、「習主席は“ゼロコロナ”堅持を主張しているため、中央政府に“2つの司令部”があり現場官僚は混乱している。歴史的に見て“2つの司令部”があると、権力争いがより悪化する可能性もある」ということです。

Q.“2つの司令部”は、どういう意味ですか?
(福島さん)
「まず“司令部”という言葉自体にかなり歴史的な意味があります。毛沢東氏が文化大革命を始めるとき『司令部を砲撃せよ』と言いました。この司令部というのは、当時の劉少奇(りゅう・しょうき)氏や鄧小平(とう・しょうへい)氏などの実権派と呼ばれた人達なんですけれども、毛沢東氏の大躍進で中国の経済を非常に悪くさせ、人民が飢えているときに劉少奇氏が現実的な経済政策を取ったので、大衆は、『人民は劉少奇氏についていけば、飢えから救われる』と言って、劉少奇氏を持ち上げました。そんな劉少奇氏を潰したいがために、この権力闘争の延長で文化大革命が起きた。つまり“2つの司令部”という言葉が中国人たちの間で上るということは、みんな今は文革前夜の状況を思い出しているわけです」

Q.今もし、“2つの司令部”があるということになってくると、中国は大きな権力闘争、大混乱に陥る可能性があるっていうことですね?
(福島さん)
「そうですね。共産党は団結しなければいけないという建前がありますが、現実的には中でいろいろと分裂して権力闘争もしている。それがこんなふうに外から見える状況になってしまったら本来はダメなんですけれども、そういう状況になっています」

3期目続投のため“台湾侵攻”をレガシーに!?

中国、台湾有事で警告(6月12日・アジア安全保障会議)

 多くの問題を抱えている、習主席の今後ですが、福島さんによると「今、習主席は3期目続投の説得力に欠けている。“台湾侵攻”をレガシー(政治的遺産)にしようと考えていてもおかしくない」ということです。6月12日に行われた日中防衛相会談で、5月24日に中露の爆撃機が日本周辺で共同飛行したことについて、岸防衛相は重大な懸念を伝えました。そんな中で中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国防相は、「台湾独立のたくらみは断固粉砕する。もし台湾を中国から分裂させようとする勢力がいれば、我々は戦争をいとわない。対価を惜しまず最後まで戦う」と、アメリカなどを強くけん制しました。

Q.習主席は秋の党大会で3期目、党主席を狙うわけですよね。今コロナ政策で経済がぼろぼろだと、「私が任期中に台湾を統一します」と言う可能性はありませんか?
(福島さん)
「今回の党大会の目玉の一つに、台湾侵攻に対するタイムスケジュールのようなものが出るんではないかという噂はあります。『次の5年以内に』と言いだす可能性もゼロではないとは思います。それを結局、任期継続のための理由にする可能性がないとは言えないと、私は思っています」

Q.中国のトップの方っていうのは、必ず長老の方に人事の相談の了解を取り付けていかないとダメだみたいな話もありますが、習主席の台湾への政策などに対する長老の意向はどうなんでしょうか?
(福島さん)
「この間、党中央弁公庁という総書記の秘書役をやるようなところから、『長老は、現職の習近平国家主席の言うことを聞きなさい』と、非常に激しい口調のメッセージが出ました。実は長老は経済路線も台湾問題も、習主席には反対しているんです」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年6月13日放送)

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