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【独自解説】キーウ近郊で住民虐殺か…「兵士は戦争下の特殊な精神状態」、進まぬ停戦協議「東部は膠着状態に」 今後の可能性を専門家が分析
2022年4月5日 UP
ロシア軍が撤退したキーウ(キエフ)近郊の町で、民間人とみられる多数の遺体が見つかりました。欧米諸国が「ロシア軍による戦争犯罪」などと非難の声を上げる中、ロシア国防省は「ウクライナ側のねつ造だ」と関与を否定しています。はたして何が起こっているのでしょうか?ロシアの外交・安全保障戦略に詳しい笹川平和財団の畔蒜(あびる)泰助主任研究員が解説します。
住民虐殺はなぜ起こったのか?
Q.ロシア軍が意識的に民間人を殺しているというのは、戦争の常としてあるのでしょうか?
(畔蒜泰助主任研究員)
「戦争というのは、精神的にある種特殊な状態にあって、誰が銃を持っているかわからないという状況で、ロシア軍兵士が無差別に殺害していったということはあるかもしれません」
Q.ウクライナ側から「11人の首長が監禁されて、さらに殺害されている」という発表もありましたが、これは首長をロシアに都合のいい人物に代えて、町をロシア化しようということですか?
(畔蒜主任研究員)
「今このキーウ(キエフ)周辺の状況で、ロシアが用意周到に計画を立ててやったとも思えないです。あまりにずさんですね。それぞれの町の責任者を逮捕するというところまではまだ分かるのですが、殺害してしまうというのは、ちょっと何とも言えない行為です」
ロシア軍がキーウから撤退、目的は?
ウクライナ政府は、キーウ州全域をロシア軍から解放したと発表しました。ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が遺体などに地雷を仕掛けているので住民にはまだ戻らないように呼びかけています。
Q.ロシア軍は、地雷などを仕掛けて撤退したということは、キーウ占領はあきらめたということでしょうか?
(畔蒜主任研究員)
「ロシア軍は、おそらくキーウの占領は考えてないと思います。政治的な意思とも一致していると思いますが、ロシア軍の現場は、なるべくウクライナ東部に戦力を集中させて、できるだけ早い時期に、この戦争を終わらせたいと考えているはずです」
Q.今のロシア軍の目的は、キーウ占領ではなく、ウクライナ東部と黒海沿岸をおさえることになのでしょうか?
(畔蒜主任研究員)
「東部などをおさえることによって、この軍事侵攻の当初の目的にあった、ロシアの言うところの『過激な“ナショナリスト”と“ネオナチ主義者”によって支配されたウクライナ東部の人々を救済する』という目的を実現させるということです」
Q.5月9日の対独戦勝記念日までに時間もないので、東部南部の人たちを解放したということで“勝利宣言”をするのですか?
(畔蒜主任研究員)
「第二次世界大戦の時は『ナチスドイツを倒してユダヤ人を救済した』ということでしたので、それと同じように『ネオナチにコントロールされたウクライナ政権を倒して、ウクライナ東部の人を救済した』ということで、5月9日の対独戦勝記念日を迎えたいということです」
平行線の停戦協議、今後の可能性は?
ウクライナ側は4月2日、「ロシア側から『クリミアの問題を除く全てを受け入れる』と回答があった。首脳会談についても、実現するために十分な状態だとロシア側も確認した」と発表し、進展しているかのように見えた停戦協議ですが、一方でロシアは「ドンバスとクリミアに関する立場は変わっていない。合意案は十分ではない。首脳会談に関する楽観的な見方は共有していない」と相反する発表をしました。
Q.今回の発表も食い違いがありますが、ほかにもウクライナ側は「クリミアは15年かけて話し合うが、東部の領土は渡さない」と言っています。こういった状態で停戦の合意がつくのでしょうか?
(畔蒜主任研究員)
「実はロシアとしては、クリミアはもうロシア領だという判断で、法律も憲法も変えていますので、“係争中の領土”であるという書き方は絶対にできません。ウクライナにしても、今まで8年ロシアの支配が続いていて、その後15年もその状態が続くのを容認するということは、事実上ロシア領になってしまうのを認めたうえで、“領土の主張をします”ということなんですが、これでさえもロシアは飲めないんです」
Q.ウクライナ東部に関しては両国の主張はどうなのでしょう?
(畔蒜主任研究員)
「これもロシア側からすると、『もう国家承認している』ということで、その人たちを救済するために今回の戦争をしたということですので、この地域に関してロシア側が何らかの譲歩をするということは『この戦争にロシアが敗北をした』ということになりかねないので、非常に難しいと思います」
Q.まだこの惨劇は続くということですか?
(畔蒜主任研究員)
「続くと思います。ですからロシアの目的は今できるだけ大きなテリトリーを軍事的におさえて、一方的に勝利宣言をするということなんだと思います」
Q.「一方的に勝利宣言をする」というロシアの思惑通りに事は進むのですか?
(畔蒜主任研究員)
「ロシアが思っている通りになるかはわかりません。キーウの周辺から軍を引き上げて再編するにしても、ほとんどの兵器はダメージを受けていますから、必ずしもロシアが思っているようにはいかないので、ウクライナ東部はまさに膠着状態になっていくと思います」
Q.膠着状態になると、ロシアはどんな手を打ってくる可能性があるのですか?
(畔蒜主任研究員)
「ウクライナ東部でも、ロシアが勝利宣言できない状況に追い込まれたときに、核や生物兵器まではいかなくても、化学兵器を使う可能性は出てくる懸念はあります」
Q.ウクライナが提案した、ウクライナの停戦後の新たな安全の保障の枠組みなんですが、アメリカ・イギリス・フランス・中国・ロシアの国連常任理事国とドイツ、イタリア、ポーランド、トルコ、イスラエルということで、ほぼNATO(北大西洋条約機構)と中国、ロシアでなんですが、これは実現可能なんですか?
(畔蒜主任研究員)
「実は一番の問題はアメリカで、最終的にウクライナの安全保障を担保できるのはアメリカだけなんですが、ウクライナの安全保障をNATO並みにするということに、アメリカは躊躇していますし、できないと思います。ですので、ゼレンスキー大統領求めているものから、かなりレベルの低いものになるでしょう」
Q.トルコのエルドアン大統領が、トルコで首脳会談をしないか、と言っていますが、うまくいきますでしょうか?
(畔蒜主任研究員)
「プーチン大統領は、ロシアを出るとしてもベラルーシまでだと思いますので、トルコでの首脳会談は難しいと思います。すべてはプーチン大統領次第です」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月4日放送)


