記事
【独自解説】沈黙から一転!北朝鮮兵のロシア派兵を認めた露・朝の思惑とは?「スマホで好きな本や映画見る」動画で明らかになる兵士の意外な暮らしぶり
2025年5月28日 UP
ウクライナ侵攻で、北朝鮮からの派兵を公式に認めたロシアと北朝鮮。そんな中、ロシア側が、現地で戦う北朝鮮兵の動画を続々と公開。そこに映っていた、北朝鮮兵の暮らしぶりとは?このタイミングで公表した両国の思惑は―?『朝日新聞』元ソウル支局長・牧野愛博氏の解説です。
■なぜこのタイミング?ロシア・北朝鮮が北朝鮮兵の派兵を公表
ロシアとウクライナの戦闘を巡り、2025年4月、北朝鮮メディアは、ロシアを支援するため、キム総書記の命令で、軍の部隊を戦地に派遣したと初めて公表しました。韓国・国家情報院によると、約1万5000人の北朝鮮兵を派兵し、激戦地のクルスク州に配置したとのことです。その中で、死傷者は4700人を超えていて、そのうち600人を超える兵士が亡くなっていると分析しています。
ゼレンスキー大統領は、当初から北朝鮮兵との交戦や捕虜の情報を公開し、ロシアと北朝鮮を非難してきましたが、この二国は派兵について、公式にコメントをしていませんでした。
しかし、沈黙から一転、2025年4月26日に、ロシア大統領府が、プーチン大統領とロシア軍参謀総長のテレビ会議の映像を公開し、その中で「北朝鮮の軍人と将校らは高い専門性と不屈の精神・勇気・英雄的行動を示した」として、北朝鮮兵の参戦を公式に認めました。
そして、その2日後に北朝鮮側も派兵を認めました。『朝鮮中央通信』は、「クルスク地域解放作戦が勝利のうちに終結した」と報道。金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「包括的パートナーシップ条約の第4条の発動に該当するとの分析と判断に基づき、我が武力の参戦を決定。ウクライナのネオナチ占領者を撃退・掃討して、クルスク地域を解放するという命令を下した」として、派兵を認めました。
さらに、ロシア大統領府がプーチン大統領の声明を発表しました。
(プーチン大統領の声明)
「条約の第4条に準じ、北朝鮮の友人たちは、正義感や同志愛に基づき行動した。キム総書記や指導部、国民に心から感謝する。ロシア国民は北朝鮮兵士の偉業を決して忘れず、命をささげた英雄をいつまでもたたえる」
Q.双方、北朝鮮兵の派兵を認めましたが、このタイミングは何を意味していますか?
(朝日新聞元ソウル支局長・牧野愛博氏)
「ロシアは、2025年5月9日の戦勝記念式典の一つの大きな成果としてアピールしたいということがあったでしょうし、プーチン大統領もきっと『戦勝記念日までにクルスクを落とせ』と言っていたと思います」
Q.つまり、クルスク州は、完全にロシアに掌握されたということですか?
(牧野氏)
「そうですね。全くその残党がいないわけじゃないですが、軍事的にはもうロシアが勝利したと考えていて、北朝鮮は多分、勝ったから発表したんだと思うんです。要するに最高指導者は神様ですから、自分たちの兵士を送って、それが負け戦だったりしたら、最高指導者の肩書に傷がつくわけですよね。でも勝ったので、発表することになったと思います」
Q.双方が“包括的パートナーシップの第4条”と言っていますが、世界的に認められていると主張したいのでしょうか?
(牧野氏)
「お互い細かな思惑が違っていて、ロシアは、第4条の“自衛権の行使”として、その中で北朝鮮に参加してもらった。“自衛権の行使”は、国連憲章でも認めているんだから、その戦いに北朝鮮が加わっても、問題ないということを言いたい。一方、北朝鮮は、ロシアに『俺たちは同盟条約を守ったんだから、北朝鮮で何かあったときは、俺たちを助けに来いよ』ということを言いたい。加えて、韓国や日本やアメリカには『俺たちに手を出したら、後ろにはロシアがいるんだから、軽く見るな』ということを言いたいんだと思います」
■ロシア側が公開した戦地の動画に映る、北朝鮮兵たちの意外な暮らしぶり
韓国・国家情報院は2025年4月30日、『北朝鮮軍は兵器に慣れ、戦闘力が著しく向上している』と分析しました。北朝鮮兵が派兵・武器輸出の見返りに得たモノは、『偵察衛星の技術支援』『無人機の実物』『電子戦の装備』『地対空ミサイル』、そして『労働者約1万5000人を派遣して、外貨を獲得した』とのことです。
派兵公表後に、ロシア国防省が初公開した北朝鮮軍とロシア軍が共に戦う実戦映像では、両国の兵士が崩れた建物から交代で射撃する様子や、ウクライナから奪還した教会の壁にロシア国旗を掲げ、抱き合う姿などが映っていました。
また、激戦地・クルスク州での戦闘に参加した北朝鮮兵の訓練映像も公開し、ロシア兵から手りゅう弾の使い方を教わり、実際に投げるシーンや、塹壕の中を走り回る場面が捉えられています。さらにロシアの国営テレビで放送された映像では、ドローンを使った現代的な訓練の様子も見られました。ここでは23歳から27歳の若い北朝鮮兵が任務に当たっているといいます。
ロシア人の教官は意思疎通をするため、“前進”や“撤退”、“ミサイルの危険あり”など、20ほどの単語を、朝鮮語でどのように発音するのか書かれた紙を携帯。ロシア勝利のため、24時間寝食を共にしている両軍の兵士たち。食堂には、ロシアの『ボルシチ』や『豚の塩漬け』などの料理と一緒に、皿いっぱいに真っ赤な唐辛子の粉も用意されていました。
そして、北朝鮮兵が明かしたのは、戦場での意外な暮らしぶりです。SIMカードのないスマホが支給され、それで好きな本や字幕付き映画をたくさん見ていると話し、映像には、第2次世界大戦当時にソ連軍の象徴とされた曲の朝鮮語版を歌う様子も映っていました。
Q.ロシア側が、北朝鮮兵の戦地での動画を公開していることについて、どう思いますか?
(牧野氏)
「これは、極めて珍しいです。基本的に観光客などが平壌(ピョンヤン)に行っても、軍人は話しかけることも出来ないし、写真も撮ってはいけないのに、わざわざ取材させるわけです。恐らく軍も『インタビューの要請が来ている』となったら、トップも当然、それを聞いて許可を出している。キム総書記が、それだけプーチン大統領との関係に自信を持っているとう、1つの表れだと思います」
■兵士は北朝鮮へ帰ることができるのか?
2025年2月付の『朝鮮日報』では、ウクライナで北朝鮮兵の捕虜と面会をしたと報じています。
リ兵士(26)は、入隊10年目で偵察総局に所属し、偵察と狙撃手を担っていました。
ペク兵士(21)は、入隊4年目で小銃手を担っていました。
この2人に共通しているのが、「訓練のため」との説明のみで、クルスク州で実戦投入されたこと、そして「ドローンで攻撃してくるのは、ウクライナに派遣された韓国軍」と教えられたことです。
そのドローン攻撃の対処法をロシア軍に教えてもらったとのことですが、「速いやつが生き残る!」として、「見つけたら走って逃げる・物陰に隠れる・伏せて撃つ」と習ったといいます。ただ、ペク兵士は「ロシア軍はそう言っていたが、私たちは全部撃ち落とした」と語っています。
Q.捕虜になった兵士や、クルスク州に行った兵士たちは、北朝鮮に戻ることができるのでしょうか?
(牧野氏)
「多分、北朝鮮は厳密に分けると思います。北朝鮮ってよくスポーツ大会で、世界各地に行った選手に対して、帰国すると必ず、2か月ぐらい政治教育をするんです。要するに“他国にかぶれていないか”とか、“変なことを教え込まれていないか”ということを、徹底的に検証した上で家に帰します。
クルスク州に行った兵士も、“激しい戦闘で酷い目に遭った”という人たちは、帰したくない。そんなに激しい戦闘経験ではなく、“それなりに良い思い出のある人たち”を優先的に帰して、平壌で戦勝記念日みたいな形で歓迎する。でも本当に大変な経験をした人たちは、そのまま、シベリアやウクライナの占領地に置いて働かせるのではないでしょうか」
Q.先ほどのスマホでドラマや映画をたくさん見ていたという人たちも、帰国すると政治教育される可能性があるということですか?
(牧野氏)
「あれだけの人数の規模で、ロシアの美味しいものを食べたり、色んな楽しい経験をしたりした人たちが、北朝鮮にいっぱい戻ってくるというのもリスクがありますから、そこは考えると思いますね」
(「情報ライブミヤネ屋」2025年5月8日放送)


