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中村逸郎教授が唱える3つのシナリオ

【独自解説】キーは「ロシア兵士 母の会」「ポーランド」「4月4日」 停戦か、更なる戦闘激化か…今後考えられる3つのシナリオを専門家が分析

 3月29日の停戦協議は、一定の進展があったと報道されていますが、まだ先行きは不安定な様相です。そんな中、ロシアの専門家・筑波大学の中村逸郎教授は、今後の展開として3つのシナリオが考えられると言います。停戦か、更なる戦闘激化か、ロシアの内部崩壊か…ウクライナ侵攻の行方を分析します。

シナリオ(1) 「ロシア兵士 母の会」の反発による停戦

筑波大学 中村逸郎教授

 中村教授が考えるシナリオの1つである「停戦」へのカギとなるのは、「ロシア兵士 母の会」だと言います。

「ロシア兵士 母の会」とは

 この「ロシア兵士 母の会」は、1989年に設立された、ロシア兵の権利を守ることを訴える兵士の母による団体です。現在は、親族などからの依頼を受けて、団体独自のデータベースを使い、行方不明の兵士の居場所を突き止めるといった活動なども行っています。また、チェチェン紛争のときの反戦デモは、ロシア全体の反戦ムードを高める要因になったということです。

「ロシア兵士 母の会」による反戦デモ(1995年)

Q 今回のウクライナ侵攻で「ロシア兵士 母の会」はどんな活動をしているのでしょうか?
(中村教授)
「母親と戦場の子ども、つまり兵士なんですが、そのやり取りで『自分は2021年の6月に徴兵されたが、一緒の部隊には同じ年の秋に徴兵された若い兵士もいる。周りを見ると、戦闘の経験が全くない人たちがあまりにも多いので、びっくりした。生きて帰りたい!』と叫ぶ若い兵士の話が、『母の会』のホームページに載っています。本当に若い兵士たちが何も知らずに送り込まれている現場が、実は『母の会』のホームページを見ると載っているんです」

2021年発表のロシアの徴兵制

 ロシアの徴兵制は、2021年の発表によると、任期は1年で、春・秋の年2回徴集されるということです。90万人いる現役兵士のうち3割が“徴集兵”なのですが、プーチン大統領は「徴兵から完全契約兵制への移行の計画があるが、いまだ実現できていない」としています。

「ロシア兵士 母の会」の公式声明

「ロシア兵士 母の会」は、「プーチン大統領は、ウクライナでの作戦に徴集兵が参加することはあり得ないと言った。しかし、徴集兵をだまして、特別軍事作戦が行われている場所に派遣しようとする指揮官もいる。我々『ロシア兵士 母の会』は、ロシア連邦最高軍事検察庁およびロシア連邦国防省と共に調査を行っている」という声明も出しています。

Q使わないといった徴集された兵を使ったり、ベラルーシの兵を使おうとしたり、ジョージアから兵を移動させるといった話があったり、ロシア軍の兵力は不足しているのですか?
(中村教授)
「足りていないようです。前線のロシア兵が不足している理由なんですが、亡くなっているロシア兵がかなり多いのではないかと言われています」

露とNATOで異なるロシア軍の死者発表数

 ロシア軍死者は、ロシア国防省の発表では「1351人」ですが、NATO(北大西洋条約機構)の発表では「約1万5000人」と大きく違っています。NATOの発表が正しく、多くの若い兵士が亡くなってしまったとなると、ロシア国内で「ロシア兵士 母の会」をはじめ多くの人の反発が起きる可能性が高いと考えられます。

シナリオ(2) ポーランド介入によるNATOと露の軍事衝突

 先日、ポーランドの首都・ワルシャワにあるロシア大使館で黒い煙が上がりました。ポーランド当局は、中で機密文書が燃やされているのではないかとしています。そして同様のことが進攻直前に、ウクライナの首都・キーウ(キエフ)の在ウクライナロシア大使館でも起きています。中村教授は、「ロシアは、ポーランドが戦場になると想定しているのではないか」と分析しています。

バイデン大統領にブリンケン国務長官 オースティン国防長官も同行

 また、今回バイデン大統領がポーランドを訪問した際に、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官を同行させたことについて、アメリカメディアは、「軍事支援を続けるアメリカの決意を示すもの」と報じていますが、一方で「ポーランドをなだめるため」との意見もあります。

Q.今後、ポーランドがウクライナ侵攻に介入する可能性はあるのでしょうか?
(中村教授)
「今、ポーランドに避難したウクライナの人が、また元のウクライナに少しずつ帰っていくという事が起こっているのですが、果たしてその人たちが、ウクライナに戻って安全に生活できるか非常に不安視する人たちが、ポーランド側、特にポーランド軍の中に多くいます。NATOもなかなか動かないので、その人たちを守るために独自の“平和維持部隊”を送り込もうという話さえ出ています。しかし、平和維持部隊と称して入っても、ロシア軍が攻撃を仕掛けてくる可能性は非常に高い。もしそうなったら、NATOとロシアの軍事衝突という最悪のシナリオに発展しかねないという、緊迫した状況になりつつあります」

シナリオ(3) ロシア経済崩壊によるプーチン大統領の権威失墜

ロシア国債デフォルトの危機

 ロシアはこれまで、3月に2度デフォルト(国債の債務不履行)を回避したとされていますが、次は4月4日に、20億ドルのロシア国債の満期償還日が訪れるといいます。ロシアはドルではなくルーブルで支払いたいのですが、ルーブルでの支払いを国債の保有者側が認めない可能性もあり、債務不履行に認定される恐れがあるということです。また、3月28日にはG7(主要七か国)が、天然ガスなどのルーブルでの支払いを拒否しています。このように、ロシアは経済的に追い詰められていますが、この20億ドルを払えずデフォルトになると、ロシア経済に大きな打撃を与えることになります。

Q.国内から大きな不満が上がって、プーチン大統領がトップでいることができなくなる可能性もありますか?
(中村教授)
「そうですね。ですので、4月4日がロシア国内の動きを見る際に、非常に重要な日付になります」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年3月29日放送)

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