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【密着】年金を切り崩しても“人助け” 一軒ずつ訪問してエアコンチェックも…年中無休でボランティアに励む83歳
2025年8月30日 UP
東京の団地に住む小山謙一さん(83)は、年中無休でボランティア活動を続けています。団地内の部屋を訪問して居住者の体調をチェックしたり、定期的に集会を開催したり…。実は、毎月赤字で、年金を切り崩して賄っているといいます。それでも活動を続ける理由とは―。
■清掃活動に食事会…高齢者が集う機会を定期的に作るワケ
朝8時、東京23区内最大のマンモス団地『光が丘パークタウン(光が丘団地)』の公園に、70~90代の高齢者ら約20人が集まっていました。
Q.これから何が始まるんですか?
(『光が丘ボランティアの会』会長・小山謙一さん)
「この区立公園に遊びに来るお子さんたちが気持ちよく遊べるように、ボランティアでゴミを拾います。ゴミ拾いというよりも、本当の狙いは散歩です。散歩しながらゴミを拾うという一石二鳥」
全体で40人ほどのメンバーの中から有志が集まり、夏場は週に一回、それ以外は毎日、公園の清掃を行っているといいます。
この『光が丘ボランティアの会』会長を務めるのは、小山謙一さん(83)です。ボランティアの会では、ほぼ毎日、小山さんを中心に食事会やカラオケ、健康のための講演会などを開催していて、団地の人に限らず誰でも参加できるといいます。
この日の食事会のメニューは、カレーライスにサラダ・お新香が付いて、なんと一食500円!
(小山さん)
「毎月、赤字です。でも、別に良いじゃないですか。高齢になると家で一人の食事が増えちゃって、だんだん気持ちが小さくなっていくので、皆さんに集まっていただいて」
2025年7月に発表された厚生労働省の調査によると、2024年6月時点で、65歳以上の単独世帯は903万世帯を超え、統計を取り始めた1986年以来、最も多いという結果になりました。こちらの団地では、普段一人で食事をする人も多いといいます。
Q.カレーの味は、どうですか?
(参加者ら)
「おいしい。なんか今日は特別にうまいな」
「皆さんで食べると、特においしい」
さらに、困っている高齢者たちが気軽に相談できる場所を作るのも、目的の一つなのだそうです。
(小山さん)
「全部、相談に乗りますよ。それで、お付き合いが深くなるケースが多いです」
(参加者)
「すごく嬉しいです」
■一軒ずつ訪問して体調チェック 家電の掃除や手入れも
常に誰かのことを気にかけている小山さん。活動は、これだけではありません。向かったのは、団地の一室です。
(小山さん)
「こんにちは。元気ですか?」
(女性)
「何とか生きていますよ」
(小山さん)
「お邪魔します。エアコン、つけているかな?」
(女性)
「まだ、つけていません」
(小山さん)
「あらら。なんで、つけないんですか?」
エアコンをつけずに過ごしていた女性の部屋は32℃を超えていたため、小山さんはエアコンをつけました。
(女性)
「つけるときはつけるんだけど、忘れちゃうんだよ」
Q.暑いなって感じますか?
(女性)
「いや、そんな感じないの」
Q.こうやって来てもらえると、安心しますか?
(女性)
「そう、安心」
続いて小山さんは、別の部屋も訪問します。
(小山さん)
「こんにちは、小山です。生きていますか?暑いね。今日は、お友だち(取材班)を連れてきましたよ」
(女性)
「やーだー(笑)」
(小山さん)
「今日、エアコンつけているじゃない」
(女性)
「夜は寒くなっちゃうのよ」
(小山さん)
「夜は28℃でいいんじゃない?でも、エアコンをつけないと、部屋の中の温度がものすごく上がっちゃうから。あー、フィルターが汚れているわ」
一日に2~3軒、光が丘団地の住宅を訪問して、生活環境に問題がないかを確認し、時には家電の掃除や手入れも行います。年中無休でボランティア活動を行っている小山さんは、一体なぜ、これほどまでに人に尽くすようになったのでしょうか。
■人生を変えた“おばあちゃんとの出会い”小山さんの原動力とは―
小山さんが住んでいるのは、団地内にある3LDKの家。83歳の妻・三四子(みよし)さんと二人暮らしです。
(小山さん)
「結婚したのが22歳だから、結婚して61年か。大体、こんな生活やっているんだからね。うちのことは、ほとんど面倒見ないで、炊事・洗濯・子育て、全部うちの奥さんにやってもらったから。よく別れないで、付いて来てくれたと思って。頭下がっちゃうね、本当に」
(三四子さん)
「ははは(笑)」
三四子さんとの出会いは、大学時代。小山さんは東京の大学で社会福祉を学び、6年間通っていましたが、父がやっていた商売が苦しくなり、大学をやめて店を継いだといいます。父から受け継いだ街の小さな電気屋さんを必死に切り盛りした小山さんですが、やがて店を閉じ、定年後は電気の安全点検を行う会社に入りました。このとき、人生を変える出来事がありました。
(小山さん)
「一軒一軒、訪問して、必ず家に入って、電気の安全点検をやっていたんです。そのときに、ある団地へ行ったら、ドアが開いていて、危ないなぁと思って。『こんにちは』って入ったら、そこのおばあちゃんが廊下にこたつを置いて座っていました。『どうしたの?』って聞いたら、『私は足が悪いから、チャイムが鳴っても出られない。だから、廊下にこたつを置いて、昼間はそこに座って、来た人の応対をしている』って。それ聞いたときに、これじゃ高齢者つらいよ、と…」
高齢者の厳しい現実を目の当たりにした小山さんは、「どうにかしたい」と会社や区役所に相談しましたが、対応してもらえなかったといいます。
(小山さん)
「うちの奥さんと相談して、『どうしたらいいかな、いずれ僕らもそうなるよ』って話したら、奥さんが『そしたら、うちの近所から始めない?』って言ったの」
妻の一言に背中を押され、20年ほど前に、小山さんと三四子さん・母親の3人で、ボランティア活動を始めたといいます。
そんな小山さんも現在は年金生活で、受給額は夫婦合わせて月26万円ほど。生活費としては十分だといいますが…。
(小山さん)
「ボランティア活動で大体毎月10万円ぐらい支出していますから、残りが16万円でしょ。そこから健康保険や介護保険等々引くと、正直言って2万円ぐらい赤字です。一番お金がかかるのは、毎月発行している『瓦版』です。月に4万円ぐらいの費用で、これを発行しています。チラシ自体で1万4000枚か」
活動の費用は区役所や社会福祉協議会などから補助金が出るそうですが、それだけでは足りず、不足分は小山さんの年金で賄っているといいます。それでも前を向き、活動を続けます。
(小山さん)
「楽しくてしょうがないです。僕が団地の中を歩いていたら、何と言われるかというと、『無理しないでね』と言われます。普通だったら『ご苦労さん』とか『頑張って』と言うでしょう、『無理しないでね』って誰も言わないよね。だから、多少は役に立っているのかな、と…そこが、僕にとっての“動く源泉”なのかな」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年8月18日放送)


