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保育園“バスに置き去り”5歳児死亡事件 元園長ら初公判 (写真:遺族提供)

【独自解説】福岡5歳児“送迎バスに置き去り”死亡事件、初公判で見えた問題点 各地で相次ぐ「ヒューマンエラー」防ぐ手立ては

 2021年7月、福岡県の保育園の送迎バスで、園児が約9時間にわたり置き去りにされ、死亡した事件の初公判が9月26日に行われました。出廷した当時の園長らは、起訴内容を認めています。そんな中、子どもがバスに置き去りにされるケースが後を絶ちません。9月5日に3歳の女の子が死亡した静岡に続き、沖縄でも発生。政府は再発防止に向け、緊急対策を検討しています。この問題について、2児の母でもある三輪紀子弁護士と考察します。

福岡・送迎バス内で5歳男児死亡 元園長ら初公判

福岡“送迎バスに置き去り”事件の概要

 事件が起きたのは、最高気温33℃を超える真夏日だった2021年7月29日、福岡県中間市の双葉保育園で、送迎バスに乗って登園した倉掛冬生ちゃん(当時5)が、車内に“置き去り”にされ、熱中症で死亡しました。当日の送迎バスを運転していた、元園長・浦上陽子被告(45)と、降車補助を担当した保育士・鳥羽詞子被告(59)が、2022年3月に「業務上過失致死罪」で在宅起訴されました。

福岡地裁に出廷した、浦上被告(右)と鳥羽被告(左) (イラスト:山下慧蔵)

 9月26日、午前11時過ぎから福岡地裁で始まった初公判。スーツ姿で入廷した浦上被告と鳥羽被告は、2人とも「間違いありません」と起訴内容を認めました。裁判で明かされたのは、保育園のずさんな安全管理体制と事件当日の凄惨な状況でした。午前8時半ごろから、約9時間にわたって置き去りにされた冬生ちゃん。必死に助けを求めていたのか、午前11時過ぎに車内を行ったり来たりし、飛び跳ねる男児の姿が目撃されていました。しかし、救いの手が差し伸べられることはなく、午後1時ごろ息を引き取ったとみられています。当日の最高気温は午前11時に33.1℃を記録していて、警察の検証では車内温度は50℃を超えていたとみられています。発見時の冬生ちゃんの体温は約39.1℃だったということです。

 当時の双葉保育園では慢性的な人員不足から、園長が1人で送迎バスを運転するのが常態化、事件当日も園長1人で園児7人を送迎し、補助員などはいませんでした。そして、保育園に到着後は、バス内の点検が十分にされないまま、バスを施錠しました。降車確認を怠った理由について浦上被告は、「1歳児が大きな声で泣いていたので、近隣住民に虐待を疑われるのではないかと気持ちが焦っていた」などと述べています。さらに、園児がバスに乗る際に体調などを確認するために回収する『バスカード』が出欠の確認も兼ねていましたが、この日、冬生ちゃんが乗ったバスでは回収されず、保育園の中でも人数確認がなされませんでした。

 また鳥羽被告の供述調書からは、「園長先生はなんでも自分が正しいと思うタイプで、上から目線。挨拶をかわすのが精いっぱいだった」という人間関係も明らかになりました。「園長先生がリモコンキーでバスのロックをしたので、当然、園長先生が降車確認をして鍵をしめたものだと思った」という供述があったということです。

三輪紀子弁護士

Q.福岡にしても静岡にしても、これだけ気持ちが苦しい事件はないですね。
(三輪紀子弁護士)
「本当にそうですね。ニュース見ているだけでも、すごくつらいですね」

Q.ここで園長と保育士の人間関係を言われても、と思いませんか?
(三輪弁護士)
「それはそうなのですが、ただ私が話を聞いて思ったのは、一般論ですけど、組織の中でヒューマンエラーが起きるときは、1人の人に対する負荷が大きいときとか、あるいは部下が上司になかなか言えないとか、風通しが悪い組織のときに、やはりエラーが起こるので、そういう背景も一緒に明らかになって、こういうミスを防ぐためにはどういう組織づくりをすればいいのかということを、考えていかなくてはいけないなと思います」

相次ぐ“バスに置き去り”防ぐには…国が緊急対策を取りまとめへ

沖縄・自治体の運営バスで置き去り(9月16日発生)

 9月16日、沖縄県糸満市で、市が運営する10人乗りのバスの中に、小学生が置き去りにされました。このバスは予約制で事前に乗客が乗り降りする場所を指定するもので、運転手の手元にあるパネルで乗客の乗降を管理していたということですが、運転手はパネル操作を誤り、小学生が降りるはずの場所を通過。さらに、降りていないにもかかわらず「降りた」と操作し、車内を確認せず、バスを施錠したということです。小学生は車内で寝ていましたが、置き去りに気付くと携帯電話で母親に連絡。クラクションを鳴らすも周囲に気付かれなかったため、自力で窓を開けて外に脱出、近くにいた別の運転手に保護され、ケガはなかったということです。運転手は出勤停止、運航会社には市が厳重注意しています。

“送迎バスに置き去り”の問題点とは

 相次ぐバスへの“置き去り”を防ぐため、関係府省は会議を行っています。この会議に出席した、子どもを巡る社会問題に詳しい、認定NPO法人フローレンス会長・駒崎弘樹氏は、「人の注意力やマニュアルに頼る安全管理が問題点で、注意喚起やマニュアル整備指示だけでは今後の事故は防げない。また送迎バスの公的支援が不足しており、送迎のための補助金が十分ではない。置き去り防止装置の補助金がない」ことなどを問題点として挙げています。

 また海外と比べると、日本では保育士1人当たりが受け持つ児童数が多く、そもそも人員が不足しているということがあります。日本の保育士1人当たりが受け持つ児童数は、3歳児だと20人、4歳以上だと30人ということに対して、例えばドイツであれば3歳児・4歳以上であっても9人と、日本はかなり負担が多いことが分かります。

「置き去り防止装置」の設置の義務化も提案された

 人はミスするものという前提で、「送迎バス置き去り防止装置」の設置の義務化も提案として挙がりました。置き去り防止装置には、韓国で義務化されている「置き去り防止ブザー(バス後部に設置され、押さずにエンジンを切るとアラームが鳴るシステム)」や、「座席クッション型アラーム」、アメリカなどで使用されている「人感センサー(呼吸時の胸の小さな動きも検知し、ショートメッセージで置き去りを通知する装置)」などがあります。

Q.予算が少ないと言っても、こういう所にまず割くべきですよね。
(三輪弁護士)
「絶対にやるべきです。他にも車内カメラを設置するという案もあります」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年9月26日放送)

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