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北朝鮮が「火星17」発射か?

【独自解説】相次ぐ北朝鮮ミサイル発射に専門家「抗議ではない、軍事力を増強している過程」ICBM級がEEZ内に着弾…その背景とは

 11月18日午前10時過ぎ、北朝鮮がICBM(=大陸間弾道ミサイル)を発射したと韓国軍が発表しました。ミサイルは約1時間飛行し、北海道の西側EEZ内に落下したとみられます。これは北朝鮮の想定内だったのでしょうか?このミサイルはどんな意味を持つのか、朝鮮半島情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授と、軍事評論家の黒井文太郎氏が解説します。

「火星17」発射成功か?今回のミサイル発射が持つ意味

11月18日午前に発射されたミサイルの概要

 11月18日午前10時14分頃、北朝鮮の西岸付近から発射されたミサイルは午前11時23分頃、北海道の渡島大島の西側約200kmのEEZ内に落下しました。ICBMとみられ、距離は約1000km、高度は約6000km、飛行時間は約1時間9分でした。落下した場所は、日本のEEZ排他的経済水域内で、北海道の渡島大島の西方約200kmの日本海に落下したということです。

極めて酷似?3月発射のICBM

 今回のミサイルは2022年3月に北朝鮮が発射成功と主張した、新型ICBM「火星17」と酷似しているということです。北朝鮮は、この発射成功をプロモーションビデオで世界に配信していました。当時の岸防衛大臣は「通常の軌道で発射された場合、弾頭の重さによっては距離が1万5000kmを超えて、アメリカ全土が射程に含まれる」と話していました。

軍事評論家 黒井文太郎氏

Q.3月に発射されたICBMに、距離・行動・飛行時間が似ているということなのですが、成功した、失敗したというのはどこで判断するのでしょうか?
(軍事評論家 黒井文太郎氏)
「距離をどれだけ飛んだか、ということです。北朝鮮は3月24日に「成功」と言ったミサイルの1週間前に『火星17』も発射していて、それは失敗しています。3月24日は、恐らく1つ前の小さいミサイル『火星15』を、『火星17』をフルパワーで飛ばしたときに、『恐らくこのぐらい飛ぶだろう』と想定して飛ばしたのだと思います。『火星15』の弾頭は通常1tぐらいのものを積んで飛ばしますが、それを空にして飛ばした、というふうに米韓では見ています。今回は恐らく、まだ一度も成功していない『火星17』をフルパワーで撃って、成功させたという可能性が高く、3月に失敗した『火星17』を、今回初めて成功させたという意味合いが強いと思います」

「火星15」と「火星17」の違い

 「火星15」と「火星17」の違いについて、黒井氏は「飛距離・大きさなどすべてにおいて『火星17』の方が強力。特に多弾頭化の可能性があるため、威力が大幅にアップしている」ということです。

Q.今回の「火星17」の発射は成功と言えるのでしょうか?
(黒井氏)
「恐らく、成功と言っていいと思います」

龍谷大学 李相哲教授

Q.北朝鮮が「火星17」の発射に成功したということは、いよいよ核実験や核の小型化に進んでいくことになりますよね?
(龍谷大学 李相哲教授)
「一連の動きを見ると北朝鮮は強い意志を持って、ひたすら核システムの完成を急いでいるという状況です。この間、失敗したことを挽回する形で、こんなに早くミサイルを撃ったということは、
『世界が何を言おうが、我々は我が道を行く』という姿勢を明確に出したと思います」

Q.EEZ内には想定して落としたのでしょうか?
(黒井さん)
「今回も予定通りの場所に落としている可能性が高いと思います。これまでの実験も、ほとんど北朝鮮側の狙ったところに落としていることが多いです」

Q.北朝鮮のミサイル開発は我々が思っている以上に実は進んでいて、人民を犠牲にしてミサイルを作って、必死に一発一発打ち上げているという感じではなくなってきていますよね?
(李教授)
「そうです。世界は、金正恩総書記が実験に成功するのを待っているかのような対応をしていますが、ここが間違いです。金総書記からすると、昨年の5か年計画でも『様々な核兵器を開発する』と宣言しています。今日のICBMを見ていると、また一歩進んでいるという状況です」

Q.これだけの頻度でミサイルを撃つのは、もうアメリカと交渉したいというのではなく、体制維持のために核を持つのだという強い意志なのでしょうか?
(黒井氏)
「そうです。北朝鮮自身もそう説明していますし、米韓の演習が8月の終わりくらいから続いたので、それを口実に使っているんです。こういった技術は、急にできるわけではないですから。北朝鮮の中ではもともとそういう計画があって、9月からミサイルを撃ち始めて今回に至るのですが、最後は核実験に至るまで、エスカレーションの計画通りのことをやっているのだろうと思います」

Q.我々は北朝鮮にとって米韓のステルス戦闘機などが脅威だから北朝鮮が抗議していると思っていますが、北朝鮮としたら米韓の軍事演習の抗議というのを利用しているのですか?
(李教授)
「その側面が強いと思います。彼らは軍事作戦と称しており、『今回の軍事作戦は勝利に終わった』と言っていて、今回またICBMを撃っているのは、さらなる技術向上のためにやっているんです。我々は政治的にこのような動向を見がちですが、実はひたすら軍事力の増強をしている過程です」

「Jアラート」は鳴らず…今後必要な日本の対応は?

「Jアラート」が鳴らなかったワケ

 今回は「Jアラート」が鳴りませんでしたが、その理由について松野官房長官は、「ミサイルが我が国の上空を通過して落下物の可能性がある場合や、我が国の領土に被害が生じる場合などに『Jアラート』を発出することにしている。今回については、周辺を航行する漁船などに対して、危険性を知らせる必要があるため海上保安庁が必要な情報を発出した」ということです。

Q.船の近くに落ちて船が転覆するということもありますよね?
(李教授)
「北朝鮮の船であれば彼らの問題ですが、もし日本の船に被害が及んだときに、日本がどのように対処するのか、そのようなマニュアルを日本が持っているのかは非常に疑問ですね」

岸田首相は「断じて容認することができない」(11月18日午前)

 今回のミサイル発射について、タイ・バンコクを訪問中の岸田首相は「北朝鮮はこれまでにない頻度で挑発行為を繰り返している。断じて容認することができないと、改めて強く申し上げる。北朝鮮の完全な非核化に向けて、日米・日米韓で緊密に連携をしていかなければならない」としています。

Q.不規則に飛ぶミサイルについて、日本は迎撃できるのでしょうか?
(黒井氏)
「北朝鮮が作った低い軌道を滑空しながら飛ぶミサイルに関して、今はイージス艦では落とせない状況です。ただ、アメリカでそういったものに対する、ミサイル防衛の技術開発をしていますので、将来的に完成した場合には、速やかに日本も取り入れるとして、今からその準備の議論が必要だと思います」

Q.多弾頭になっても落とせるのですか?
(黒井氏)
「ミサイル防衛をどれだけ厚くできるか次第です。多弾頭化されると分散されますから、非常に厳しいのですが、ミサイル防衛を強化して、例えば今の打ち方であれば低軌道ではないですから、多弾頭化もイージス艦で対処することは、ある程度はできると思います。あとは北朝鮮側の数と日本側の数の問題ということになります」

(「情報ライブミヤネ屋」 2022年11月18日放送)

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