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【独自解説】前年の約6倍!「熱中症疑い」の搬送者数が大幅増加 症状が似ている“新型コロナ”との併発も 最前線医師が“いのちを守る”対策を解説
2022年7月7日 UP
7月3日まで猛暑日が9日連続で続くなど、連日異常な暑さにみまわれた東京。6月の「熱中症疑い」の搬送者は、2021年同月と比べると約6倍となりました。さらに今、医療現場では熱中症と“新型コロナ”を併発する人もいて、その見分けは難しいといいます。熱中症、そしてコロナから身を守るにはどうすればいいのでしょうか?最前線でコロナと熱中症治療にあたっている、埼玉県の「ふじみの救急病院」、鹿野晃(かの・あきら)院長が“いのちを守る”対策を徹底解説します。
「災害級の暑さ」再来か?熱中症に注意 “新型コロナ”との併発も…
連日猛暑が続いていた東京、最高気温は平年と比べると非常に高く、7月1日には37℃を記録しました。6月28日~7月4日まで間に「熱中症疑い」で搬送された方は、気温が高かった7月1日に最も多く、1日で301人に上りました。また、熱中症での死者数は6月22日以降、46人(7月5日時点での速報値)に上るということです。亡くなったのは高齢者が多く、46人のうちエアコンを未使用だったという人は24人いました。
そんな中、日本救急医学会が6月28日に行った緊急会見では、「非常に短い梅雨の期間だったため、暑熱順化ができる(体が暑さになれる)前に暑い時期が来る危機的な状態で、熱中症患者が多く発生する」と警鐘を鳴らしました。“災害級の暑さ”と言われた、2018年の熱中症での死亡者数は1581人でしたが、今年は「災害の再来」が危惧されています。
Q.鹿野院長の病院にも、6月から熱中症の方が多く来ているのですか?
(ふじみの救急病院 鹿野晃院長)
「そうですね。例年であれば6月は週に1、2件程度熱中症の方が緊急搬送されてくるのですが、今年は1日で5~10件搬送されてきていて、こんな6月は初めてでした」
熱中症の症状はコロナの症状と似ているものが多いため見分けが難しく、中には両方にかかっているケースもあるといいます。ふじみの救急病院での事例では、30代の女性がトレイルラン(山道などを長距離走る)大会に出場し、炎天下で6時間を過ごし帰宅後、電力ひっ迫注意報が出ていたため、エアコンを付けずに就寝すると、翌日38度の発熱・頭痛・けん怠感が出たということです。熱中症疑いで救急搬送され、病院で念のためPCR検査を行ったところ、コロナの陽性と確認されました。この女性は大会の前に抗原検査を受けており、そのときの結果は陰性だったということです。
Q.この女性は大会前の抗原検査は陰性だったのにPCR検査で陽性になったんですね。
(鹿野院長)
「そうなんです。この大会出場前、前日の抗原検査は陰性で、その翌々日に運ばれてきていたのでコロナではないと思っていたのですが、念のためPCR検査をしました。『熱中症だから、家で冷やして水分とって様子を見て』と患者さんを帰した後に陽性という報告が来て、本人もびっくりしていましたね。我々もびっくりしました」
Q.昼に屋外に出ていた日、夜になって突然汗が噴き出してきたり、極端に言うと次の日の朝に立ちくらみしたりすることがあるのですが、時間が経ってから熱中症というのもあるのですか?
(鹿野院長)
「そうですね、じわじわと脱水症状が進んで、その脱水で例えば脳の血流が悪くなれば、頭痛や吐き気がしたり、胃腸の血流が悪くなれば下痢になったり、腹痛が出たりします。特に夜になってエアコン消すと、建物がまだ熱いので室温が急に上がって汗をかきますが、脱水状態なのでそのうち汗が出なくなって、体を冷やすことができなる、といった具合に時間差で熱中症を発症するということはよくあります」
Q.「熱中症疑い」で運ばれてきた患者にもコロナの検査を行うのですか?
(鹿野院長)
「はい。合併している人もそれなりにいるので、発熱のある患者さんは両方を疑ってかかります。エアコンをつけていなかったなど熱中症を疑うようなエピソードがある方で、コロナの検査が陰性なら熱中症、陽性なら熱中症とコロナの両方、熱中症を疑うエピソードがない方で陽性であればコロナというような診断になります。今はコロナの市中感染が増えていますし、検査せずに帰すということはまずないです」
Q.東京でのコロナ感染者数は17日連続で前週を上回っていますが、先生の病院では今は医療ひっ迫ということは起きていますか?
(鹿野院長)
「入院して治療しなくてはならない中等症以上の患者さんは、じわじわ増えているという感じで、今はそこまでひっ迫はしていないです。ただ、その状況に合わせて病院側のコロナ病床の分母を大きく減らしているんです。またコロナが増えてくると、病床を増やしてフェーズを上げていくのですが、あまりにも早く患者が増えてしまうと、病床が足りないということが起こり得ます。今のところは特に重症病床に関しては余裕があるという状況です」
Q.もし、感染者が増えても重症化する人が少ないということになった場合は、変異しているウイルスが弱毒化して生き残ろうとしているのか、ワクチン接種の効果なのか、先生はどう思われますか?
(鹿野院長)
「それは、両方の側面があると思います。そして忘れてはいけないのは『重症者の定義』で、人工呼吸器を付けたり、ECMO(エクモ)を付けたり、ICU管理をしている方を重症とするコロナの症状の分類がありますが、高齢の方は積極的な延命治療は希望されないので、コロナの症状の分類でいくと軽症のまま、食べられなくて亡くなっていく方がそれなりにおられます。患者層に延命治療を希望しない高齢者が含まれていないので重症者数が少なく見えているという面もあります」
Q.コロナの感染者数は増えている中、これからもっと暑い7月・8月を迎えますがマスクはどうするべきなのでしょうか?例えば保育園や幼稚園によってはスペースが狭い中でマスクを着けていないとなると全員が濃厚接触者になって休園になる場合もあって現場で困るという声も聞くのですが?
(鹿野院長)
「実際に病院の周りの教育施設でのクラスターや高齢者施設のクラスターは連日のように起きています。かといって、マスクをつけると今度は熱中症が心配です。今年は、例年に比べて若い方が多い、とりわけ小学生など小さいお子さんの率が高いです。小さいお子さんは地面からの照り返し、輻射熱の影響も大きいので、急激な暑さで熱中症になって運ばれてくるという若い方が明らかに増えています」
Q.マスクをしていた場合は濃厚接触者にならないが、マスクをしていない場合は濃厚接触者になるという線引きは非常に難しくないですか?
(鹿野院長)
「そうですね。ただ、オミクロン株になってからは、前のように『マスクなしで15分以上1メートル以内で話をしていた人が濃厚接触者』というような定義はあまり使われなくなっています。同居の家族は濃厚接触者で、それ以外は追えないし追わないと。もう自己申告制のような形になっていますね」
この夏の熱中症対策は? “クーラー病”にもご注意!
暑い日に熱中症を防ぐための対策はどうしたらいいのでしょうか?神戸女子大学の平田耕造名誉教は“手のひら冷却”が有効だとしています。手のひらや足の裏などにある血管、AVA(動静脈吻合)は体温調整の役割を担う血管で、熱くなった血液を体の中から表面に運び出して逃がすという働きをするということです。手のひらを冷やす時は、冷たすぎると血管が収縮して熱を逃がしにくくなるので、12℃~15℃程度の水で冷やすのが効果的だということです。ペットボトルなどを握ったり、水を流しながら溜めた洗面器などに手を浸けるとよいということです。
Q.手のひらを冷やすというのもかなり有効なんですね?
(鹿野院長)
「そうですね、手のひらは血管の塊みたいなものなので。ただ、これをやってしまうと仕事などもできないので、太い血管が走っている3つの首である、首・手首・足首を冷やす、現実的には首周りが手軽に冷やせるかと思います。今、首回りを冷却するおしゃれなものも2000円ぐらいで売っています。うちの子たちもそういうのを今年から使い始めていて、街中でも見かけるので、やっぱりそれだけ皆さん暑くて、対策されているんだなと感じますね」
その一方でクーラー病にも注意が必要だといいます。クーラー病というのは、冷房の効いている場所と効いていない場所を往復したり、冷房が強すぎる環境で長時間過ごすことで起こる体の不調で、主な症状は頭痛、けん怠感、めまい、不眠、食欲不振、肩凝り、疲労感、下痢や生理不順などがあげられます。原因は気温差によって自律神経が乱れ、体温調節がうまくいかなくなることで、自律神経でコントロールできる温度差は5℃程度だと言われています。
Q.宅配業者の方は、クーラーの効いたマンション入って、すぐまた暑いところに出ていくのを繰り返すので苦労されているようですね?
(鹿野院長)
「そうですね。自律神経でコントロールできる5℃以内の温度差といっても、気温が35℃を超えてくると、エアコンの温度を30℃にするというのはやはり高すぎますので、もうクーラー病を防ぎにくい猛暑になってきていますよね」
そんなクーラー病を防ぐための対策は、クーラー設定温度を25℃~28℃にする、湿度を下げる、風向きに注意をするなどがあげられます。調整しやすい服装にしたり、寒いと感じる前に温かい飲み物を飲むことや、シャワーで済まさずに湯船につかることも有効だということです。
Q.暑いですけど、湯船につかるのはいいのですか?
(鹿野院長)
「はい。半身浴でも効果はあると思います」
Q.若い人は暑くて高齢の方は寒いという適温と感じるの温度にも差があると思うのですが、高齢の方は暑さを感じにくいこともあるので、寒い場合に何かを羽織るというのが正解なんですか?
(鹿野院長)
「そうですね。暑い人が服を脱ぐにも限界がありますので、適切な熱中症を防ぐような温度にして、それでも寒い方に関しては羽織っていただく、ひざ掛けをかけていただく、あるいはパーテーションで直接風が当たらないようにするなど、熱中症もクーラー病も予防可能なものなので、ケースバイケースで工夫して防いでいただければなと思います」
Q.節電も呼びかけられていますけど、今年は災害級に暑いので、やはりエアコンを適切に使うのが大事ですね?
(鹿野院長)
「そうですね、特に、高齢の方はエアコンがもともと嫌いな方がおられるので、そこは守ってあげられる家族の方がチェックをして、管理しなきゃいけないと感じます」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年7月5日放送)


