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日本人医師が明かす、中国の医療現場の実態

【独自解説】中国コロナ感染爆発を現地で体感した医師が明かす医療現場の現実「40人体制が3人に」「洗面器で点滴」人も物も足りない非常事態

 3年続いた“ゼロコロナ政策”終了で、感染が爆発している中国。1月21日から春節の大型連休に入り、のべ21億人が移動する見込みと、さらなる感染拡大が懸念されています。日本への影響はあるのでしょうか?中国で7年勤務し、“ゼロコロナ”緩和後の感染爆発を現地で経験した、医師の友成暁子さんが中国の“コロナ”感染による医療の実態を解説します。

感染者9億人以上、死者数60万人以上か

感染者数は9億人以上か

 1月13日、中国メディア『経済観察網』は、「北京大学の推計では、中国全土で総人口の6割を超える9億人以上の感染があった。これは過去3年間の全世界の感染者の合計を超える数字」と報じました。しかし、現在この記事は削除されています。

上海「パークウェイ医療」 友成暁子医師

Q.“ゼロコロナ”政策が緩和されて、ものすごいスピードで感染者が増加したということですが、これはオミクロン株なのですか?
(上海「パークウェイ医療」 友成暁子医師)
「そうです、オミクロン株です。今発表されている内容では、BA.5とBA.7の系列が流行っているということです。9億人という感染者数の推計は、この時点では正確だったと思います。この情報は削除されていますが、今でもSNS上で簡単に見つけることができますので、本気で隠そうとしているわけではないように感じます」

Q.規制が緩和されて、友成先生の周りでもあっという間に感染したという印象ですか?
(友成医師)
「はい、そのとおりです。10日くらいで全員が感染するようなかたちで、非常に感染力が強いのだと実感しました」

公表された死者数に疑惑

 さらに1月13日、中国疾病予防コントロールセンターは、これまでは「38人」と報告していた12月8日~1月12日までの死者数を、「5万9938人」と発表しました。ここまで大きく人数が変わった理由として、死者数に換算する死因がこれまでは「呼吸不全」のみだったところ、現在は「呼吸不全」に「基礎疾患の症状」を加えたことで、人数が増えたのではないかといわれています。

 しかし、この死者数にも疑惑がもたれています。イギリスの調査会社「エアフィニティ」が1月17日に発表した、先月以降の死者数の推計は60万8000人で、当局発表の約10倍にあたります。

Q.死者数は約6万人と中国は発表していますが、現場にいらっしゃった実感はどうですか?
(友成医師)
「これは統計の取り方、どこまでを定義とするのかということで、実際に死者数が38人の時期は、『肺炎像がないとカウントしてはいけない』という中国が決めたルールがありましたので、その中に当てはまっていたのは事実上38人だったと思います。今は『呼吸不全』と『基礎疾患の症状』と少し広がりましたので、約6万人という可能性はあると思います。しかし、ご自宅で亡くなった方をカウントしていくというのは非常に困難ですし、地方になればなるほど病院に行かずに亡くなった方が多くいらっしゃいます。感染者数が9億人という推定や、今までの世界的なデータを見て、かつ体感的にも、死者数が約6万人というのは少ないのではないかと思います」

Q.“コロナ”は感染を繰り返せば繰り返すほど変異をしていきますが、中国は人口の桁が違いますし、多くの人が移動すると変異も当然しやすくなるのではないですか?
(友成医師)
「その可能性はもちろんあると思います。今警戒しているのはXBB株で、中国国内では16例が確認されていますが、これに警戒を強めていて、政府からも色々な対策の指示が出ていますので、できるだけ株を混ぜずにコントロールしていこうという思いはくみ取れます」

“ゼロコロナ”緩和で感染爆発、すでに医療崩壊も

“ゼロコロナ”緩和の経緯

 12月7日、当局が“ゼロコロナ”緩和を発表すると、12月7日~12月10日頃に経済活動が活発化し、上海駅などは多くの人で混雑しました。これによって感染の拡大が始まります。12月19日には、上海市の学校がオンライン化され、感染への懸念から外出控えが起こり、上海市中心部は人々の姿が見えなくなって街は閑散としていました。しかし、12月20日には軽症・無症状の陽性者は出勤可となり、12月25日には政府が感染者数の公表を中止しました。

Q.外出控えもあると思いますが、感染者が急激に増え自宅療養の人も多くなったことで、街に人がいなくなったのでしょうか?
(友成医師)
「そのとおりです。恐らく、感染してしまって具合が悪くなって外出できない方が8割ぐらい、2割ぐらいの方がまだ感染していないので、できれば感染したくないといって外出控えをしていた、という形だと思います。どちらかというと、感染によって外に出られないという方のほうが多かったと思います」

Q.中国の方ももちろんマスクをして、距離もとっていたと思いますが、それでも感染するというのはすごい感染力ですね?
(友成医師)
「そうですね。イメージとしては、日本と同じような形でマスクをしっかりしているとイメージしていいと思います。非常にマスク文化が根づいていて、例えば地下鉄などは、法律上マスクを着けていない人は乗れないというぐらい、推奨ではなくて縛りとしてやっていますので、もしかすると日本よりもしっかりマスクを着けていたという可能性もあります。それでも、これだけ感染してしまったということです」

「パークウェイ医療」の状況

 上海「パークウェイ医療」は、市内に4つのクリニックと1つの有床病院を持っています。友成医師が勤務するクリニックは非コロナ外来が担当で、本来は1フロアに医師10人、看護師20人、受付10人の40人体制ですが、12月下旬の感染拡大によって1フロアがわずか3人体制になってしまったということです。そして有床病院では、当初入院病床の一部を“コロナ”専用にして使用していましたが、ピーク時は入院病床を全て“コロナ”専用にして使用したということです。

Q.上海はすでに医療崩壊を起こしてしまったというイメージですか?
(友成医師)
「人手が足りなくなって、深刻な状態になったというのは、当院に限らずありました。『医療者は陽性になっても出勤可能』という通達が、一般の方に対してよりも早く来ていたので、3人で1フロアになってしまったというのは実は1日・24時間ぐらいで、次の日は陽性になって一応回復したと、非常にせき込みながら出勤していたようなスタッフでなんとか回していました。抗原検査で陰性になったかどうかは確認していません。一般の病院も同じで、とにかく崩壊させないように、医療者が献身的になんとか支えたというような状況がしばらく続いていました」

Q.SNSには、病院で勤務されている方が疲労困憊で倒れるというような投稿が見られましたが、一時は眠れないような状況だったのでしょうか?
(友成医師)
「1週間家に帰れず、子どもにも会っていないという友人もいましたし、医療施設の物自体もどんどんなくなっていって、洗面器の中に点滴の中身を入れてなんとか持っていくだとか、もう身の回りにある物も人も足りなくなっていましたので、なんとか回すというような状態ではありました」

衛生当局からの通知

 そして1月13日、衛生当局から①7日以内の海外渡航歴がある陽性者は、指定病院に搬送せよ。②渡航歴がある陽性者は、鼻の奥から検体を採取せよ(通常は喉)③検査で強陽性の場合、速やかにゲノム検査に検体を提出せよ。という通達が届きました。この通達の狙いについて友成医師は、「XBBへの警戒を強めている」とし、「渡航歴がある陽性者の囲い込み、さらに鼻からの検体採取とゲノム検査というのは、変異株検査の手段そのもの」と言います。

Q.海外の渡航歴のある人たちを今後、検体としてみるということになるんですか?
(友成医師)
「そのとおりです。“ゼロコロナ”時代には、ほぼ毎日皆さんPCR検査をしていましたし、私のような医療従事者は、24時間ごとにPCR検査をしていましたが、一般的に採るのは喉なんです。理由としては、喉のほうが不快が少ない、早い、誰でもできるということがありますが、鼻のほうが検体としてはごまかしが利かない面もありまして、本来ならば鼻からの検査のほうがいいんです。たくさんの人数をやらなければいけなかったので喉からとったという面もあるのですが、今回は指定で、鼻咽頭からしっかりと検体を採取しなさい、ということで、本気度がうかがえます。また、検査である程度のカットオフラインを越えてきたものに関しては、ゲノム検査をその場ですぐにしなさい、ということで、7日以内の海外渡航歴がある陽性者は、そのようなゲノム検査ができるような大きな病院にすべて搬送してください、という指示が出ています」

Q.海外の渡航歴のある方を調べるのは大事だと思いますが、国内で21億人もの方が大移動すると、国内での変異というのも考えられますが、そこはいいのでしょうか?
(友成医師)
「そこに関しても、もちろん警戒はされているとは思います。どのようにしていくかは、はっきりは分かっていませんが、陽性になった入院患者に関しては、PCR検査の検体でゲノム検査もされているとは思います。ただ現段階では、発表としては新しい変異株は出ておらず、当初どおりBA.5とBA.7が大多数というふうに発表されています」

中国“第2波”で「1日480万人感染」の予測

“第2波”到来の予測

 1月17日、劉鶴副首相は「中国での“新型コロナ”の感染ピークは過ぎた」としていましたが、イギリスの調査会社「エアフィニティ」は、「中国では1月末に第2波が来る」と発表しています。このピークの際には、「1日約480万人が感染し、約3万6000人が死亡する」と予測をされています。さらに、「一部の省では集中治療室の病床数の6倍の患者が出る可能性がある」とまで発表されています。

Q.中国でのワクチン接種は、2回ぐらいしか受けておらず、3回受けた方は少ないと聞いていますが、どうなのですか?
(友成医師)
「そのとおりです。2回接種率はかなり高いと思いますが、3回目の接種が始まろうというときに、ロックダウンが中国全土で始まって、ほとんどの方が家から出られなくなってそこで止まってしまい、3回目を接種しないまま、ゼロコロナ政策が緩和されたという側面はあります」

Q.日本では今“第8波”と言われていますが、中国でも“第2波”で終わるはずもなく、波を繰り返していくのでしょうか?
(友成医師)
「中国政府としても、そのように考えてはいると思います。ただこの第2波が、『エアフィニティ』が発表したタイミング通りに来るとなると、まだ医療設備や医療者も回復していない状態で来てしまうという、かなり厳しい状態にはなりますので、後ろ倒しにしたいと考えているとは思います」

Q.地方では医療体制が脆弱だといわれていますが、春節で地方に帰った人が様々なものを都会に持ちかえる可能性はありますよね?
(友成医師)
「そうですね。地方のピークが思ったよりも早く来ていますので、ピーク自体はもう越えているのではないかと公式発表でも言っています。実際の国内での体感としてもそう思いますので、医療情勢に関しては、お薬を持って帰るキャンペーンなどで、意外とカバーできてしまうのではないかと思います。ですが、やはりものすごい人数が移動しますので、やってみないと分からないというのはあります」

(「情報ライブ ミヤネ屋」 2023年1月20日放送)

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