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最愛の妻へ綴るラブレター

【独自取材】“妻に感謝の手紙を書きたい”読み書きできなかった男性が定年後『夜間中学』へ しかし、4通目のラブレターは棺桶に…「今度生まれ変わったら、また君と出会いたい」映画のモデルになった男性が語る感動の実話

 2025年3月に公開された映画『35年目のラブレター』。読み書きができないまま大人になった男性が、支え続けてくれた妻に感謝を込めたラブレターを書くため夜間中学で学び直し、奮闘する物語です。今回、その映画のモデルとなった西畑保さん(89)を独自取材。心温まる感動の実話と、突然訪れた悲しい別れ…。西畑さんにとって、夜間中学とは―。

■近年需要急増、再び注目を集める『夜間中学』

夜間中学の需要が急増

 『夜間中学』とは、もともと戦後の混乱期の中で義務教育を受けられなかった人の教育の場として設置されたもの。公立の場合、授業料は無償で、授業は平日の夕方から週5日。全ての課程を修了すれば、中学校卒業となります。

 ピーク時の1955年には全国で89校ありましたが、時代の変化とともに、その数は減少。2015年には、31校となっていました。しかし近年、夜間中学の数は再び増加し、今年度は62校と、この10年で倍増。2025年は岡山県・石川県・愛知県など8県で、9つの夜間中学が開校されました。

 2024年の文科省の調査では、不登校の小中学生は約34万6000人と、過去最多に。また、在留外国人も、2024年末に約377万人と、過去最多となっています。不登校のまま卒業した人が学ぶためや、母国で義務教育が受けられなかった外国人が学ぶためなど、夜間中学の需要が増しているといいます。

■「妻に感謝の手紙を書こう」読み書きできなかった男性は、定年後に夜間中学の門を叩いた

映画のモデルになった西畑保さん(89)

 学び直しに年齢制限はなく、学びを求める人の中には、高齢者も多くいます。

 映画『35年目のラブレター』でも、主人公は定年退職してから夜間中学に入学しました。今回お話しを伺ったのは、この映画のモデルになった西畑保さん(89)です。

読み書きができないまま大人に

 西畑さんは小学校のころ、その貧しさからいじめられ、小・中学校には通わず、働くようになったといいます。読み書きができないまま大人になり、35歳で結婚。妻・皎子(きょうこ)さんは、読み書きのできない夫の手となって、支え続けました。

夜間中学に行くことを決心

 やがて西畑さんは、“ある決心”をします。

(64歳で夜間中学に入学・西畑保さん)
「定年になった時、妻に迷惑をかけたから、これは勉強せなあかんなと思った。妻に『お父ちゃん、明日から何するの?』と言われたときに、『この4月から夜間中学に行く』と言ったのよ。ほんなら嫁はん、どんだけ喜んだか。泣いていたからね」

最愛の妻へ感謝のラブレターを

 一念発起し、64歳で夜間中学に入学することを決めた一番の目的は、“妻への感謝のラブレター”でした。

(西畑さん)
「妻に絶対、感謝の手紙を書こうと思った」

■『今度生まれ変わったら、又君と出会いたい』入学7年目で完成したラブレターに、妻は陰で涙

入学3年目、ようやく自分の名前が書けた

 しかし、その年齢から読み書きを覚えることは簡単ではなく、自分の名前が書けるようになったのは、入学して3年目のことだったといいます。

(西畑さん)
「住所と名前を書くようになったから、嫁はんに『名前が書けたよ』と言ったら、喜んでくれた」

入学7年目、ついにラブレター完成

 そして、学び始めて7年目、ついにラブレターを書き上げます。皎子さんに渡したのは、西畑さんが71歳のとき。結婚から35年目の、クリスマスのことでした。

(西畑さんが書いたラブレター)
『僕は君に、以前ラブレターを書く約束をしましたね。なかなか書く勇気がありませんでした。今年で、君と結婚して三十五年目になりましたね。君が、僕について来てくれたことを、感謝をしています。結婚して、半年ぐらいして、君は僕が読み書きを出来ないことが分かりましたね。その時君は、『お互いに頑張ろう』と言ってくれましたね。その言葉は今でも忘れません。君のお陰で今の僕があります。有り難う。これからもよろしくね』

(西畑さん)
「妻に渡したら、妻は喜んでくれたけど、『これラブレターと違うわ、手紙や』と言われてガクッとしたんやけどな、でも、陰では泣いていたらしい。『嬉しかった』と言って…」

クリスマスのラブレターが恒例に

 夜間中学で学んだことで、初めて文字で感謝を伝えることができた西畑さん。その後も、クリスマスに手紙を綴りました。

(西畑さんの書いたラブレター)
『君と初めて出会ったのは昨日のような気がします。孫に『じじ』と言われた時に出会って本当に良かったと思いました。これからも二人で一日でも長生きしたいですね。今度生まれ変わったら、又君と出会いたいです』

■『一日でも君と一緒にいたい』叶わなかった思い胸に…人生を変えた夜間中学との出会い

最愛の妻と突然の別れ

 しかし、2014年12月。この年も手紙を用意していた西畑さんでしたが、入浴中の皎子さんに、異変を感じます。

(西畑さん)
「寝ているのかなと思ってパッと開けたら、風呂で亡くなっていて…。4通目のラブレターは渡さないで、棺桶の中に入れました。『ありがとうな』『これからいつまでも仲良くやっていこうな』とか、『これから何年生きられるかな』『一日でも君と一緒にいたいな』とか、そんなことを書いた記憶があります」

最後まで目いっぱいの感謝を…

 最後の手紙にも、目いっぱいの感謝の言葉をしたためていた西畑さん。

(西畑さん)
「ほんまに、俺を助けてくれて、ありがたい。『天国で待っててや』って、それだけです。今の幸せは、妻のおかげです」

2020年、84歳で卒業

 皎子さんを亡くした後も、2020年に84歳で卒業するまで、学校に通い続けました。

 人生を変えたという夜間中学について、西畑さんは―。

(西畑さん)
「自分が字を知らないと言わない人も、隠している人もいっぱいいると思うのよ。若い人でも、どんな人でも、恥ずかしがらんと夜間中学の門を叩いてほしいね。夜間中学に出会って、100%幸せです」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年4月11日放送)

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