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【独自解説】“最後の調停官”と呼ばれた男、数々の世界紛争を解決に導いた「国際ネゴシエーター」が語る!難しい相手との交渉の極意と、ウクライナ停戦協議の突破口
2022年4月23日 UP
ウクライナ侵攻という悲劇の中、水面下では今、“大国の思惑”が交錯しています。暗礁に乗り上げたかに見える停戦協議は、今後進展するのでしょうか?元・国連紛争調停官で、「この人が来れば調停は終わる」という意味で“最後の調停官”と言われた、島田久仁彦さんが解説します。
アナン国連事務総長からも学んだ「交渉術」
島田さんは大阪府の生まれで、高校時代に環境問題に興味を持ち、同時に国連にも興味を持ったと言います。その後、大学時代にCOP3(第3回気候変動枠組条約締結国会議)にアシスタントとして参加して“国連の夢”を実現しました。「紛争と環境問題は人類普遍の問題だ」と言い、1998年から国連紛争調停官として国連に勤務しています。今までコソボ紛争やイラク紛争などの解決に関わっています。
Q. 国連紛争調停官になったきっかけは何ですか?
(元・国連紛争調停官 島田久仁彦さん)
「国連に入ったときに、食事の席にセルジオ・デメロ氏が来られて、その後『お前は面白い。お互いとても好きになるか、嫌いになるかのどちらかだけど、一緒にやってみないか?』と言われたのが、チームに入ったきっかけです」
セルジオ・デメロ氏は21歳でUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に入所して、世界中の紛争地で停戦協定などに携わりました。2002年からは国連人権高等弁務官に任命されましたが、2003年8月19日、イラクで国連事務所が攻撃を受け、亡くなりました。この8月19日は、「世界人道デー」となっています。
Q.デメロ氏から教えてもらった極意があるそうですね?
(島田久仁彦さん)
「『ためらわずに頭を下げる』ということです。『頭を下げるのはタダだから、頭を下げることでその場をしのげたり、得たい情報が得られたらこれほどいいことはない。無駄なプライドは捨てなさい』と言われました」
Q.旧ユーゴスラビアの独裁者のミロシェビッチ大統領(当時)が「自分の国民を生かそうが殺そうが俺の勝手だ」と言ったので、島田さんが「何を言っているんですか、あなた!」と怒鳴りつけたということですが、怖くなかったですか?
(島田久仁彦さん)
「怖かったですよ。噂を先に聞いていましたので、一国の大統領に対して怒鳴りつけてしまったときは、殺されるなと思いました」
Q. その後飲み友達になったという話を聞いたのですが?
(島田久仁彦さん)
「交渉の休憩時間中に、大統領執務室に誰もいなくなったんです。その時、茶色い液体が目に入って、『きっとこの人が飲むウイスキーはおいしいんじゃないかな』と思ってグラスに入れかけたら、ミロシェビッチ氏が戻って来て『お前は何をしているんだと』言うので、『一杯だけロックで飲もうかと思って…』と答えたら、『こういういいウイスキーはストレートで飲むものなんだよ』と、真面目に教えてくれて、このことをきっかけに関係が回復しました。案件が終わったときには、『わが友』と呼ばれました」
Q.アナン国連事務総長からも、学んだ交渉術があるそうですね?
(島田久仁彦さん)
「自分が予想していなかった話が相手から来ることがあるんですが、そういうときはとりあえず思いついた話をしておいて、話しながら考える、というものです。あとは、過剰に話す相手に対して、黙ってしまうことで、相手が『納得していないかもしてない』とか『怒っているんじゃないか』とか、いろいろ考えてしまう。すると、相手の方から情報を出してもらえる、ということも学びました」
島田流交渉術「相手との信頼度を測る」「全て話させる」
Q.危険なときも防弾チョッキを着ないと聞いたのですが本当ですか?
(島田久仁彦さん)
「危険なときでも防弾チョッキなどはつけません。それは相手を信用していないことになります。相手が懐に拳銃を入れていることもあります。そんな時、『重たいものは下して、落ち着いて話そう』と言うと、その拳銃をテーブルの上に置くんですが、そのときにどちらに銃口が向いているかで、相手の信頼度が分かります。私の方を向いていると、相手が取ってすぐ撃てます。逆だと私が取って撃てます。どちらに向くのかな、ということです」
Q.防弾チョッキを付けないと言えば、ウクライナのゼレンスキー大統領ですが、ロシアのプーチン大統領にはどう映っているのでしょう?
(島田久仁彦さん)
「『あいつやるな』と思っていて、『いつでも狙えるけれど、まだ殺してしまうには惜しい、まだ使える』と思っているのではないでしょうか」
Q.ほかにも交渉の極意があると聞いたのですが?
(島田久仁彦さん)
「10の交渉事があったら、一度10個全部話をさせるんです。1つずつ時間を決めて、時間が来たら切って、10個全部の交渉をします。決まるものは決めてドンドン進めます。全部終わると、結果7つくらいは合意しています。その後、残る3つを集中して話し合うんですが、合意できないときがあります。そういうときに『ここまで7つ合意しているのに、この3つはそんなに重要なんですか?この7つの合意を消すくらいなんですか?』と言うんです」
進まぬロシアとウクライナの停戦交渉…突破口は?
ロシアとウクライナの停戦交渉ですが、島田さんは「ロシア側が交渉で折れる可能性はない。プーチン大統領の話を聞こうとしている姿勢を大統領に認識させる必要があるが、誰もしようとしていない」と言います。
Q.いろんな人がプーチン大統領と交渉していますが、それらの人は何が違うのですか?
(島田久仁彦さん)
「皆さんそれぞれの立場を背負って行ってしまうんです。例えばフランスのマクロン大統領だと、完全にEU(ヨーロッパ連合)のメンバーで、NATO(北大西洋条約機構)の一員で、欧米の意見を持ちながら『私がまとめましょう。間に入りましょう』と言っています。そうではなくて、『プーチン大統領の意見を聞いてみたい。黙って聞くから言ってください』ということができるかどうかです」
Q.トルコのエルドアン大統領はどうですか?
(島田久仁彦さん)
「エルドアン大統領は、NATOともロシアとも緊張関係がありますので、良くも悪くもいい立ち位置なんですが、やりたいことが自分の失地回復なんです。ウクライナとロシアの間に入ることで『トッププレイヤーに返り咲きたい』ということが透けて見えるので、『適任者としてどうなのかな』と思います」
Q.アメリカのバイデン大統領の思いは?
(島田久仁彦さん)
「バイデン大統領のこの戦争への思いは、アフガン撤退での求心力低下の回復や、物価高に対する責任回避ができるというのもあります。最近アメリカの国防省が、『このウクライナとロシアの戦争は、あと1年くらい続くと思う』と言い出しました。下衆な言い方ですが、長く続くとアメリカの“軍需産業”も“エネルギー産業”も儲かるんで、中間選挙が“有利”になるんです。まさかそれを狙ってはいないですよね?と聞きたくなります」
Q.西側がウクライナを応援すればするほど、ロシアを追い詰めて戦争は長期化していき、生物・化学兵器や核兵器の使用の可能性まで出てきているのに、国連紛争調停官はなぜウクライナとロシアの間に介入しないのですか?
(島田久仁彦さん)
「紛争調停官が介入するには、関係国すべてが介入に合意しなければならないんです。ただ、ロシアの目から見ますと、今の国連はもう公平な中立的な立場ではないと映っています。全体を挙げて事務総長までロシア批判をしているという点で、ロシアはかたくなになっています。また、『まだ調停の人間を入れるタイミングではない、交渉は今ではない』とプーチン大統領が言っています」
Q.国連の組織改革やルール改革をしないと、いざというときに国連の機能は果たせないのではないでしょうか?
(島田久仁彦さん)
「国連憲章27条ですが、安全保障理事会の決議を出すにあたって、『常任理事国5か国を“含む”9か国以上の賛成が必要』とあります。本来、紛争当事国は棄権しなければいけないんです。ただ今回は、ロシアは“紛争当事国”でありながら、“常任理事国”でもあるので、権利としての“拒否権”を使って、すべて葬り去ってしまう。ここを変えないといけないでしょう」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月20日放送)


