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公開された3本の動画から見る北朝鮮の今とは━

【独自解説】“肌着姿”の金総書記に大混雑する百貨店…北朝鮮が新たに3本の動画を公開 内容から読み取る北朝鮮の思惑とは?

たて続けにミサイルを発射するなど、連日にわたって軍事的挑発を続ける北朝鮮ですが、最近、新たに3つの動画が公開されました。そこから読み取れる金正恩総書記の思惑や、北朝鮮の実情を龍谷大学の李相哲教授と読み解きます。

北朝鮮キッズユーチューバーが2か月ぶりに動画を投稿

登録者数約1万7000人 総再生数120万回超の「ソンアチャンネル」

 北朝鮮のキッズユーチューバーが2か月ぶりに動画を更新しました。今年1月に開設された「ソンワチャンネル」というYouTubeチャンネルで、すべて英語が使われていて、登録者数は約1万7000人、総再生回収は120万回を超えているチャンネルです。

ユーチューバーは11歳の少女

 ユーチューバーの少女はソンワちゃんという平壌在住の11歳で、外交官の父親と一緒にイギリスにいたため英語が堪能になったということです。また、曽祖父が金日成主席とともに独立運動を行った人物だったとのことです。このチャンネルは、金正恩総書記が海外に強硬なメッセージを送る続ける一方で、外国に対して「正常な国である」ことを演出するために朝鮮労働党宣伝扇動部などが主導しているのではないかと言われています。以前は、新型コロナに感染したときの様子や、金正恩総書記肝いりの大型プールの紹介、子ども病院の存在、マスクなしの小学校生活の模様などを紹介していました。しかし学業を理由に、ここ2か月ほどは新規投稿が止まっていました。

平壌の「科学技術殿堂」を紹介

 今回の動画で紹介されたのは、北朝鮮が「世界最上級」と称する平壌の「科学技術殿堂」という施設で、大きさは東京ドーム2個分だということです。動画の中では、VRのゲームをする様子や、風車を使った実験、3Dシアターを楽しむ様子などが紹介されています。10月28日にこの動画が公開されているのですが、その後、11月1日の労働新聞に「科学技術殿堂を中心に新しい科学技術を、中央から末端に至るまで普及させる」という朝鮮労働党の方針が発表されました。

龍谷大学 李相哲教授

Q.YouTubeでソンアちゃんが先に動画を公開して、その後に党が発表しているのですね。
(李教授)
「党の方針に沿って動画を作ったということですね」

Q.北朝鮮の人はYouTubeを見られるのですか?
(李教授)
「YouTubeを見ることはできません。内容も英語ですので、この動画は『北朝鮮がいかに偉大な国家か』を外国に向けて見せるのが目的です。また、社会主義国家は、自分の国がいかに良い国かを見せるために、よく巨大な施設をつくるのですが、結局それは一種の舞台のセットで全く実用性はないのです」

金正恩総書記の飾らない姿も…公開された100分の記録映画

市民のために奮闘する金正恩総書記のエピソードを紹介

 そして、10月16日に「人民の親」というタイトルの記録映画がテレビで公開されました。朝鮮中央テレビのアナウンサーは、「ただひたすら人民のために自身のすべてを捧げておられる偉大なる領導者、さらに偉大なるお父様のもとで暮らすことが、われわれにとってどれだけ大きな幸せであり、栄光であるかが感動的に綴られています」と説明しています。
 記録映画では、金日成主席・金正日総書記の功績も紹介されていて、この二人の遺志を継いで市民のために奮闘する金正恩総書記のエピソードを100分に渡り紹介しています。李教授は「“新型コロナ”に伴う国境封鎖などの影響で、市民に生活苦・食用不足などの不満がたまることに危機感を覚えて、今回の映画で『金正恩総書記は市民に寄り添っている』ということをアピールしたいのではないか」と分析しています。

金正恩総書記の“異例の姿”が…

 映画の中では、肌着のようなシャツで髪も整っていない金総書記の“異例の姿”が紹介されていて、金総書記の『人民の夢を全て叶えるまで私には休む権利がない』『自分には常に2つの望みがある。一つは人民が何一つ不自由のない豊かな暮らしをする共産主義理想郷を一日でも早く実現すること。もう一つは寝ることだ』という言葉が紹介されています。

(李教授)
「移動中や寝る間も惜しんで市民のために尽くしていることをアピールしているのだと思います」

児童養護施設では食器に関するエピソードも

 また別のシーンでは、金総書記が児童養護施設を訪問し、子どもたちが食事をする姿に喜ぶシーンが紹介されています。その理由は、半年前に同じ施設を訪問したときに、子どもたちが粗末な食器を使うのを見て『もし自分たちの孫が、そんな食器でご飯を食べていたら、皆は気分が良いか?』と幹部を叱責して、金総書記自身が一晩かけて直接新しい食器を選んだエピソードにあります。しかし、李教授は「本当に必要なのは、食器ではなく子供たちの栄養面だ。的外れなアピールだ」と批判しています。

Q.本当に児童養護施設が平壌にあるのですか?
(李教授)
「普通の幼稚園や保育園の可能性もあります。北朝鮮が出してくる映像はすべて演出だと見れば分かりやすいです。子どもたちの服装も普段着るようなものではなく、裕福な家の子どもが誕生日などに着るものです」

住宅問題に取り組む姿もアピール

 また映画の中で金総書記は、「人民が最も切実に望んでいる住宅問題を解決することが何よりも重要である」と語っています。朝鮮労働党は、『2025年まで平壌に毎年1万世帯の住宅を建設する』『新たに建設した住宅には、党の幹部ではなく、一般市民を割り当てる』と宣言しています。しかし実際は、朝鮮中央テレビの看板アナウンサーの李春姫氏など国の功労者に高級住宅をプレゼントしています。李教授は、「映画では市民優先とアピールしているが、実態は全くかけ離れている」と指摘しています。

Q.平壌に1万世帯といっても、平壌に住める人は限られている中で、平壌以外の話が出てこないのですが…
(李教授)
「平壌は舞台のセットだと思えばいいのです。例えば小学校にしても外国人が必ず見学に行く小学校があります。校舎なども外国人が見学するために作っています。しかし、北朝鮮の地方に行ったことのある人に聞くと、地方では地獄の亡者のような恰好をした人が出てきたといいます。着ているものもみすぼらしく、顔も暗く人間の様には見えなかったそうです。それぐらいみんな栄養失調になっていて着るものもままならない状態だということです。本当は地方の人の面倒を見るべきだと思います」

Q.そんな状態でクーデターなどは起こらないんですか?
(李教授)
「そんな元気はないのです。人民は少し空腹にしておいた方が、指導者が統制しやすいという理念が社会主義国家にはあって、昔、レーニンがそういうことを言っています。指導者は、人民を豊かにすると統制できなくなると考えています」

食料問題への対策は…

 また、映画の中で金総書記は、「我が人民の食卓を一日でも早く豊かにしてあげたい」と語っています。その対策は、①初伏という日本の土与の丑の日にあたる日に犬の肉料理を供給する②牛・馬・豚などの動物を育ててチーズ、バターの生産工場を建設する③スパークリングワインの生産をする④スパゲティを供給する、というものです。李教授によると「チーズ、スパークリングワイン、スパゲティなどは金総書記の大好物で、市民が本当に求めているのは、ジャガイモやトウモロコシなど一般的な食べ物だ」と指摘しています。

Q.金正恩総書記は、この対策が本当に正しいと信じているのでしょうか?
(李教授)
「金総書記も実態を知らないことはないと思いますが、部下があたかも今はそんなに困窮していないという演出をしているように思います」

Q.実際はどうなんですか?
「アメリカの農務省の統計によりますと、今年は昨年以上に食料事情は深刻だろうということで、チーズではなくトウモロコシがない状況です。この宣伝映画は実態とかけ離れています。これから厳しい冬に向けて、餓死者や凍死者が出るのではないかという情報もありますが、誰も地方に取材に行くことができないので、実態が見えません」

“偽ブランド品”も販売?北朝鮮の百貨店の映像では…

動画にはたくさんの商品が写るが…

 もう一つの新たに公開された動画は、10月19日に対外宣伝メディア「朝鮮の今日」に公開された「第13回平壌第一百貨店商品展示会」の動画です。そこに映る商品はすべて北朝鮮の技術と資材で作られたものだと紹介されていますが、そこには「シャネル」や「バーバリー」のように見えるカバンや形が「ディオール」ように見える香水があったり、日本の「アシックス」にそっくりな靴が写っていました。

Q.食べるのも困っているという状況で、これだけの多くの人が写っているのは、やはり演出なのでしょうか?
(李教授)
「北朝鮮は、理解できないこういう演出をすることが多いのです。それは『北朝鮮は困っていない。制裁をしても意味がない』ということが言いたいのだと思います」

Q.ちなみにこれらは本物なのでしょうか?
(李教授)
「偽物の可能性が高いですが、中国から来ている可能性もあります。しかし北朝鮮は、制裁を受ける前に年間10億ドル以上の衣類やカバン、靴などを作っていました。その時のデータなどが残っている可能性もあります。北朝鮮の人民は、手先が器用で教育水準も高く働き者なので作る技術はあるといえます」

サイバー攻撃で軍事資金稼ぎ?核実験のXデーは近いのか?

北朝鮮サイバー攻撃で過去2年に10億ドルを調達

 10月、アメリカの国土安全保障長官が「北朝鮮は過去2年だけでも暗号資産を盗むサイバー攻撃によって、総額10億ドル以上の大量破壊兵器計画の資金を調達してきた」と発表しました。北朝鮮のハッカー集団は「ラザルス」という名前で、情報機関である「偵察総局」の指揮を受けているのではないかと言われています。アメリカ企業の分析では、2022年の1月~8月までの間に合計1480億円を盗んだのではないかとのことです。10月14日には、日本でも「ラザルス」の被害が相次いでいるとして、警察庁が異例の名指しで注意喚起をしました。その手口は、企業の幹部を装い、従業員にフィッシングメールを送るなどの手口で、パソコンをウイルスに感染させて暗号資産を盗むというものです。

Q.ハッカー集団を育てて、このような手口で外貨を稼いでいるのですね。
(李教授)
「北朝鮮の工作活動の内容が変わってきていて、最近は、このようにハッカー集団を使ってお金を盗むというようなことをしています。それが、ミサイルを発射する資金源になっています。11月3日と4日までの2日間で、200億円くらい使っているのではという分析もあります」

Q.こういうハッキング行為は、どんな人がどこでしているのですか?
(李教授)
「中学校から天才少年を選抜して、工作機関を統括する偵察総局や中央機関が育成して、そのあと中国などの外国に拠点を作っていると思われます」

尹大統領「7度目の核実験の準備はすでに終えたものと判断」

 10月27日、韓国の尹大統領は、「北朝鮮の7度目の核実験の準備はすでに終えたものと判断している」と発言しています。韓国・国家情報院も北朝鮮が7度目の核実験に踏み切るとすれば「アメリカの11月7日の中間選挙まで可能性がある」と国会で報告しています。

Q.北朝鮮の核実験を中国が止めている可能性はありますか?
(李教授)
「中国が『共産党大会まではやめてくれ』と言った、という情報があります。ただ、中国も核実験自体は止められない状況です。ミサイル搭載用の核兵器はもう完成間近ですので、そこで北朝鮮が止めることは、まずないでしょう」

Q.支持率の下がった韓国の尹大統領が、支持率を上げるために北朝鮮対して強硬な手段に出て、両国が軍事衝突する可能性はありますか?
(李教授)
「その可能性はあります。先日北朝鮮が、朝鮮戦争の休戦後初めて海の軍事境界線にあたる“北方限界線”を越えて、3発のミサイルを撃ち込んできました。これに対して、韓国は通常は2倍の6発を撃ち返すのですが、今回は3倍の9発も撃ち返しました。こういうふうに少しずつエスカレートしてきている状況です」

(情報ライブミヤネ屋2022年11月4日放送)

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