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急増する『押し買い』の被害

【悪質】8時間居座り「家売って」相場より安く買い取る“押し買い”被害急増 契約後は取り消し困難?だまされないための防止策を専門家が解説

 近年、高齢者を狙った『押し買い』と呼ばれる悪質な不動産取引が急増しています。巧妙な手口の数々と、家を守るための予防策を、『不動産押買被害対策弁護団』の高木篤夫弁護士が解説します。

■高齢者を狙う悪質な訪問業者『押し買い』の様々な手口

住居を相場より安く買い取る『押し買い』

 近年、被害の報告が増えている訪問業者があります。それは『押し買い』です。

 『押し買い』とは、自宅を訪問してきた不動産業者が、その住居を強引に相場より安く買い取る行為です。

『押し買い』悪質な手口①

 『押し買い』の数々の手口を見ていきます。

 まずは80代の女性、Aさんの例です。築50年の東京都内のマンションに1人暮らしでした。2024年8月、2人の不動産業者の男性が訪問してきました。男性2人はAさんの自宅に8時間居座り、「マンションを売ってくれませんか」と話しますが、この時、Aさんは断りました。

 しかし、その後、男性らは様々な手法で説得し、Aさんは、あまり理解ができないまま、マンションを売却してしまいます。その売却額は1000万円。しかし、あとで調べてみると、相場は2500万円でした。契約後に被害が発覚し、現在は係争中だといいます。

悪質な手口②

 続いてBさん(80代)1人暮らしの女性の例です。2021年1月、自宅マンションに不動産業者2人が訪問し、「マンションを売ったら、入所できる施設は探してあげる」と言われ、2300万円で売却しました。

 売却してしまった理由は、「朝10時から夜9時半まで居座られ、翌日も約9時間居座られた。とにかく売れ売れと勧められ売却してしまった。契約書などの書面等は一切受け取っていない」ということです。

不動産押買被害対策弁護団・高木篤夫弁護士

Q.明らかに高齢者や1人暮らしを狙っていますよね?
(不動産押買被害対策弁護団・高木篤夫弁護士)
「そうですね。高齢者になると、若い方よりも、一般的に認知機能・判断能力も衰えますし、過去の事例には、もう認知症が発症している方もいました」

被害急増の理由は?

 全国の自宅売却トラブルの相談件数が、近年伸びていて、2024年は862件と過去最多でした。特に東京での被害は、全体の約3割だといいます。高木弁護士によると、『押し買い』の被害が急増している理由は「地価の上昇によって、都心部で被害が急増。築年数が古くても高価格で転売できることが背景にある」と話しています。

Q.家を売買する際に権利書が必要ですが、ローンを返して抵当権がついてない家が狙われるんでしょうか?
(高木弁護士)
「そうですね、私たちが扱った事例は、ほとんどがそういった担保がついてない事例です。『押し買い』は、短期間に売買契約をして、登記の移転までしているというケースが多いので、担保がついていると、なかなか短期間には売却できないということになります」

不動産は“クーリングオフ”対象外?

 そして、実は不動産の売却は“クーリングオフ”の対象外です。『宅地建物取引業法』では、売主が住人の場合については、クーリングオフができるという規定がありません。(“買主が住人の場合”はクーリングオフの規定あり)

 また、『特定商取引法』でも、不動産の訪問購入については、クーリングオフできるという規定はありません。

Q.“売主が住人の場合はクーリングオフできない”というのは、今後、規定を作っておかないと、さらに高齢化社会になった場合、危ないですよね?
(高木弁護士)
「そうですね。私どもも、こういった『押し買い』の被害というのを認識して、法改正が必要だというふうに考えています」

■こんな巧妙な手口も…①“リースバック契約”の悪用

巧妙な手口①リースバック悪用

 さらに、巧妙な手口も増えています。

 先ほどのAさん(80代)は、不動産業者から「自宅を売った後も、ここに住み続けられますよ」と言われ、Aさんは、家賃を支払うことで、売却後も住み続けられる“リースバック契約”というものを結びました。

 “リースバック契約”とは、住宅を売却したあとも、家には住み続けることができ、住宅を賃貸で提供してもらい、家賃を支払い続けるというものです。(リースバック自体は適正な取り引き)

 Aさん(80代)の場合、家賃は月9万円で、お得であるかのように言いくるめられ、家を売ったところ、売却額が1000万円でしたが、相場は2500万円の物件だったということです。

Q.家賃9万円となると、10年ほど住むと、売却額を超えてしまいますよね?
(高木弁護士)
「せっかく家を売って、住めるとなっても、家賃を払い続ければ、結局、資金が尽きてしまう。特に、リースバックで定期借家という契約だと、更新を自動的に出来る契約を結んでないことが多いです。基本的に数年で更新時期が来て、そこで更新するか、出ていくかということを選択しないといけなくなります」

“リースバック契約”のメリットとデメリット

 “リースバック契約”のメリットは、『引き続き住み続けられる』『まとまった資金が入る』『固定資産税の支払いゼロ』という点です。

 一方でデメリットとして、『家を借りられる期限が決められているケースもある』ことが挙げられ、期間終了後は追い出されてしまうため、しっかりと契約書を見ておくことが大事です。

■こんな巧妙手口も…②“手付け倍返し”

巧妙手口②“手付け倍返し”

  築40年のマンションに住んでいた80代の女性・Dさんのケースです。ある日突然、不動産業者から「マンションを2500万円で売ってほしい」という電話がありました。しかし、Dさんは「3000万円以下では売りません」と断ります。

 しかし、3日後、不動産業者から再び電話で「2400万円で購入したいという人を連れて来た。マンションの下にいる」と言われます。Dさんは「その金額では売らない。病院の予定がある」と断りましたが、病院から戻ると、エントランスに営業員と経理担当者を名乗る2人の人物が待っていました。Dさんは「待たせてしまい悪い」と思い、自宅に上げてしまいます。

キャンセルには900万円?

 営業員は、「住み替えの物件を紹介するので、心配はいらない」と、勝手に話を進め、書面に押印するように要求。その後、手付金450万円を渡され、たった2時間で、家を2400万円で売却することに応じてしまいます。そして、契約の翌日、Dさんは「キャンセルしたい」と言いましたが、営業員から「キャンセルするなら900万円を支払って」と言われたといいます。

民法で手付け倍返しの規定がある

 実は、民法557条に『売主は手付金の倍額を買主に支払うことで契約を解除できる』という規定があります。手付け倍返しが成立するのが、契約日から1週間程度(契約による)となっていて、この期間を過ぎた場合、売買価格の約20%の違約金も発生します。

 高木弁護士によると「裁判での個別救済には限界があるのが現状。泣き寝入りする人が多く、倍額の手付金や違約金を払う人も多いと感じている」とのことです。

■簡単な相場の調べ方は?だまされないための『押し買い』の防止策

『押し買い』防止策

 そんな『押し買い』の防止策ですが、

●その場をやり過ごすために、後で解除できると思って気軽に契約しない。
●即日契約は絶対に断る。
●書類はしっかりと保管。
●日頃から自分の物件の相場に興味を持つ ことが大事だということです。

簡単な相場の調べ方

 また、簡単な相場の調べ方もあります。住宅ジャーナリスト・榊淳司氏によると、一番手軽なのは、『近隣不動産業者の物件情報・投函チラシなどで、似た物件の販売価格を見る』ことだということです。近隣の地元密着型の不動産業者に大まかな相場を聞くという手段もあります。

 さらに、最も確実な調べ方として、持ち家を持っている場合は、毎年4月から5月に送られてくる、“固定資産税の納税通知書”に書かれている、土地の評価額と家屋の評価額を足して1.7をかけると、相場価格になるということです。(評価額×1.7≒相場価格)

(「情報ライブミヤネ屋」2025年5月12日放送)

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