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元“エース職員”に実刑判決

【独自解説】奈半利町のふるさと納税汚職、寄付金を39億円に爆増させた“エース職員”転落の経緯 2人の被告への量刑の妥当性は?弁護士が解説

 高知県奈半利町(なはりちょう)の元職員らが、「ふるさと納税」の返礼品を有利に取り扱う見返りとして賄賂を受け取った罪などが問われた裁判で、「受託収賄」について無罪を主張した2人の被告に対し、いずれも実刑判決が下りました。ふるさと納税をめぐる全国初の汚職事件の判決について、亀井正貴弁護士が解説します。

“エース職員”が汚職に手を染めた経緯

柏木雄太被告と森岡克博被告

 2020年、高知県奈半利町の職員・柏木雄太被告と、柏木被告の上司・森岡克博被告らが、返礼品の扱いで町内の業者に便宜を図った見返りに賄賂を受け取ったとして、「受託収賄」の疑いで逮捕されました。

 柏木被告は、2011年からふるさと納税の返礼品選定業務などを担当し、魅力的な返礼品探しに奔走していました。2014年には採算を度外視した返礼品が全国の納税者の目に留まり、この年に集まった納税寄付金額は、前年の4倍に上りました。さらに2015年には、寄付金額が13億円を突破。人口3000人余りの奈半利町が単独で使える年間の公費がわずか1億円弱だったところ、実に13倍以上もの金額を、アイデアと努力で稼ぎ出したのが柏木被告だったのです。同僚たちからは「奈半利町の“エース職員”」と評価されていました。

 しかし、膨らみ過ぎた注文は地元生産者の受注能力をはるかに超え、奈半利町役場に苦情が殺到する事態に陥ります。そこで柏木被告が目を付けたのが、奈半利町の海産物業者の息子・A氏でした。柏木被告はA氏を独立させ、奈半利町の返礼品を専門に扱う水産加工会社を立ち上げたのです。柏木被告とA氏は、世界中の水産物が集まる東京・築地市場で返礼品を仕入れました。ロシア産のタラバガニや北海道のホタテ貝柱、高級魚の王様マグロなど、奈半利町では獲れない、“ふるさと”の線引きを大きく踏み外した商品ラインナップでしたが、これが大ウケし、A氏の水産加工会社の業績は大幅にアップします。2019年度までの4年で、奈半利町がA氏の会社に支払った代金は、総額22億円に上りました。

“大成功”していた、奈半利町のふるさと納税事業

 2017年には、全国9位となる年間39億円の寄付を集め、全国から注目された奈半利町のふるさと納税事業ですが、水面下では、柏木被告による密かな“ファミリービジネス”が進行していました。柏木被告は豚肉の返礼品の出品業者に対し、自分の親族が高知市内で営む精肉店に加工や発送などの作業を発注するよう依頼。その親族の精肉店に対しては、継続的な売り上げを計上させる見返りとして、自分の両親に渡す形で賄賂を要求しました。

2020年、柏木被告らが逮捕

 そして2020年、事態は急展開します。柏木被告らが「受託収賄」などの疑いで逮捕されたのです。取り調べの中で、返礼品の取り扱いを優遇する見返りに、親族から柏木被告が受け取った賄賂は9197万円と判明。そして柏木被告の父親や母親らも、共謀のうえ賄賂を受け取った疑いで起訴されました。

 裁判の中で柏木被告は、寄付の増加にやりがいを感じた一方で「多忙になるにつれて精神的に追い込まれていった。金銭感覚もおかしくなっていた。冷静な判断を失っていた」と述べています。また柏木被告の父は、保釈中の2021年12月に病死しました。これについては「勾留も長期にわたり、衰弱していた。私が命を奪ったと思っている。申し訳ない」として、親族の精肉店をめぐる収賄、いわゆる“精肉ルート”について、柏木被告は罪を認めました。

裁判の争点“水産ルート”の「受託収賄」とは?

“水産ルート”で「受託収賄」か?

 しかし、検察と弁護側が真っ向から対立しているのは、A氏が経営する水産加工会社で取り扱った返礼品「アーモンド小魚」をめぐる約180万円の賄賂、いわゆる「水産ルート」です。

 裁判資料によると、上司の森岡被告の意向で柏木被告はA氏に「森岡被告の息子を、A氏の会社でアルバイトとして雇ってほしい」と依頼し、A氏はこれを了承しています。柏木被告と森岡被告は、A氏から「『アーモンド小魚』を返礼品として継続的に発注するなど便宜を図ってほしい」と頼まれ、その謝礼として、「息子の梱包作業」の名目で賄賂を受け取ったとされます。その作業料として、柏木被告は梱包作業1件あたり500円という金額を提示し、A氏は森岡被告が管理する口座に5か月間で合計約180万円を振り込んでいます。森岡被告は、この口座の金で軽自動車を購入していたということです。

2人の被告に対する求刑

 検察側は「両被告は、業者と柏木被告が“持ちつ持たれつの関係”であることを認識していた」「森岡被告の息子らが、業者で実際に作業を行っていたかにかかわらず、賄賂性の認識があったことは認められる」として「受託収賄」などの罪で、柏木被告には懲役7年、追徴金約9380万円、森岡被告には懲役2年6か月、追徴金約180万円を求刑しました。両被告は「労働対価と認識していた」と否認しています。

「単純収賄」と「受託収賄」の違い

 「収賄罪」には様々な類型があります。「単純収賄」は、公務員がその職務に関して賄賂を収受し、またはその要求、もしくは約束をしたときに、5年以下の懲役になります。「受託収賄」は「単純収賄」よりも罪が重く、公務員がその職務に関し「請託」を受けて賄賂を収受したときに、7年以下の懲役になります。

亀井正貴弁護士

Q.「受託収賄」の方が刑が重たくなりますが、どんな違いがあるのでしょうか?
(亀井弁護士)
「具体的な依頼をしたのか、依頼自体がそこまで具体的ではなかったのか、という違いがあります。具体的な依頼だとすると、職務の公正が害される危険が高まりますので、その分犯情が重くなって、刑も重くなるということです。『受託収賄』は、公務員の行為が特定されてしまう事です」

両被告への実刑判決、妥当性は?

2人の被告に実刑判決

 2022年12月21日、柏木被告に「収賄」や「第三者供賄」などの罪で懲役4年6か月、追徴金約9197万円の支払いを命ずる判決が、森岡被告には「電磁的公正証書原本不実記録」などの罪で懲役1年の実刑判決が言い渡されました。森岡被告の「受託収賄」は無罪となっています。

Q.「受託収賄」が認められなかったのは、どういう点なのでしょうか?
(亀井弁護士)
「森岡被告の息子が働いて、その労賃の対価としてお金が入ってくる構造になっていますが、それが賄賂金かどうかという問題です。完全に『息子の労賃が100%』だったら賄賂にはならないため、賄賂性の認識はなくなります。ただ労賃だとしても、例えば『5割分は労賃だが、残りの5割分は賄賂性がある』となれば有罪になるのです。本件の場合には、柏木被告は首謀者で業者との繋がりもありますから、賄賂性についての認識は取りやすいです。しかし森岡被告は、業者との繋がりがないので、『これは息子の労賃としての対価ではないか』と考えていたとしても不思議ではないから、賄賂性の認識はなくなります。ただ、賄賂性の認識というのは割と認めやすいので、賄賂性の認識で無罪にするというのは珍しいです」

「第三者供賄罪」とは?

(亀井弁護士)
「他方で、『受託収賄』ではなく『第三者供賄』を認めたのはどういう事かというと、『受託収賄』というのは賄賂金を自分の懐に入れるということです。森岡被告と共謀すれば、森岡被告の懐も柏木被告の懐になるので、柏木被告は『受託収賄』になります。ところが、森岡被告との共謀がなくなると、賄賂金は柏木被告にとって第三者である森岡被告の所にいっているだけになり、自分の懐には入らなくなります。自分の懐には入らないけど、第三者に渡したような場合は、『第三者供賄』という規定があります。これは脱法を防ぐためです。賄賂金を第三者に流すことによって収賄を隠そうということがあるので、その場合でも処罰するぞという意味において、こういう規定が設けられています」

Q.柏木被告の量刑についてどう思いますか?
(亀井弁護士)
「この量刑は少し軽いと思います。賄賂金の金額が大きいため7年求刑しているので、5年~6年は欲しいかと思いますが、検察としては恐らく許容範囲内です。ただ、森岡被告については大変な話になると思います。賄賂性の認識を飛ばされていますし、『電磁的公正証書原本不実記録』を受けた検事は、たくさん資料を作って、これを控訴するかどうか高検の真偽を仰ぐ必要ありますから、ほかの業務をしながらその作業をするのは大変です。また年末年始にかかりますから、控訴期間の問題もあります」

(「情報ライブ ミヤネ屋」 2022年12月21日放送)

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