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【独自解説】現役記者が巨額報酬約19億円を受けた大株主を“異例告発” 京都新聞トップに君臨する「白石ファミリー」とは?今後の流れを専門家が解説
2022年7月1日 UP
京都新聞の現役記者らが6月29日、会見を行い、自社の大株主である元相談役の女性らに対し34年間に渡り支払っていた約19億円の不正な支出を巡り、刑事告発したことを明らかにしました。なぜ報道機関の記者が自社の大株主に対し異例の刑事告発を行ったのでしょうか?今後の流れは?清原博弁護士が詳しく解説します。
巨額報酬を受け取っていた「白石ファミリー」とは
京都新聞は、「白石ファミリー」と呼ばれる人たちが頂点に君臨し、その経営を牛耳ってきたといいます。まず、1946年からの約35年間、旧京都新聞社の社長・社主を務め「京都新聞」の基盤を築いた人物が、白石古京(しらいし・こきょう)氏で、会社の株式を約30%保有していました。1981年には、息子の英司(えいじ)氏が旧京都新聞社の社長の座と資産を引き継ぎましたが、わずか1年半で急逝しました。それ以降、英司氏の妻・浩子(ひろこ)氏が莫大な株式を相続し、大きな影響を持つようになったということです。浩子氏は取締役会長を経て、1987年から相談役になり、34年間もの間その座をキープしました。また、浩子氏の息子・京大(きょうた)氏も2016年から京都新聞ホールディングスの代表取締役を、2021年からは代表権を持たない取締役を務めていて、6月29日の株主総会で取締役を退任しています。
約19億円という巨額報酬はどのように動いたのでしょうか?まず、旧京都新聞社・京都新聞ホールディングスは浩子氏に相談役報酬などとして、グループ傘下の子会社5社分も併せ、34年間で計16億4700万円を支払っていました。浩子氏に支払われた相談役報酬は他役員より高額な時期もあったといい、子会社の相談役報酬と併せると年間で平均4800万円以上あったということです。それにもかかわらず浩子氏は月1回もしくは年5~8回程度、自宅で役員から経営情態の聞き取りを行うのみで、全く出社していなかったということです。
さらに、旧京都新聞社が白石家から賃借した山荘の管理を業者に委託する際の管理費、計2億5900万円も会社が支払っていたということです。1998年以降は会社での使用実績がなかったにもかかわらず、山荘の管理費は年間約1369~1795万円に上り、その管理業務の実情は門の開閉、郵便物の受け取り、浩子氏宅など周辺の見回りや雪かきなどでした。
「白石ファミリー」がこのような力を持っている理由は、京都新聞ホールディングスの株を30%近く所有しているためです。その内訳は、浩子氏が社長を務める白石家の資産管理会社が25.9%、浩子氏個人で2.5%、息子の京大氏が1.5%の合計29.9%で、浩子氏は事実上“大株主”なのです。
Q.白石浩子氏を相談役にしたプロセスは妥当なのですか?
(清原博弁護士)
「一般的には社内規定がありますが、何の選考基準もなく長年勤め、報酬も高額である理由が認められません。浩子氏が相談役に就任した当時は30年以上前ですから、企業自身があまり相談役の社内規定などを設けていない時代だったと思います。しかし、普通は任期や報酬額というものは社内規定に基づいて決めるものですので、浩子氏が相談役になってからずっと社内規定がないままここまで来ているのはおかしいです」
第三者委員会や国税局も巨額報酬について指摘していた
2021年6月設置された第三者委員会では、浩子氏に支払われた巨額の報酬について違法性を指摘しています。会社法120条1項では、『株式会社は何人に対しても、株主の権利行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない』、2項では、『株式会社が特定の株主に対して「無償」で財産上の利益の供与をしたときは、株主の権利行使に関し「利益供与」と推定される』、となっていて、浩子氏の勤務実態がないことが抵触する可能性があるということです。
さらに、第三者委員会は1985年前後に旧京都新聞社経営陣と浩子氏の間で、「大株主として口出ししない代わりに、相談役として多額の報酬などを保証する」という“合意”があったと『推認』しています。浩子氏は大株主として役員人事に強い影響力を持ち、経営陣は浩子氏の意向に反すると取締役解任のリスクがあったのではないか、ということです。
また、大阪国税局からも2011年に過大報酬を指摘されていました。その際、会社は「報酬額は適正」とし、見直しや検討はしていませんでした。2014年、再度大阪国税局から指導が入った際には過大報酬を認め、修正申告をしています。しかし翌年以降も報酬は減額されなかったということです。
Q.これはどう見ますか?
(清原弁護士)
「税務調査に入ったのだと思います。過大な報酬を浩子氏に払わなかったらその分、会社の利益になるわけです。利益が増える分、法人税もたくさん払うべきなのに、浩子氏に過大な報酬を払うことによって法人税を逃れているのでは、ということで国税局が指摘したわけです。2014年に修正したということは過大だったと会社で認めているので、翌年から適正な報酬に下げるはずです。ところがそれに応じなかったというのは、会社自体が少しおかしな状況になっていることが見え隠れします」
告発の内容と今後の流れ ポイントは「“合意”の存在を立証できるか」
6月29日に開かれた会見で京都新聞の記者2人と弁護士は、「利益供与罪に該当する」として、「白石京大氏を会社法970条1項、元相談役・白石浩子氏を会社法970条2項について検査のうえ、厳重に処罰されたく告発する」と発表しました。会見に出席した京都新聞・日比野敏陽記者は、「(会社と)白石さんとの関係は過去から問題があり、その都度適当に伏せられてきた。その対応についておかしいと思う人が多かったがなかなか行動ができず、そういうことに失望し、仲間だった記者が辞めていったりした。誰かがこれをやらないと市民や読者に見透かされる」と話しました。
Q.京大氏は京都新聞ホールディングスの取締役でしたから「金を出した側」、浩子氏「金を受け取った側」として告発されたということですか?
(清原弁護士)
「はい。利益供与罪はお金を出した側も罪に問われるし、お金を受け取った側も罪に問われますので、お金を受け取った浩子氏に対する刑事告発であり、なおかつお金を出した京大氏も起訴しようと思ったらできる状況です」
清原弁護士によると、浩子氏が問われる罪は「口を出さない代わりに多額の報酬」という“合意”の存在を立証できるか次第で、状況が大きく変わるといいます。合意の存在が『推認』状態であれば、会社法120条で民事的に裁かれます。その場合は、供与された利益の一部返還されます。一方、合意の存在がはっきり『証明』できた場合は、会社法970条が適用され、刑事罰が科せられます。浩子氏は「利益収受罪」、京大氏を含む歴代の経営陣は「利益供与罪」に問われ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金となるということです。
Q.『証明』と『推認』では全然違うんですね?
(清原弁護士)
「そうです。『推認』というのは決定的な証拠がなくて断定できないということです。推認であっても、例えば浩子氏からお金を返してもらうという民事の裁判であれば、『推認』でも勝てるのですが、今回は記者の方々が刑事告発をしているため、これから刑事裁判になるわけです。刑事裁判では『推認』では足りず、30年前に合意があったと断言できる決定的な証拠がないと刑事責任を追及することができないので、刑事告発というのはハードルが高いです」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年6月29日放送)


