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6月1日から“値上げラッシュ”

【独自解説】値上げラッシュでも上がらない給料、原因は「30年で根付いた経営者マインド」乗り切るには「プライベートブランドの活用」経済アナリストが解説

 6月1日から「ココイチ」や「富士そば」が値上げすることを発表。他にも「ケンタッキー」、「餃子の王将」、「スシロー」など、有名外食店が相次いで値上げを発表しています。また外食店だけでなく、インスタントラーメンやお菓子、お酒、油などの食料品も軒並み値上げする“物価高”に、さらに追い打ちをかけているのが、20年ぶりの水準となっている“円安”。そんな中、「ダイエットをしたら財布がふくよかになった」という、経済アナリストの森永康平(もりなが・こうへい)さんが、私たちの生活を守る“家計防衛策”を解説します。

値上げ原因は「メディア報道」「コロナ」「ウクライナ情勢」「中国」

経済アナリスト 森永康平さん

 帝国データバンクの統計によると、加工食品や調味料などは、すでに4770品目が9%~15%値上がりしています。今わかっているだけでも、今年一年で値上げする品目は8385品目に上るということです。

Q.これまで外食産業や食品は、値段はそのままで少し量を減らす“ステルス値上げ”など、様々な工夫をしてきたと思うのですが、それではもたなくなったということでしょうか?
(経済アナリスト 森永康平さん)
「そうですね。やはり原油価格など資源価格が上がってきていますので、いい加減限界だというのが一つあるのと、こうやってメディアが連日値上げの報道をしているというのもあって、逆に言うと消費者側が『値上げは仕方ない。それが当然だ』と思い始めているので、企業側からすると値上げがしやすい状況になったということがあるかと思います」

家計負担急増!森永氏の試算

Q.森永さんの試算では、年収400~500万円の2人以上の世帯で、去年より年間7万2千円以上家計負担が増えるということですが、これはかなり大きいですね?
(森永さん)
「やはり痛手だと思いますし、実際に過去を振り返ってみても、例えば2014年の消費増税のときなどの特殊要因を除いてしまうと、13年半ぶりぐらいの上昇率になりますので、本当に10年に1回くらいの家計負担だと言えると思います」

物価高の主な要因は?

 この物価高を引き起こしている大きな要因は、コロナからの景気回復で需要が増えたこと、またウクライナ情勢も影響を与えています。世界の物流が混乱しており、アメリカでは需要が増えたことによって港湾労働者が不足し、アメリカからアジア向けのコンテナ1個当たりの船賃が、コロナ前と比べて約2倍になりました。また中国では、「ゼロコロナ政策」によって上海港の輸送が停滞。入港待ちの船が、一時最大で300隻にも上ったということです。

Q.大きな要因の一つである、中国・上海の輸送コンテナの量は、今や世界一なのでしょうか?
(森永さん)
「そうですね。もはや世界で一番重要な港にまで発展してきていています。実は、中国がここまでゼロコロナ政策を強固にやるというのは、ほとんどの人が想像していませんでした。上海の港が止まってしまって、今は他の港を迂回してそちらから輸出入をしようとしているのですが、一方で他の港でも公安で働いている人達がゼロコロナで動けなくなってしまっているので、その結果日本に『物が入ってこない』という話はよく聞きます」

Q.中国という国が、経済よりゼロコロナを優先するとは思いませんでしたね。
(森永さん)
「これは恐らくなのですが、今年の秋にある党大会で習近平国家主席が第3期目を狙うという中、彼らは『ずっとゼロコロナ政策は上手くいっていた』と言い続けてここまで来たので、このタイミングで『ゼロコロナは間違っていた』と言うと、『今までは何だったのか』という話になりますので無理矢理強権的にやっているということです」

上がらない給料、30年で生まれた負のスパイラル

実質賃金の伸び率(国際比較)

Q.物価が上がっていても、給料が上がっていれば実質値上げということにはならないと思うのですが、1991年から日本はほとんど給料が上がっていませんよね?それは何故ですか?
(森永さん)
「これは経済の成長率と比例しているところがあって、日本はこの30年ぐらいほとんど成長していないので、企業からしても将来何があるか分からないから給料を抑えて、しかも非正規雇用の人達をなるべく多く雇って、景気が悪くなったらそういう方たちを解雇して、なんとか自分達は生き残ろうというマインドセットに、この30年ぐらいで変わってしまったのです。この考え方を直さないといけないのですが、30年も続けているので非常に根深くて、なかなかすぐには治らないのではないかと思います」

Q.逆に大企業の正規雇用の人の給料は上がっているのですが、より多くいる非正規雇用の方の給料は上がってないという、やはり構造的な問題がありますよね?
(森永さん)
「そうですね。『海外に比べれば、大したことはない』という方もいるんですけれども、やはり国内での所得格差、特に正規・非正規での格差というのは非常に大きくて、しかもこの非正規の割合がこの30年間で倍増しているということを考えると、この構造の問題にも、やはり手を打っていかないと、この先もなかなか厳しいのではないかと思います」

日本企業の内部留保と給与

 日本企業の内部留保と給与を比較して見ると、内部留保が9年連続で過去最高を更新している一方で、青いグラフの従業員の給与は横ばいのままとなっています。

Q.政府は日本企業に、内部留保を積極的に使うことを促しているにもかかわらず、内部留保がどんどん増えて従業員の方の給与は上がってないというのは、世界に比べて日本がどんどん後れを取る一つの原因ではないですか?
(森永さん)
「そうですね、負のスパイラルに入ってしまっているというのが全てなのですが、やはり将来どうなるか分からないという経営者の気持ちが強いので、従業員には積極的に還元しないという方向に動いているんです。ただ一方で、その多くは株式会社ですから、株主からすると『そんなに金をため込むんだったら私たちに配当しろ』ということになってしまって、結果的に稼いだお金の多くが、従業員の給料ではなく株主への配当に回ってしまっている、これもまた1つ問題としてよく指摘される部分です」

いつまで続く?歴史的“円安”

歴史的円安が進んだワケ

 4月28日、一時1ドル131円という歴史的な円安となりました。なぜ円安が進んだのかというと、まずアメリカで新型コロナが落ち着いたことによって、経済活動が活性化しました。するとモノの需要が増え、物価が上がりました。アメリカ政府は物価を安定させるために、利子の割合である「金利」を上げました。これによって企業はお金を借りにくくなり、お金が回らなくなると物価を下げようと試みました。これによって、ドルと円の金利差が大きくなってしまったのです。金利の高いアメリカにお金を預けようという動きが加速し、円の価値が下がって円安が進んだということです。経済評論家の加谷珪一さんによると、「日銀が金利を上げなければ、1ドル150円まで下がるのではないか」ということです。

Q.日本はこれだけ円安になっても、やはり「金利は上げない」という政策を、ずっと取り続けていくのでしょうか?
(森永さん)
「恐らく日銀の黒田総裁の任期までは、金融緩和を継続すると思います。金利差が円安の原因だということで、国内でも『日本も金利を上げろ』という指摘をする人たちもいるんですけれども、ただ経済が成長してない日本において、今、円安を抑えたいというだけで金利を上げてしまうと、より経済が悪くなるっていうのは常識だと思うんですよね。今、変動金利で住宅ローンを組んでいる人たちは、当然支払い額が増えていきますし、企業もお金を借りづらくなりますから、そういうことも考えると、安易に欧米に追従して『日本も金利を引き上げろ』と言うのは、僕は乱暴な意見なのではないかと思います」

“悪い円安”とは?

Q.日本企業は本来円安だと輸出で儲かるはずが、以前と比べて工場が海外に移転しているので儲からないのですね?
(森永さん)
「そうですね。2010年前後の極端な円高局面で、多くの日本企業が外に生産拠点を移しました。その結果、円安になったとしても、日本から輸出するものが減ってしまったので、円安のメリットはあまり感じられなくなってしまったと。それゆえに、“悪い円安”みたいな話が出てきているんです」

Q.将来、アジアの諸外国が経済発展してくると、今度は海外の企業が日本に生産拠点を移して、安い賃金でモノを作ろうという逆流が、今の日本では起きかねないのではないですか?
(森永さん)
「そうですね。ただ一方で、やはり日本の場合は英語の壁があるので、外国の企業がばんばん日本に生産拠点を持ってくるかというと、微妙なところはあります。ただ、コロナやロシアとウクライナの問題から僕らが何を学んだかというと、国内で物が作れないというのは、国防にも大きく影響する話だということです。今回の円安でぎゃーぎゃー騒ぐんじゃなくて、むしろこれを契機に、日本国内で供給能力を高めるという投資をした方がいいと思います」

物価高を乗り切る森永流“家計お助け術”

“激熱”なプライベートブランド

 物価高を乗り切る“家計お助け術”として、企業の「プライベートブランド」の活用があります。森永さんが「激熱」と言うのは、イオン株式会社の「トップバリュ」。6月末まで“価格凍結宣言”をしました。約5000品目の価格を据え置くということで、例えば一般的なマヨネーズは500g・300円前後のところ、税込み170円に価格据え置きということです。また、株式会社西友の「みなさまのお墨付き」というプライベートブランドも、価格据え置き宣言をしています。

Q.プライベート商品をうまく活用していこうということですか?
(森永さん)
「そうですね、夏までは価格据え置きということを言ってくれていますから、我々の家計としては、こういうところをうまく活用するしかないのかなという気がしますね」

Q.こういう物価高・円安は、いつまで続くのですか?
(森永さん)
「少なくとも年内いっぱいは、もう値上げが確定しているというふうに考えていいと思います」

体はスリム、お財布はふくよかに!

 森永さんは「体をスリムにすれば、財布はふくよかになる」と言い、具体的には、パン・お菓子を食べない、肉は購入する部位を豚ならウデ、牛はモモ、鶏はササミに変更しました。さらに、近い場所への移動は走る、ということを実践したところ、半年で17kg減量したということです。

Q.お腹がすく前に寝てしまうっていう作戦もあると思いますが。
(森永さん)
「そうですね。やはり寝ると健康にもいいので。もう、買い物に行かないというのも一つあります。経済にはよくないですけどね」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年5月31日放送)

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