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ホームレスの“おっちゃん”にカメラを渡してみた〈後篇〉200万円を持ち歩く生活が一転「空き缶集め」に…、20代でネットカフェ生活…彼らが撮った「生きている証」

 あなたは、“ホームレス”の人たちの現実を直視したことがありますか―。

 都会のビル群の中で時折目にするホームレスの“おっちゃん”たち。ほとんどの人が、その存在を気に留めることもなく、むしろ見て見ぬふりをしているのではないでしょうか。ホームレス状態にある人の数が、全国で最も多いとされる大阪。この地で長年、ホームレス支援を続けている大阪市の認定NPO法人「ホームドア」の事務局長・松本浩美さんが中心となり、ホームレス状態にある“おっちゃん”たちに使いきりカメラを渡し、集まった写真で一冊の「写真集」をつくるプロジェクトを開始。このほど、写真集は完成に至りました。

 ミヤネ屋は、その過程を約400日にわたり密着取材。集まった約1000枚の写真からは、これまで私たちが気づかなかった様々な現実が見えてきました。

プロジェクトの発起人「ホームドア」松本浩美さん

 密着取材〈前篇〉では、借金の肩代わりや給料の未払いなどにより暮らしが激変してしまった“おっちゃん”たちの半生や、“ホームレス状態”になるとなかなか抜け出すことができない、日本社会の構造的な問題についてお伝えしました。

おっちゃん(3) “バブル時代を謳歌”河川敷で暮らす東郷さん(仮名/66歳)

「空き缶集め」で生計を立てる東郷さん(仮名/66歳)

 河川敷に小屋を建てて生活する東郷さん(仮名/66歳)の生活の糧は「空き缶集め」。いつも夜明け前に起床し、週に四度ほど早朝の街を回っています。

 東郷さんはその道中、特殊詐欺防止を呼び掛けるポスターが剥がれ落ちているのを見つけると、丁寧に張り直します。

「お年寄りが騙されんようにな。下に落ちてたんや」(東郷さん)

 また取材中、顔見知りになった東郷さんのため、空き缶を集積所には出さず、取っておいてくれる人もいました。

「住民が表に出てきはったら、『大将、もろてよろしいか』って声をかける。毎月、安定するやん。とことん貧乏して、食べられないときには、たとえ200円でも毎週くれはったら月800円になるわけやで。1か月に800円あってごらん、大きいで。その積み重ねや、どんな商売でも」(東郷さん)

 取材した2021年7月は猛暑日続き。この日も最高気温は35.2℃に達していました。約4時間、休みなしの作業を経て、集めた空き缶は15.5kg。得られた収入は2800円あまりでした。

「おおきに!社長さんと奥さんにありがとうと、よろしく言うといて」(東郷さん)

 猛暑の中での“仕事”を終えると、公園の水栓で顔の汗を洗い流しコンビニへ。

「シュワーって、ええ音やな。涙出そうやな」(東郷さん)

 購入したのは、菓子パンと缶のお酒2本。これが日々の“朝・昼兼用”の食事です。さらに小屋に戻ってからも、日課をこなします。

「日報です。簡単な売り上げと、天候と、今日の最高気温と、回収した空き缶のキロ数をずらーっと書いています」(東郷さん)

かつては定職に就いていたという東郷さん

 東郷さんも、以前は決まった仕事に就いていました。バブル期には不動産業で“大儲け”し、派手な生活も経験していたと言います。

Q.どれくらい儲かっていたのですか?
「口に出して言えんくらい。胸ポケットの左右に100万円ずつ入れてた。支払いは全部、現金やからな。貧乏人がたくさん儲けて遊んでるから、バブルが弾けたら誰も助けてくれへん」(東郷さん)

Q.お子さんもいらっしゃった?
「だから離婚したんや。籍が入ってたら、息子も妻も俺の借金を全部被らなあかん。だから『今日で解散』と…」(東郷さん)

 東郷さんは現在、生活保護も年金も受け取っていません。

「生活保護を受ける気はない。身内に知れたら恥の上塗りや。面倒を見てくれという情けないことはできへんわ。なんぼ貧乏しても。それが男よ」(東郷さん)

 生活保護を申請した場合、役所から親族などに「申請者を扶養することができないか?」など、確認の連絡が行くことが多いと言います。そのため「“ホームレス状態”であることを知られたくない」と、申請を控える人も多いのです。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

東郷さん撮影 “ささやかな幸せ”

 10年以上続けている河川敷での生活。これから先どうなるのか、本人すらも分かりません。そんな東郷さんの写真に映し出されたものは…日々の“ささやかな幸せ”。

東郷さん撮影 “生きる術”

 そして、唯一の“生きる術”でした。

おっちゃん(4) 20代で“ホームレス状態”になった小田さん(仮名)

ネットカフェで寝泊まりしていた小田さん(仮名)

「梅田の方に行っても 緊張するというか、自分だけ浮いているような感じがする」(小田さん)

 仕事と住む場所を転々とした後、大阪に辿り着いたという小田さん(仮名)。

「水商売も含めて介護・飲食・建築、だいたいそんなんをグルグルしている。人間関係で痺れを切らせたことの方が多かった」(小田さん)

 小田さんは、実はまだ20代。大阪では仕事も見つからず、ネットカフェで寝泊まり。定住する場所がない“ホームレス状態”になりました。

「俺が大阪に来たときはまだ寒かったから、寒いのが一番体に堪えた。ネットカフェで時間潰したりして。そしたら結局1000円しかないし、で…」(小田さん)

 厚労省の調査では、路上や公園・河川などで生活する人は、全国で3400人余り。しかしそこに、ネットカフェや友人宅を転々とする人などは含まれていません。“ホームレス”とひとくくりにしがちですが、実態は多様化しています。

「ウロウロして腹が減ったところに、いい匂いがしてきて。いいもん食ってないときのいい匂いは、途中から“羨望が憎しみに変わる”ことがある。『チクショー、いいもん食ってんなー』って。『こういうところで飲みたかったな』みたいなのがある、今でも」(小田さん)

 打つ手がなくなった小田さんは、「ホームドア」の扉を叩きました。

「俺も若いし、仕事してなんぼやし。自分でも見つけなあかんけど。生活保護でゆっくり見つけるのもありかなと思ったりもして…」(小田さん)

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

小田さん撮影 “羨望が憎しみに…”

 取材から10か月が経過した2022年6月、小田さんは就職先が決まり働き始めています。

“おっちゃん”たちの「生きている証」が写真集に

「私は〇〇です」という意味を込めた写真集『アイム』

 総勢20人を超える“おっちゃん”が撮影に関わった「写真集」は、ついにこの春、完成しました。ある人は、大好きな生き物ばかりを被写体に、またある人は、自分自身の姿が映った写真ばかり―。写真には、私たちと何ら変わることのない“人間の感情”と“生きている証”が、確かに映し出されていました。

個性溢れる生き生きとした写真

 このプロジェクトと取材を通じて見えたこと。それは、“ホームレス”と一括りにされがちな“おっちゃん”たちですが、その一人一人に個性や人生があるということ。そして、ホームレス状態に陥った理由は、“おっちゃん”たちの自業自得だとは言い切れない現実でした。

 “おっちゃん”たちの写真から、あなたはどんなことを感じるでしょうか―。

写真集『アイム』

■写真集『アイム』 発売中
https://www.homedoor.org/iam/

■生活にお困りの方へー。
認定NPO法人Homedoor(ホームドア)
詳細は、以下のURLに掲載されている内容をご確認ください。
https://www.homedoor.org/consultation/

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年6月15日放送)

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