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【独自解説】死亡時の皮下脂肪は1mm…5歳児餓死に“ママ友”が「洗脳」否認、「第三者の責任の立証難しい、必要なのは物的証拠」今後の争点を弁護士が解説
2022年8月30日 UP
2020年4月、福岡県篠栗町で5歳の男の子が餓死した事件。2022年6月、母親の碇利恵(いかり・りえ)被告(40)が保護責任者遺棄致死罪に問われ、懲役5年の実刑判決が言い渡されました。そして8月29日、その母親を精神的に“支配”していたとされる「ママ友」の赤堀恵美子(あかほり・えみこ)被告(49)の初公判が始まりました。赤堀被告の裁判での争点を大阪地検元検事の亀井正貴(かめい・まさき)弁護士が解説します。
2020年4月18日、5歳だった碇翔士郎(いかり・しょうじろう)ちゃんが飢餓死しました。当時の体重はわずか10kg、5歳児の平均の半分ほどでした。翔士郎ちゃんの司法解剖をした医師の供述調書によると、「司法解剖の際に腹胸部を開いたとき、皮下脂肪は全くついていなかった。こんな状態の子どもは見たことがない。0.1cmの皮下脂肪という数値は、まれにも見ない数値だった。心臓、脾臓、肝臓など全ての臓器が5歳児の平均の半分程度の重量しかなく、長い間、強いストレス、栄養失調状態であったことが伺われる」ということです。
十分な食事を与えず放置し死亡させたとして、母親の碇利恵被告とその「ママ友」の赤堀恵美子被告が、保護責任者遺棄致死罪などで起訴されました。碇被告は、「ママ友」として知り合った赤堀被告に家族や友人らとの人間関係を遮断され、食事を含め、生活全般を赤堀被告に依存していたといいます。碇被告の裁判の地裁判決では、「判断能力も低下していた中、赤堀被告の指示に従わざるを得ないと考えた」と、赤堀被告による“支配”が認定されましたが、碇被告に「生命・身体を保護する行動が期待可能だった」として、2022年6月、福岡地裁で懲役5年の実刑判決が下されました。碇被告側は福岡高裁に控訴していて、減刑を求める方針です。
一方、赤堀被告は調べに対し、容疑を否認。「碇被告がしっかりしていないから子どもが餓死した」として、死亡は母親の責任という趣旨の供述をしています。証人として出廷した碇被告の裁判では「これから自分の裁判があるので答えません」と、ほとんど何も語ることなく法廷を後にしていました。
今回赤堀被告は、保護責任者遺棄致死罪、詐欺罪、窃盗罪で起訴されています。保護責任者遺棄致死については、翔士郎ちゃんの母親・碇被告との共謀が認められるか否かが争点となります。そして詐欺・窃盗については、現金をだまし取ったり、預金口座から無断で現金を引き出して盗んだか否かが争点です。
8月29日に行われた初公判で赤堀被告は、保護責任者遺棄致死について、「指示はしていません」と否認。また、碇被告から約200万円をだまし取るなどした詐欺と窃盗の罪についても、「お金をだまし取ったことはないですし、窃盗も頼まれて下ろしたので、そこも違います」と起訴内容を否認し、全面的に争う姿勢を見せました。
Q.赤の他人である赤堀被告が、保護責任者遺棄致死罪に問われるのは非常にまれなケースですよね?
(亀井弁護士)
「非常にまれで、立証も本来は難しいです。保護責任者遺棄致死罪は『保護義務を尽くさない』、つまり『何もしない』というのが実行行為です。第三者が何もしないことの共謀の責任を負うということは、立証上も難しいですし、まれです」
Q.保護責任者遺棄致死罪に問うためには、赤堀被告が碇被告を「マインドコントロール下に置いた」ことを立証しなくてはならないということなのでしょうか?
(亀井弁護士)
「はい、これからそれを立証しなくてはいけません。単なる共謀だけでは、やはり弱いです。経済的にも十分なものを与えていないという先行行為によって赤堀被告が碇被告をコントロールしたというところまで立証が必要になります」
検察側の冒頭陳述では、「赤堀被告は様々な嘘をついて、碇被告の生活を実質的に支配して、子どもたちの食事を制限するなどし、翔士郎ちゃんを餓死させた」と指摘しました。その一方で、弁護側の冒頭陳述では、そのイメージを覆すような赤堀被告の過去が明らかになりました。赤堀被告は27歳で結婚、そのときの夫から激しい暴力を受けていたため、35歳の時に家から逃げるように出て、今の夫と結婚。身元を隠すため、今の夫や自身の子どもに対しても偽名を使っていたということです。「暴力を受けていた夫から逃げる生活を続けていた中で碇被告と出会い、非常に親しい間柄になって、LINE交換したのも赤堀被告にとっては初めての経験だった。赤堀被告は、碇被告の夫に対しての不満や悩みを聞いていた側で、碇被告が公判で話すことは眉唾ものだ」と主張しています。
これに対し検察側は、「非常に重要なのは、碇被告の証言だ。LINEのやり取り、赤堀被告との会話を録音したものを起こした文字、共通のママ友Aさんの証言、公的機関の職員の証言、碇被告の母親の証言、これらを総合して信用に足るものか判断してほしい」と主張しています。一方の弁護側は、「本当に碇被告の証言は真実でしょうか。裁判でよく聞いてほしいのは、赤堀被告本人の話。証拠のみに基づいて判断してほしい」とし、主張が対立しています。
Q.LINEのやり取りや会話の録音などから立証していく必要があるということでしょうか?
(亀井弁護士)
「そうですね。一対一の供述だけでは、やはり『言った・言わない』になるので、LINEやメモのような物的証拠が支えていくという構図です」
Q.碇被告の裁判での冒頭陳述によると、赤堀被告が持ってきたおかずを碇被告と子どもたちで分けて食べていたということですから、赤堀被告の支配下にあったと考えるのが自然だと思いますが?
(亀井弁護士)
「そうですね。情報遮断と恐怖と衰弱させるという、いろいろな要素でコントロールしていたのだと思いますね」
Q.もし、「保護責任者遺棄致死罪」や「詐欺罪」「窃盗罪」などが立証された場合の量刑はどうなるのでしょうか?
(亀井弁護士)
「保護責任者遺棄致死罪は、虐待のケースだと10年を基準に求刑して、判決はそれを越えたり下がったりします。今回はそれに詐欺が付いていますから、私の感覚では求刑は15年に近い求刑で、判決は13年ぐらいになると思います」
裁判は9月7日まで続き、9月21日に判決が出される予定です。
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年8月29日放送)


