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市川猿之助容疑者(写真:アフロ)

【独自解説】市川猿之助容疑者、段四郎さんの死に対しては「殺人罪の可能性も」ポイントは「父親に自殺の決意表示ができたのか」元検事と元捜査1課刑事が解説

 6月27日、母親に対する「自殺ほう助」の疑いで、市川猿之助容疑者が逮捕されました。警視庁の調べに対し、「両親が自殺する手助けをした」と容疑を認める供述をしていて、捜査関係者によると、「猿之助容疑者が薬を用意するなどして、母親の自殺を手助けしたものの、無理矢理に薬を飲ませたのではなく、母親が自らの意志で飲んだ」と判断し、「自殺ほう助」の疑いで逮捕したということです。27日現在、父親の死亡経緯についても調べを進めていますが、どのような容疑がかけられる可能性があるのでしょうか?元検事の弁護士・亀井正貴氏と元埼玉県警捜査1課・佐々木成三氏の解説です。

「自殺ほう助」容疑の猿之助容疑者、罪状が変わる可能性は?

心中事件で考えられる罪の種類

 弁護士の亀井正貴氏によると、心中事件が起こった場合に考えられる罪の種類としては、「殺人罪」「嘱託殺人罪」「同意殺人罪」「自殺ほう助罪」があるといいます。それぞれ「殺人罪」は死んだ人の同意なく殺した場合、「嘱託殺人罪」や「同意殺人罪」は死のうとする人に他者が攻撃を加えた場合、「自殺ほう助罪」は自殺の援助などをした場合、という違いがあり、焦点は「誰が死に至らしめる行為を行ったのか、行われたのか、やられたのかだ」ということです。

弁護士 亀井正貴氏

Q.「自殺ほう助罪」と「殺人罪」とでは、人が亡くなるのは同じでも、量刑が違うのですか?
(弁護士 亀井正貴氏)
「もちろん違います。『自殺ほう助』の場合は、懲役または禁錮の上限が7年ですが、殺人の場合には当然それ以上もあり得ますので、全然違う量刑になります」

「ビニール袋」は死に関わったのか?

Q.猿之助容疑者は、「薬を飲んだ後、両親の頭からビニール袋をかぶせた」といった供述をしています。捜査関係者によると、「ビニール袋が両親の死にどのぐらい関わったかは、解剖結果が薬物中毒の疑いであるため不明」だということですが、仮にビニール袋をかぶせたことによって亡くなったということになれば、容疑は変わりますか?
(亀井氏)
「その場合には、『同意殺人罪』や『嘱託殺人罪』、『殺人罪』もあり得ます。本人への同意が、真の意思に基づく同意なのかが分からないためです。結局は猿之助容疑者の供述でしかなく、この手の事件は、生き残った人の供述で決まってしまいます」

父親に対する捜査のポイント

Q.「父・段四郎さんは認知症を患っており、寝たきりに近い状態が続いていた」との梨園関係者の話も報じられていましたが、もし本当に段四郎さんが認知症で、自分の意思を明らかにできない状況だった場合には、容疑は変わりますか?
(亀井氏)
「その場合は、『殺人罪』になり得ます。重要なポイントは、猿之助容疑者が『どうすれば死ねるか』という知識と知見をどのように得たのかということと、『誰に関する動機なのか』ということです。寝たきりといわれている父親の状況や、父親を看護していた母親の状況などを考えると、自殺の動機は家族全員になり得るため、そこもポイントになってくると考えますので、父親の死への罪名が一番悩ましいところだと思います。立証責任は検察側が負いますので、父親が全く意思表示できない状況だったのに、猿之助容疑者が『意思表示していました』と供述したとして、それを否定するような物証などは、検察側が集めないといけません。もしケアワーカーなどの第三者が入っており、父親の病状などが分かる人がいれば、その供述も重要になってくると思います」

逮捕までの捜査経緯と父親の死に対する捜査のポイント

元埼玉県警・警部補 佐々木成三氏

 では、なぜこのタイミングでの逮捕だったのでしょうか?捜査関係者によると、
・両親の体内から検出された薬が、猿之助容疑者が説明した薬の成分と矛盾はないか、そして致死量だったかなど、裏付けの鑑定結果が出るまでに一定の時間がかかったこと
・遺書が見つかったことで、猿之助容疑者が再び自殺を図る恐れがあること
・「薬のゴミは捨てた」とゴミを処分したとみられる供述をしていることから、証拠隠ぺいの恐れもあるため、身柄拘束を伴う逮捕が必要だと判断したこと
 以上の理由から、今回のタイミングで逮捕に至ったということです。

Q.上記の中で、どれが一番大きい理由ですか?
(元埼玉県警・捜査1課 佐々木成三氏)
「薬だと思います。薬は誰が用意したものなのか、どれだけ飲んだのかということです。今回、母親への容疑だけで逮捕しているのは、司法解剖によって、両親の死亡に大きな違いが出ているのだと思います。例えば、飲んだ薬の量、胃の内容物、何と一緒に飲んだのか、薬を錠剤で飲んだのか、すり潰して飲んだのか、量はどのぐらいなのか、これらは司法解剖で明らかになっていて、それに違いがあるので、父親の死亡経緯については慎重に捜査しなければいけないということです。警察にしてみれば、猿之助容疑者の自殺は一番避けたいと思います。自殺は最大の証拠隠滅になってしまうので、逮捕するしかなかったと。また、猿之助容疑者は入院していましたので、逮捕して留置に耐えられるか否かという医師の判断が必要でしたので、それを準備していたということも考えられます」

Q.猿之助容疑者が「捨てた」と供述した薬のゴミは、警察は追いかけていますか?
(佐々木氏)
「間違いなく追いかけています。集積場からゴミの収集場、処分場まで捜査をしていると思います。ただ、『薬を飲ませた』と言っているのに、薬のパッケージを証拠隠滅する理由が何なのか。現場からは見つかっていないにも関わらず、『両親にビニール袋を被せた』と積極的に供述している観点から見ても、なぜ処分したのかという理由を供述で得ていくと思います」

Q.今回は「母親への自殺ほう助」での逮捕ですが、母親のご遺体を見ると、無理やり飲ませたのかどうかが分かるのですか?
(佐々木氏)
「私も薬物中毒で検視を行った経験がありますが、薬物を無理やり大量に飲ませることは不可能だと感じます。無理やり飲ませるとすれば、口を大きく開けさせて、薬を無理やり入れて、水を流し込みますが、そうなると着衣が濡れていたり、顔などに圧迫痕があったりなどの証跡が残ります。今回はそういった状況が何一つないということと、猿之助容疑者の供述に矛盾がないです。ただ、この41日間の捜査の中で『自殺ほう助』を立件する上では、『母親に自殺の意思が明確にあった』ということを明らかにしなければいけません。それを、容疑者の供述だけではなく、現場検証や司法解剖の結果、その他いろいろと総合的に判断して、『これは自殺ほう助だ』ということで逮捕に至ったと思います」

Q.今後、どういうところを捜査していきますか?
(佐々木氏)
「今回の『自殺ほう助』での逮捕においては、検察側は起訴に強い自信を持っていると思います。例え容疑者の供述が変性したとしても、『自殺ほう助での起訴は揺るがない』というそれなりの証拠を持っているのかなと。ただ、警察は検察庁と協議をしながら捜査をしていますが、ほとんどが『打ち消しの捜査』です。考えられるのは『殺人』『同意殺人』『嘱託殺人』『自殺ほう助』で、その中からいろんなことを打ち消したうえで、『自殺ほう助』という判断をしたんだと思いますが、『自殺ほう助』で大切なのは、『自殺の意思が明確にある』ということです。となると、父親に関しては、自殺の決意というのを自分で発信することができたのか、自らその薬を飲むことができたのかが分からず、『打ち消す捜査』がかなり難しいのではないかと思います。また、猿之助容疑者だけでなく母親が関わっている可能性も、まだ打ち消せないんじゃないかなと。ですので、まずは『母親に対する自殺ほう助』で逮捕し、猿之助容疑者から詳しく経緯を聞くことが、今後の捜査に重要な役割を果たすのではないかと思います。ケアマネージャーや担当医、看護師などに聞いて、自分の考えを発信できる状態だったのかなど、当時の父親の健康状態や、どういった症状だったのかを調べることは、すごく重要なポイントになると思います」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年6月27日放送)

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