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【独自解説】米中関係に緊張…波紋を呼ぶ、ぺロシ下院議長の台湾訪問「北京の武力行使の芽を助長するかもしれない」緊迫する台湾情勢を専門家が解説
2022年8月4日 UP
8月3日、台湾を訪れたアメリカのペロシ下院議長と蔡英文総統が会談し、ペロシ氏は、「この訪問は、台湾との連帯を示すためだ」と意義を強調しました。一方、中国は強く反発し、台湾との貿易への規制を相次いで発表したほか、台湾周辺で実弾を使った軍事演習を行うとしていて、圧力を強めています。緊迫する台湾情勢、アメリカの現職の下院議長としては25年ぶりとなる台湾訪問の意味とは?外交ジャーナリストの手嶋龍一氏が解説します。
8月3日、台湾・台北市で行われた会談でペロシ氏は、「アメリカは民主党も共和党も、下院と上院も台湾への支持で一致している」と述べ、「これまで以上にアメリカが台湾と連帯するのが重要であり、これが訪問のメッセージだ」と強調しました。また、蔡総統は、「台湾海峡の安全は世界の焦点だ。台湾は軍事的脅威に屈しない。世界の民主主義国家と協力していく」と述べ、中国に対抗するための連携強化を求めました。
一方、中国の王毅外相は談話を発表し、「台湾問題でトラブルを起こし、挑発することは全くの徒労であり、必ず頭を割られて血が流れる」とアメリカを強く非難しています。さらに中国軍は、8月4日~7日まで、実弾を使った「重要軍事演習」を行うと発表。6か所の演習区域は台湾を取り囲むように設定され、船舶や航空機の通行を禁じるとしています。
Q.ペロシ下院議長の台湾訪問には、どんな影響があるのでしょうか?
(外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏)
「ペロシ下院議長の台湾訪問というのは、確かに思い切った決断ではありますが、単に現地で米中の軍事的な対決、緊張が高まっているだけではありません。最大の問題は北京とワシントンの間のこれまでの米中の安定的な基盤といわれた、政策そのものに亀裂が生じてきていることです。その中で、ペロシ下院議長は、『自分の従来の対中政策とは矛盾しない、あまり変わりがない』という重要な発言をしています」
(手嶋氏)
「バイデン政権だけではなく、超党派のアメリカの対中政策は、二つの柱から成り立っています。一つ目は、“一つの中国”=“ワン・チャイナ・ポリシー”です。言葉を変えると、台湾の独立を支持したり、これを与しないということです。もう一つは、“台湾海峡問題の平和的解決”を求めるという事なんです。ペロシ下院議長が言っている、『自分の主張に変わりがない』というのは、“ワン・チャイナ・ポリシー”=台湾の独立を支持しない、という所には変わりがないということです。しかし当面、軍事的な緊張が非常に危険な状態なのは、二つ目に関わります。アメリカ側が『平和的解決を求めていく』と言っていても、『もし中国が台湾海峡に軍事力を、と言うときには、伝家の宝刀を抜くことをためらわない』というふうに言っているわけですから、二つ目については、政策を大きく変えているということなのです」
Q.中国はペロシ下院議長の台湾訪問に激しく反発していますよね?
(手嶋氏)
「そうですね。中国は『これまで米中の安定的な関係そのものを崩すんだ』と言っていて、実は中国が非常に激しく反発しているのは、二つのアメリカのポリシーの2番目だけではなく、1番目の“ワン・チャイナ・ポリシー”自身もないがしろにしていると。この点で、双方の言い分は食い違ってきているということになるのです」
Q.アメリカのブリンケン国務長官からは、「ペロシ氏は、政府とは独立した下院議長で、自身の判断で台湾へ行った」という発言もありましたが、ホワイトハウスはどこまで関与しているのでしょうか?
(手嶋氏)
「私が長くホワイトハウスで取材している感じから言うと、それはあくまでも建前で、バイデン大統領とペロシ下院議長は与党同士ですし、相当水面下で緊密にちゃんと話をしていると思います。バイデン大統領が政権の座に就くときには、バイデン民主党の綱領があって、それに同意をしているので、その点で中国政策のような大事な物については、両者の間にはちゃんと表側があっています。バイデン大統領とペロシ下院議長の政策にそんなに違いがなく、つまり『台湾の平和的解決』と言って武力の行使については曖昧にしておくという政策だったのが大きく変わり始めています。中国はそれを問題にしているだけではなくて、“ワン・チャイナ・ポリシー”が崩れてきているのだと言っているのです」
Q.バイデン大統領が台湾に乗り込んだのであれば中国側が反発するのは分かるんですが、ペロシ下院議長が行ったことに対しても、ホワイトハウスの捉え方と中国政府の捉え方には齟齬が生まれてくるということですね?
(手嶋氏)
「そうなんです。一連のペロシ下院議長の台湾訪問、さらにその背後にいるバイデン大統領は、もしかすると北京に誤ったシグナルを送るかもしれません。そうすると北京の武力行使の芽を助長するかもしれない。この問題を一貫して取材している立場からすると、そのこと自身が一番危険だと思います」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年8月3日放送)


