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どうすれば戦争は終結するのか?

【独自解説】戦争の幕引きを研究「戦争終結論」の専門家、露・ウ双方の視点からみた“終戦”とは…プーチン大統領が目指すのは「根本的解決」か?「妥協的和平」か?

 ロシアは5月9日の「対ナチス・ドイツ戦勝記念日」に、マリウポリでパレードをすると言います。ここで勝利宣言をして、ウクライナ侵攻は終わるのでしょうか?ウクライナ侵攻の落としどころはどこにあるのでしょうか?現代の戦争の幕引きを研究している「戦争終結」の専門家、防衛研究所主任研究官の千々和泰明(ちぢわ・やすあき)さんが解説します。

戦争終結の2つのパターン「根本的解決」と「妥協的和平」

防衛研究所 主任研究官・千々和泰明さんの略歴

 千々和泰明さんは、内閣官房副長官補(安全保障担当)付主査で国際安全保障学会の理事も務めています。専門は「戦争終結論」で、これは戦争の終結分析だけでなく、どうすれば“理性的”に戦争を終結させられるのかを研究する学問です。

戦争終結の2つのパターン

 千々和さんは、戦争終結には大きく2つのパターンがあると言います。1つ目は、“将来の危険”に重きを置いた「紛争原因の根本的解決」です。これは交戦相手を打倒して、紛争の原因を取り除くというパターンです。2つ目は、「妥協的和平」。これは“現在の犠牲を回避する”ことを重視しているもので、交戦相手に妥協して、その時点での犠牲を回避するというパターンです。

「根本的解決」で終結した第二次世界大戦

Q.「紛争原因の根本的解決」の具体例は?
(防衛研究所 主任研究官 千々和泰明さん)
「第二次世界大戦時の“ナチス・ドイツ”に対する連合軍の対応です。ナチス・ドイツはヨーロッパを支配し、ユダヤ人に対する大虐殺も行いました。こういった体制と妥協して、引き分けのような形で戦争を終わらせても、結局ヒトラーを休息させるだけで、再びナチスと戦わないといけないという危険があるわけなので、どんなことをしてでもヒトラーを潰さなければいけなかったのです」

「妥協的和平」で終結した湾岸戦争

Q.「妥協的和平」の具体例は?
(千々和泰明さん)
「湾岸戦争のときに、イラクのフセイン体制がクウェートに侵攻したので、多国籍軍がイラク軍を撃退しました。しかし、バグダッドまで攻めていって、戦争を起こしたフセイン体制を打倒したかというと、そうはしませんでした。それは当時の多国籍軍が、自軍側の人命の損失というものを最小限に抑えたいと判断したからです。結果的にフセイン体制を延命させました」

どうすれば終結?考えられる3つのシナリオ

誤算だったプーチン大統領の見積もり

Q.ロシアにとっての“将来の危機”は何ですか?
(千々和泰明さん)
「ロシアは“将来の危険”という部分があいまいです。“NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大”が危険だといいますが、2月24日の時点で、ウクライナがNATOに“すぐに加盟する”という話は全くなかったわけです。プーチン大統領独自の歴史観・世界観の中で、『ウクライナをロシアの勢力圏に入れておかないと危険だ』と思っていますが、我々は『ロシアはこういう危険を感じている』と納得できないんです。そこが、この戦争に世界が戸惑っている大きな要因だと思います」

Q.この戦争でロシアが目指していたのは?
(千々和泰明さん)
「ロシア側の『根本的解決』の極みは、ウクライナの完全属国化・非ナチ化となります。『妥協的和平』の極みはウクライナからの撤退になります。過去にロシアが起こした、グルジア侵攻ですとか、クリミア侵攻などでは犠牲が非常に少なかったので、今回もキーウを短期間に陥落させ、少ない犠牲でウクライナの完全属国化、『根本的解決』を達成できると、当初は見ていたと思います。」

千々和氏が考える3つのシナリオ

Q.今、ロシアは簡単にキーウ陥落ができず、東部・南部でも苦戦していますが、ロシア側から見て、ウクライナ侵攻の終結はどう言った形になると考えますか?
(千々和泰明さん)
「1つ目は、東部でウクライナが勝利する。そしてロシア軍が撤退すれば、これは『妥協的和平』の極みといえます。2つ目は、東部でロシアが勝利する。そしてロシアは、その後南部と首都キーウに侵攻する可能性も出て、『根本的解決』に近づくといえます。3つ目は、ロシアが核などの大量破壊兵器を使用した場合、NATOが介入してパワーバランスが変わり、新たな戦争に発展する恐れがあります。ウクライナの抵抗が、今後ロシアをどこまで『妥協的和平』に持っていけるかのカギです。ただ、権威主義国家ロシアは、『妥協的和平』を選びにくく長期戦になると思われます」

Q. 「妥協的和平」はないということですか?
(千々和泰明さん)
「ロシアが『すみませんでした』と荷物をまとめて帰ると言うのは、現状ではなかなか考えにくいことです。東部戦線でどこまでウクライナが抵抗を示すことができて、ロシアを押し返すことができるかというのが焦点だと思います」

ウクライナ側から見た戦争終結は?

「冬戦争」の経緯と、重なる「ウクライナ侵攻」

 ウクライナ侵攻とよく似た例に、1939~40年に起こった「冬戦争」があると言います。反共産主義思想が進んでいたフィンランドに脅威を感じたソ連が、傀儡政権の樹立を目指してフィンランドに進攻を開始しました。フィンランドの徹底抗戦により、一時攻撃を停止したソ連でしたが、その後再び侵攻を開始。フィンランドは好戦しましたが、結局『和平協定』によって国土の10パーセントを“割譲”することになります。しかし“独立”を守ることはできました。千々和さんは、このときのフィンランドを、今のウクライナと置き換えて考えられると言います。

Q.フィンランドは現在の犠牲を回避して、国土の10%を割譲したのですか?
(千々和泰明さん)
「もしフィンランドが、スターリンとの戦いで犠牲を回避するために武器を置いていたら、おそらく国土の10%では済まなかったと思います。フィンランド全土に対して、ソ連の影響力が及んだと考えられます。ですから、『ここで犠牲を払ってでも戦う』という抵抗を示したことによって、フィンランドは独立を守ったということです」

Q.ウクライナの場合も、徹底抗戦しかないのでしょうか?
(千々和泰明さん)
「“現在の犠牲”と“将来の危険”というのはトレードオフの関係になりますので、決断として非常に重たい難しい判断になります。今ウクライナの人たちが、主権や独立を守るために戦っているということは尊重されるべきだと思います。そしてウクライナには、国際社会の支援があります。例えば、太平洋戦争末期の日本は絶望的な戦いをしていて、『早く戦争を終わらせることができなかったのか』と私自身も考えるのですが、あのときの世界中を敵に回していた日本と今のウクライナは、同列には扱えません。ここでウクライナの人たちが“将来の危険”を考えて武器を持って戦っているということは、戦争終結論の立場からは合理性がある話だと思います。特にブチャでの大虐殺のように、もしロシアに制圧されて武器を置くしかないとなっても、その後に“虐殺”されたり“強制連行”されたりという悲惨な状況がはっきりしているので、これはウクライナとしてもなかなか武器を置くことはできないと思います。ロシアは今でも、隙あらばキーウへの再侵攻を考えていますし、犠牲を恐れての早期降伏は得策とは言えません」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月26日放送)

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