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亀井正貴弁護士

【独自】社会問題化する“ネット中傷”「厳罰化」は抑止力となるのか?未成年への罰則は?弁護士が独自解説

ネットの“誹謗中傷”が社会問題化

いま、社会問題化しているインターネットでの“誹謗中傷”。法務省は侮辱罪の「厳罰化」への動きをみせています。ネット中傷で問われる民事・刑事の責任と厳罰化について、亀井正貴(かめい・まさき)弁護士が独自解説します。

元アイドルがネット被害で提訴

元アイドルがネット被害に

ネットで中傷被害を受けたとするのは、元「バイトAKB」の梅澤愛優香(うめざわ・まゆか)さん24歳。梅澤さんは、2014年に期間限定で募集された「AKB48」の公式アルバイトメンバーに選出され、翌年に卒業しました。2017年、20歳の時に、地元・神奈川県の大和(やまと)市に「麺匠・八雲(めんしょう・やぐも)」大和店をオープン。現在3店舗を展開しています。2021年10月に4店舗目をオープン予定で、新店舗の目玉は全店で初となる絹ごし麺、その名も「生の絹」。8月時点で、料理9割、店舗8割が完成していたという事でしたが、これが突如“見合わせ”となりました。

梅澤さんへのネット中傷の内容

2021年8月、1人の男性がフェイスブックで、梅澤さんの取引先の業者に“あるメッセージ”を送ったのです。その内容は、「麺匠・八雲さんですが人間性に問題ある方です」、「裏に反社がいるのは事実なようです」という、事実無根の誹謗中傷でした。この取引業者は、お店の看板でもある絹ごし麺の原料を卸す唯一の業者でしたが、このメッセージを受け、梅澤さんは取引業者から取引中止の通達を受けたということです。

梅澤さんによると、男性はツイッターでも中傷行為を行いました「A〇Bの過去の栄光を止めろ そもそも味で勝負したいとか言ってたのに… そもそもバイトAKBだしw」この投稿を受け、梅澤さんが男性をブロックすると「なんなの この店主 間違ったこと云ってないのに… なんなら反論してから ブロックだろ 気に入らない輩はすべてブロックらしいな」梅澤さんが男性をブロックしたことが不当であるかのような投稿を行ったということです。

9月8日、梅沢さんは男性に対し220万円の損害賠償を求め、横浜地裁に提訴しました。ネットを投稿した男性は、今回ミヤネ屋の取材に対し「裁判で正直にお話します」と
答えました。

「名誉棄損」と「営業妨害行為」に

民法で不法行為に問われる可能性

亀井弁護士によると、この様なネットでの誹謗中傷は民法で、「名誉毀損」と「営業妨害行為」に該当する可能性があるということです。名誉棄損による損害賠償の金額については『被害者の属性』、『媒体の伝播の可能性や影響力』、『加害行為の悪質性』、『加害行為の執拗性』などがポイントとなってくるということです。

Q.「被害者の属性」とは、どういうことですか?
(亀井正貴弁護士)
「例えば政治家であるとか、著名人であるとか、あるいは一般人であるとか、その人の属性によって受けた被害が違いますから、それによって金額は違ってきます」

Q. 「媒体の伝播の可能性や影響力」とは?
(亀井正貴弁護士)
「テレビと週刊誌、あるいはインターネットでは違うんです。テレビや週刊誌の方が被害
が大きくなりますから。インターネットは確かにいま、問題視されていますけども、まだ裁判例ではそんなに賠償額は高くありません」
Q.週刊誌は永久に残るから?
「紙としてそのまま残るし、読者が大量ですよね」

Q.梅澤さんのケースの場合、被害や精神的なことを考えると、損害賠償の請求額が220万円は少ないと思うが?
(亀井正貴弁護士)
「名誉棄損の場合は、慰謝料の金額というのはそんなに高くないのです。たいがい平均的には数十万円の話です。今回は経済的な損失を受けていますが、経済的な損失、逸失利益の請求ではなく、あくまで慰謝料請求なので、200万円~300万円ぐらいが請求金額としてはそれぐらいかなと。逸失利益という、本当はこれだけの営業利益を得られるのに得られませんでしたという損害の内容と、精神的な損害の内容とは違うので、今回は精神的な損害だけを請求しているのです」

刑法で問われる罪は?

刑法で考えられる罪

刑事責任を問う場合に考えられる罪としては、「侮辱罪」、「名誉棄損」そして「偽計業務妨害罪」の3つがあげられています。

Q.侮辱罪は「事実を適示せずに公然と人を侮辱すること」ということですが、事実だろうがウソだろうがなんでもいいということですか?
(亀井正貴弁護士)
「そうですね。人を侮辱するような行為は、それが広く成立するのです。しかし、量刑が軽いこともあり、刑事事件として起訴されることは少ないです」

悲劇を生んだ木村花さんへの誹謗中傷 「侮辱罪」厳罰化へ

一方、2020年5月、ネットの中傷を受け22歳で亡くなったプロレスラーの木村花さん。いま、この“ネット中傷”は深刻な社会問題に発展しています。花さんへのネット中傷の中には、20代男性から「テレビ・ネット・社会でも生きてるだけで笑いもの」、「ねぇねぇ、いつ死ぬの?」などという内容で8回にもおよぶ投稿がありました。また30代男性からは「死ねや くそが」、「きもい」などの投稿が複数回あったということです。警視庁は、2021年3月・4月に男性2人を書類送検。「侮辱罪」で略式起訴しました。東京簡易裁判所は、科料9000円の略式命令を出しました。

「侮辱罪」厳罰化の方針

インターネット上の誹謗中傷への対応策として、法務省が刑法の「侮辱罪」を厳罰化する方針を固めたことがわかりました。

現在、「侮辱罪」の法定刑は30日未満の拘留、または1万円未満の科料と規定されていますが、関係者によりますと、法務省は「侮辱罪」を厳罰化し、法定刑に新たに1年以下の懲役・禁錮、または30万円以下の罰金を加え、公訴時効も現在の1年から3年に延ばす方針を固めたということです。9月16日に開かれる法制審議会で諮問されます

Q.「侮辱罪」厳罰化は抑止力になるでしょうか?
(亀井正貴弁護士)
「なると思います。『名誉棄損』の場合は具体的な事実の適示で成立し、一方『侮辱罪』の場合は、例えば侮辱する言葉だけで成立してしまうのです。インターネット上で証拠は保全されるし、確かに影響は大きいですけども、これが一般の会話の中に適応していくとなると、相当注意して発言しなければいけなくなります」

Q.弁護士同士が法廷で議論が白熱した場合に、「それ侮辱罪だろ」と言われると表現の自由も奪われる可能性もある?
(亀井正貴弁護士)
「そうですね、議論が白熱している過程の中で、オーバーな表現が出てくる可能性は否定できないので。それをみんな規制してしまうと、表現の自由に対する規制、抑圧効果が出てくるのではないかなと思います」

未成年への罰則は?

未成年に罰則は?

未成年への罰則について亀井弁護士は、「14歳以上であるかぎり責任能力はあるので、少年法により処遇される。賠償責任も、中学生ぐらいであれば賠償義務を負わされる。加えて、監督を怠った親権者も賠償義務を負う可能性がある」と指摘しています。

Q.14歳以上ですと少年法が適用され、さらに親にも監督責任があるのは大きいですね?
(亀井正貴弁護士)
「これが周知されれば、未成年者の親の監督とか指導も強くなりますから、周知することが大事だと思います」

もし、ネット中傷を受けたら―

ネット中傷を受けたら

ネット中傷を受けた場合の対処法について、東京未来大学犯罪心理学こども心理学部長・出口保行氏は「批判を謙虚に見つめ受け入れることは自分のために必要だが、匿名性に支配されて一方的に攻撃が続くのならば、泣き寝入りしてはいけない。警察に相談するなど相手に責任追及する勇気を」とアドバイスしています。

Q.ネットで中傷された場合、相談するところはある?
(亀井正貴弁護士)
「いっぱいあります。弁護士会でも窓口ありますから」

現在、独自で監視する自治体も増えています。もし、“ネット中傷”を受けてしまっても一人で抱え込まず誰かに相談することが大切です。

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