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4630万円は無事に返還されるのか?

【独自解説】4630万円“誤送”「今まで起こらなかったことがおかしい」町議が語る阿武町の実情、男性利用の『ネットカジノ』違法性は「グレーゾーン」専門家解説

 山口県阿武町(あぶちょう)の職員が“新型コロナ”の臨時給付金として、4630万円を24歳の男性に誤って送金した問題で、この男性が「複数のネットカジノで全額使った」と話していることがわかりました。それに対し、取材に応じた阿武町の花田町長は「事実であれば許せない」と話しています。4630万円は無事に返還されるのでしょうか?また、この問題が起こった要因には、“阿武町ならではの体制”に問題があったと話す町議を直撃取材。そこで浮かび上がった阿武町の実情とは…。ネット犯罪に詳しい、神戸大学の森井昌克(もりい・まさかつ)教授、三井住友銀行の元支店長でお金の専門家・菅井敏之(すがい・としゆき)さん、大阪地検の元検事・亀井正貴(かめい・まさき)弁護士が解説します。

24歳男性が「全額使った」オンラインカジノとは?

「オンラインカジノ」の仕組み

 オンラインカジノは、海外政府の正式なライセンスの下に、合法的に運営できるということです。プレーヤーは、海外の電子決済サービスなどを通じて入金し、チップを購入することでプレーをすることができます。そして、プレーを終えた後はチップが払い戻され、これも決済サービスを通じてプレーヤーの元に出金されるという流れだということです。

Q.海外の電子決済サービスを利用するための海外口座や仮想通貨は、簡単に作ったり交換できたりするものなのですか?
(神戸大学 森井昌克教授)
「今は仮想通貨や海外の直接の口座だけではなくて、クレジットカードも使えます。日本のクレジットカードを海外でも使用することができますよね。それと同じように、別に仮想通貨とか海外に特別な口座を持たなくてはならないというわけではないんです」

神戸大学 森井昌克教授

Q.クレジットカードには限度額がありますが、オンラインカジノのチップ購入には上限はないのでしょうか?
(森井教授)
「オンラインカジノは、限度額は設定していないんです。ですからお金さえ払えれば、チップはいくらでも購入できるという形です。クレジットカードが限度額に達しても、銀行口座、特に海外の銀行口座に入金していれば、それでできますよね」

Q.24歳の男性は、海外の口座を持っている可能性もあるということですか?
(森井教授)
「そうですね。若い人ですから、仮想通貨もやっていたかもしれないですね。仮想通貨は4000万円ぐらいすぐ購入できますので、直接的に仮想通貨でやり取りすれば、それをそのまま使うっていうことはできます」

Q.このオンラインカジノというのは実際にあるわけではなくて、オンライン上にしかないものなのですか?
(森井教授)
「そうなんです。政府のライセンスをもらって本当にカジノを開いているところが、オンラインカジノを開いているところもあるのですが、オンラインだけでもカジノを開けますので、それが海外にあって、それを日本の人が利用するという形になっています」

大阪地検元検事 亀井正貴弁護士

 亀井弁護士に、オンラインカジノは罪に問えるのか質問したところ、日本における「賭博法」の成立には、運営側と利用者の両方を裁くことを前提にしており、海外で合法のオンラインカジノを使用していた場合、罪に問えるかはグレーゾーンだということです。

(大阪地検元検事 亀井正貴弁護士)
「まずカジノをやったといっても海外なので、どこまで立証できるのかという問題があるのと、捜査を日本でやるとして、賭博行為そのものを日本国内でやったのかという、そういう論点もあるので、起訴するには難しい問題があって、今はグレーゾーン化しています」

Q.いわゆる日本の闇カジノは違法ですが、日本では法整備が追いついておらず、海外政府のライセンス発行機関が開いているとなると、日本でカジノをしたとしても違法かどうか分からないということですか?
(亀井弁護士)
「そうですね。法が追いついていないというより、そういう規制をする必要があるかどうかという議論がどの程度なされているかも問題だと思います」

背景に阿武町の“深刻な事情”!? 2人の町議に直撃

阿武町議会 米津高明議員

 この“騒動”は一体、なぜ起きたのか?阿武町の町議に独自取材を行いました。その背景について、「“今まで起こらんかったこと”が、おかしいんかなと思ってて…」と話すのは、阿武町議会・米津高明議員。“誤送金”を招いたのは、阿武町役場のシステムに問題があると言い、「今回ミスしてしまった職員は、新人だった。新人を大事な部署に配属していたのであれば、ベテランの方がフォローにつけるなど対策を取れば、こういう問題を防げたのではないか」と話しました。

阿武町議会 上村萌那議員

 ではなぜ、税金を扱う重要な部署の担当者が、新人を含む2人だけだったのでしょうか。同じく阿武町議会の上村萌那議員は、「阿武町は『平成の大合併』で市との合併を避け、単独政権の道を選んだ。キャンプ場を作るなど独自のまちづくりをするとともに、節約できる部分として人員の削減をしていった。阿武町の職員たちは1人で多くの仕事量を抱え、マンパワーが不足していた中で起こってしまった事故だと思う」と話しています。

三井住友銀行元支店長 菅井敏之さん

Q.本来、役場の中にはそれぞれ課があって、役割が違うと思うんですけれども、簡単に誤送金はできるものなのですか?
(三井住友銀行元支店長 菅井敏之さん)
「通常、普通の会社では、振込依頼書を担当者が起案をして、それが適切であるかどうかを別の人間がダブルチェックをします。金額が間違っていないことが承認されて初めて、銀行に申し込むなり、送金を行うという手続きを取ります。大きなお金が自分の組織から外に出るわけですから、決裁の際にはやはり管理体制というか、どういうルールになっていたのか、そのルールに対して実際はどう行われていたかの説明を、今回のケースの場合はぜひお聞きしたいなと思っています」

“誤送金”が起こった経緯

Q.手続きに使用されたフロッピーディスクですが、銀行側から使用を依頼するケースもあるのですか?
(菅井さん)
「今回のケースは、銀行が町役場に対して『フロッピーディスクで行ってくれ』と依頼したという説明が町からあったと報道で聞いていますが、実はもうフロッピーディスクなんていうのは遺物化していまして、今はほぼオンラインになっていて、現物でやり取りするというのは全部廃止しています。やはりヒューマンリスクがありますから、人手に渡れば渡るほどリスクは増えますので、ほとんどの企業や組織は、組織で使っているパソコン上で振り込み先と振込銀行起案をして、担当者が起案したものと責任者のパスワードを入れたものを突き合わせて、それで初めて送金されるというようなシステムで対応しています。いまだにフロッピーディスクでやっているというのは、本当に僕もびっくりしました」

Q.お金の取り引きは、どんどんオンライン化しているということですよね?
(菅井さん)
「おっしゃるとおりです。銀行もキャッシュレス化していますし、オンライン・デジタル化という形で効率化に向けてやっているんですけれども、現場の、特に自治体さんが、もう本当に頭が固いというかですね、変えてくれないんです。この請求機関である山口銀行さんも、2021年4月~6月までは『フロッピーディスクをオンラインに切り替えましょう』というキャンペーンをやっていました。すんなりそういう形になっていれば、もしかしたらこんな事件は起きなかったかもしれない。ただ、これだけ人手不足でマンパワーが足りないのは、同情の余地があります。だからこそ、業務の効率化を図るために、ヒューマンエラーの起きないダブルチェックができる仕組みを、早く作っていただきたいです」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年5月17日放送)

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