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ホームレスの“おっちゃん”にカメラを渡してみた〈前篇〉借金の肩代わり、突然の退社要請…家族も仕事も失い死をも考えた彼らがフィルムに収めたもの

 あなたは、“ホームレス”の人たちの現実を直視したことがありますか―。

 都会のビル群の中で時折目にするホームレスの“おっちゃん”たち。ほとんどの人が、その存在を気に留めることもなく、むしろ見て見ぬふりをしているのではないでしょうか。ホームレス状態にある人の数が、全国で最も多いとされる大阪。この地で長年、ホームレス支援を続けているNPO法人が、ホームレス状態にある“おっちゃん”たちに使いきりカメラを渡し、集まった写真で一冊の「写真集」をつくるプロジェクトを開始。このほど、写真集は完成に至りました。

 ミヤネ屋は、その過程を約400日にわたり密着取材。集まった約1000枚の写真からは、これまで私たちが気付かなかった様々な現実が見えてきました。

“見て見ぬふり”のホームレス問題 …でも、「私たちと地続きの話」

認定NPO法人「ホームドア」事務局長 松本浩美さん

 大阪市の認定NPO法人「ホームドア」は、月に一~二度、弁当などの食料を配布し、路上で暮らす人たちを見守る「夜回り活動」を行っています。「ホームドア」の事務局長・松本浩美さんは、繁華街・梅田周辺の状況を熟知しています。この日も松本さんは、“おっちゃん”に声をかけました。

(「ホームドア」松本さん)
「ずっといなかったから、もう戻ってこないのかなと思っていた」

 顔見知りの“おっちゃん”と再会することも多いという「夜回り」。“おっちゃん”には、持参した弁当を手渡し、近況に耳を傾けます。

“おっちゃん”が描いたスケッチ

 “おっちゃん”は、自身で描きとめた映画のチラシのスケッチを、見せてくれました。

「見せてくれるやつ?これ」(松本さん)
「触らないでよね」(男性)
「触らない、触らないですよ。似てる!すごい」(松本さん)

 「ホームドア」は設立から12年。相談を受けた人の数は、累計で3800人を超えます。

写真集は「関心がない人に届けたい」

 「ホームドア」が今回手がけるのは、“おっちゃん”たちに使いきりカメラを渡し、集まった写真で一冊の写真集をつくるプロジェクトです。動き出したのは、今から2年以上前。編集担当者とは、何度も話し合いを重ねてきました。

「『知ってもらうこと』が、まず“核”にあるとして…では『誰』に知ってほしいのか?」(編集担当「ライツ社」有佐和也さん)
「今回の写真集って、全く知らない人たちが何となくパラっと見て、面白い写真があるなぁ、誰が撮ったんだろう、こういう人たちが撮っていたんだ、という流れで知ってもらいたいんです。あまりホームレス問題に関心がない人たちに届くといいなと思います」(「ホームドア」松本さん)

“おっちゃん”に渡す使いきりカメラ

 協力してくれる“おっちゃん”には、5000円の謝礼を渡します。写真のテーマは、それぞれの“おっちゃん”に一任することになりました。

「とても魅力的な個性を持っている人たちなんだよ、ということが伝わる内容になればいいなと思っているので、ホームレス問題に対する偏見を払拭したり、私たちと地続きの話なんだよということが伝わる内容になればいいなと思っています」(「ホームドア」松本さん)

おっちゃん(1) “借金肩代わり”の末、妻と別れた布川さん(仮名/75歳)

 「夜回り」の同行取材で取材班が出会った布川さん(仮名/75歳)。このプロジェクトへの参加を決めた一人です。

Q.大阪に出て来たのはいつですか?
「昭和37年(1962年)。私はとにかく、じっとしていられない。『何かやるぞ』という気持ちがあって」(布川さん)

 九州地方の中学校を卒業した布川さん。今から60年前、憧れの「就職列車」に乗って大都会・大阪に来ました。高校に通いながら、工業用ミシンの会社で働いていたといいます。その後、短大を卒業するタイミングで、転機が訪れました。

「学校の先生をしようと思って地元に帰ろうと思ったら、田舎の先生に『やめとけ』と言われて。『これから世の中は絶対変わるから。田舎でくすぶってないで都会で自分を磨け』と言われたんですよ。そうかなぁと思って」(布川さん)

 地元の恩師の言葉を受け、大阪で働き続けることを決めた布川さん。会社が海外に拠点を設けた際には、現地法人の幹部に抜擢されたといいます。

「この会社を預かったからには、潰すわけにはいかないじゃないですか。だから闘志が湧いてきました。『よっしゃ、やったろう』という気持ちで」(布川さん)

 順風満帆だった会社人生。しかし地元の父親が事業で借金を作り、さらに脳梗塞で倒れたことから借金を肩代わりすることに…。ここから、歯車が狂い出したのです。

「借金は1500万円。大きいですよ1500万円は…」(布川さん)

 働いた給料の多くは家計ではなく、借金返済と父の治療費に消えました。60代半ばで会社を退職したときも、借金はまだ残っていました。布川さんは、自分がいなくなることで妻の負担を減らそうと、自ら路上に出ることを決めたのです。

Q.家を出たことを後悔することはありますか?
「たまにありますけど。でも、妻は私が居ないだけ長生きしてるんちゃうかな。これで『心配することが一つなくなった』というもんでしょう」(布川さん)

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 この日布川さんが訪れたのは、大阪市内の美術館。カメラを使った撮影は久しぶりのため、シャッターを切るのにも慎重になります。

「懐かしいなと思いながら…」「うわ、全然ダメだわ」「全体が映ればいいんやけど、映らんのや…」(布川さん)

 27枚撮りの使いきりカメラ。何とか撮影を終えた布川さんは、後日「ホームドア」を訪れました。プロジェクトのメンバーとともに、撮影した写真を確認します。

布川さん撮影 “思い出の美術館”

 ここで、布川さんが時間をかけて「美術館」の写真を撮っていた理由が明らかになります。

「これは美術館ですか?」(「ホームドア」松本さん)
「うん、そう。息子が幼稚園のときに絵を上手く描いたんです。『二科展に入選しましたから、子どもさんと同行してください』と言われて。私に絵心なんて全くないのに…二科展なんてすごいからね。ここで、賞状を持って家族で写真を撮りました。それが懐かしかったから」(布川さん)

 布川さんには孫もできましたが、一度も会ったことがないといいます。

布川さん撮影 “大きく変わった大阪の街並み”

 希望を胸に大阪に出てきた半世紀前のあの日から、街並みは大きく変わりました。そして、現在の生活に至ることは、当時はもちろん想像もしていなかったと言います。

 布川さんは、「ホームドア」の支援を受け、年金を受給しながらアパートで独り暮らしを始めています。

おっちゃん(2) “死にたくて大阪に出て来た”加藤さん(仮名/58歳)

元トラック運転手 加藤さん(仮名)

 この日は加藤さん(仮名/58歳)が、このプロジェクトに参加するため「ホームドア」にやってきました。

「ちなみに、何でやってみようと思ってくださったんですか?」(「ホームドア」松本さん)
「写真を撮るのが好きやから、ただそれだけ。死にたくて大阪に出て来たから…」(加藤さん)
「でも写真を撮ろうとしてくれるのは、どうしてですか?」(「ホームドア」 松本さん)
「それは、食べたいものがあるからね」(加藤さん)

 福井県の運送会社で、トラックの運転手として働いていた加藤さん。2020年の年末に退社後、大阪へ。公園を拠点に路上生活を始めました。取材班が出会ったのは、今から1年前のことでした。決まった仕事もなく、炊き出しなどで食いつなぐ日々の中、唯一持ち歩いているカバンの中には、最後に乗っていたトラックの鍵と家の鍵が、大切に収められていました。

 ベテラン運転手で、後進の指導にもあたっていたという加藤さんですが、会社からの要望を受け退社することに…。問題はその後でした。

「年末に入るはずの給料が入ってなかった。何日かしたら入るだろうと思っていたら、一通の封筒がきて、会社が倒産したことがわかって。そこからやね、なんかもうガックリきて…」(加藤さん)

 給料の未払いで家賃が払えなくなり、住んでいたアパートからも退去せざるを得なくなりました。住まいと仕事を同時に失ったとき、そこから再起を図るのは容易ではありません。

「50代になって『あなた今日で終わり』って言われて、すぐに仕事が見つかるかというと、今のコロナ禍で見つかるって相当運がいいですよ。住所がある人は確実に仕事が探せますよね。ネットカフェ難民が仕事を探せない理由は、“住所がない”からでしょ」(加藤さん)

“ホームレス”が陥る「負のトライアングル」

 一度“ホームレス状態”に陥った場合、自力では抜け出すことが難しい「負のトライアングル」が存在すると言われています。「お金」がないと「住まい」は得られず、「住まい」が定まっていないと「定職」を得ることができない、そして「定職」がないと「お金」が得られないという悪循環です。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 加藤さんは街中を歩き、花、見上げた空など、目に留まった場所を撮影していきます。

「花は全部が全部、絶対同じじゃないでしょ?人間と一緒で」
「誕生日にバラをあげた女の子はいましたね。バラの花束、歳の数だけ。ほろ苦い思い出やね」
「何かのきっかけで浮上するかもしれないし、そのまま完全に散っていくかもしれない」
「人間も翼があって、飛べたら気持ちいいんやろけどね」(加藤さん)

加藤さん撮影 “全部が全部、同じじゃない”

 取材班との出会いから1年後、加藤さんに新たな動きがありました。「ホームドア」は就労支援の一環として、シェアサイクルの事業を展開していますが、加藤さんはその中でトラックに乗り、自転車を再配置する業務を担っていたのです。

「たまに言われますよ。再配置とかバッテリー交換していたら、『ありがとうございます』って」(加藤さん)
Q.ちょっと照れませんか?
「まぁねぇ。何でもそうでしょ、誰でも」(加藤さん)

未だ決まった仕事と住まいがない加藤さん

 1年前と比べ金銭面では少し余裕ができた一方、決まった仕事と住まいはまだありません。

「1年前から何が変わったかと言って、ほぼ外で寝てないっていうだけで…普通の生活が送れたら一番良いです」(加藤さん)

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 ホームレスの“おっちゃん”たちが切り取った、約1000枚の写真でつくる「写真集」。密着取材〈後篇〉は、200万円を持ち歩くような生活から一変、今は「空き缶集め」で生計を立てている“おっちゃん”や、20代でネットカフェ生活をする“おっちゃん”の生き様に迫ります。

写真集『アイム』

■写真集『アイム』 発売中
https://www.homedoor.org/iam/

■生活にお困りの方へー。
認定NPO法人Homedoor(ホームドア)
詳細は、以下のURLに掲載されている内容をご確認ください。
https://www.homedoor.org/consultation/

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年6月15日放送)

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