記事
【独自解説】救急搬送相次ぐ“歩きスマホ” 専門家が危険性を指摘「視界は20分の1に減少する」
2021年9月17日 UP
”ながらスマホ”の危険性を示すため研究
公共の場所でスマートフォンの画面を見つめながら歩く、いわゆる“歩きスマホ”で救急搬送される事例が相次ぎ、いま問題になっています。中には死に至るケースも。ある日突然、被害者にも加害者にもなり得る“歩きスマホ”に有効な対策はあるのか。“ながらスマホ”を長年研究している、愛知工科大学名誉教授の小塚一宏(かずひろ)先生が独自解説します。
Q.“ながらスマホ”の研究のきっかけは?
(愛知工科大学・小塚一宏名誉教授)
「平成16年から“ながらスマホ”の研究に着手して、最初は車、次に自転車、それから歩行中と3つのケースをやってきました。なんとなく皆さん危ないなと思っておられると思うんですが、実験データをきちっと示して『データがこうなっているから危ないですよ』と示して、社会の方に知ってもらおうと考えて、道路とか駅のホームなどの現場で実験を行ってきました。」
ほとんどの人が危険性を認識 それでも多発する事故
通信事業者の業界団体が2020年11月に行った、首都圏と関西を対象にした意識調査では、歩きスマホについて「危ないと思う」のは97.6%。ほとんどの人が、危険性を認識しています。一方で、「歩きスマホをすることがある」と答えた人は51.8%。半数の人が、歩きスマホをしてしまっている実態が明らかになりました。同じ調査の中で、歩きスマホをする理由について最も多かったのが、「時刻表や地図アプリを使用するのが便利」というもの。その他にも、「スマホを見るのがクセになっている」、「SNS、LINE、メールなどのやりとりをタイムリーにしたい」、「WEBサイトやニュース、情報などをすぐに見たい」といった回答が多く挙げられました。
東京消防庁による調査では、2019年までの5年間、都内だけで歩きスマホが関連する事故は177件。内訳は、「スマホを操作しながら」、「画面を見ながら」を合わせると7割超。「通話しながら」が6%あまりなのに比べて、非常に多いことがわかります。
歩きスマホをめぐっては、街の人から様々な体験談が聞かれました。
「前方から歩きスマホをしてきた男性に肩をぶつけられ、体が持っていかれた。その結果 ヒザを捻挫した」(50代女性)
「歩きスマホをしている人からすると、こちらがぶつかっていく形になるので逆ギレされることがある。怖い」(60代女性)
「狭い通路のど真ん中を歩きスマホしている人がいると、前からも後ろからも通れなくて邪魔だ」(30代男性)
「以前歩きスマホの人とぶつかり注意をしたが、イヤホンをしていたので、その声すら届かなかった」(40代男性)
実験で検証「通常の歩行」と「歩きスマホ」の視界の差
では、なぜ歩きスマホがこれほどまでに周囲に影響を与えてしまうのでしょうか?小塚先生の研究で、「通常の歩行」と「歩きスマホ」で横断歩道を渡る時に、視線の動きがどのように異なるのか調べた実験では、「通常の歩行」の場合、特に左右方向に視線をしっかりと動かしていて、状況の変化に対応できる状態になっています。しかし「歩きスマホ」の場合、歩く速度は4分の3に減速、視界は20分の1まで減少するといいます。さらに、画面に視線が集中し、左右方向にはほとんど視線が動いていないということが判ったのです。
小塚先生によると、「“見えている”と“認識している”は別。通常は無意識に視線を動かして、周りを認識しながら歩いている。視界に入っていても、視線が動いていなければ認識できていない」ということです。
Q.歩きスマホをしていると、車が横切ってきたり、信号が青から赤に変わったりするのは全く分からない?
(小塚一宏名誉教授)
「そういうことですね。左右方向というのは、実は交通場面で非常に重要なんです。視線移動がなくなりますから、非常に危険です。」
”歩きスマホ“が原因で死亡事故の悲劇も―
歩きスマホが原因で、深刻な事故へと至るケースも増えています。2021年7月、東京・板橋区「東武練馬駅」脇の踏切で、帰宅途中の女性(31)が電車にはねられ、死亡する事故がおきました。警視庁によると、遮断機が下りてくる前に歩いて踏切内に入り、そのとき『スマホを見ていた』ということです。その後、踏切の出口にさしかかったところで警報音が鳴り遮断機が下がるのですが、なぜか女性はその場に立ち止まります。女性はそのままスマホを見ていて、左側から来た電車にはねられたというのです。警視庁は、女性が自殺を図ったのではなく事故と判断。女性はスマホに気をとられ、“踏切の外にいると思い込んだ“可能性があり、当時、踏切近くには数人いたのですが、誰も女性に気づかず、声をかけなかったということです。
Q. 本当に怖い死亡事故で、大変悲惨な事故なんですが、自分が遮断機の外にいるか内にいるか、スマホに集中しているとそれさえも分からないということが起こる?
(小塚一宏名誉教授)
「まず今回非常に痛ましい事故で、お悔やみを申し上げます。たぶんグッとスマホに集中されて、それで周りが十分見えてなかったんじゃないかなと想像しています。人間は、同時に2つの事をやろうとしますと、脳で同時に認識することはまずできません。その人の興味とか関心の強い方に、脳の認識も意識も集中してしまう。ですから今回も、そんなことが背景にあるんじゃないかと考えております。」
”歩きスマホ”を逆手に…“スマホ当たり屋”の被害
また、次のような被害にあうケースも。2019年6月、東京・千代田区の東京メトロ「二重橋前駅」ホームで、30代の女性がスマホを操作しながら歩いていると、突然、男性が右肘をつきだした状態で女性に体当たりをし、女性は全治3週間のケガを負います。男性は3か月後に、傷害の疑いで逮捕。男性は警察の調べに対し「3日に1回はやっていた」と供述。その後、男性は不起訴に。
さらに、2020年3月、大阪・日本橋で「歩きスマホ」をしていた男性が通行人の男とぶつかると、その通行人の男は「歩きスマホしていましたよね?」と言い、持っていた携帯が「壊れた」と主張。「機種代の半分6万円」を請求されたのです。男性は「歩きスマホ」をしていた負い目もあり、渋々4万円を払いました。しかしその後、用事を終えた男性は、同じ通行人の男が別の通行に対し同じ行為をしているのを目撃し、「あなた、私ともそれをやりましたよね」と声をかけると、男は逃げていったというのです。警察によると、スマホを持ったままわざとぶつかってくる、“スマホ当たり屋”による被害が相次いでいて、注意を呼びかけています。
“歩きスマホ”防止のための、携帯メーカーの対策
スマホを使う私たちも気を付けなければいけませんが、携帯メーカーの対策はどうなっているのでしょうか?NTTドコモは、歩きスマホ防止機能として、子ども向けのサービスで「歩きスマホ」を検知すると、音と画面で警告します。画面表示中は、スマホの操作が出来ないようになっています。また、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルや全国の鉄道事業者など、業界各社が協力して「やめましょう、歩きスマホ。」 キャンペーンを実施しています。駅施設内などでの、携帯電話・スマホの「ながら歩き」による利用者同士の衝突や線路への転落などの事故防止を呼び掛けています。
Q.各携帯電話メーカーの対策も色々されているが、歩きスマホ防止機能のサービスは、自分でインストールして入れなきゃいけないと聞きました。自動で入っている訳ではないのですね?
(小塚一宏名誉教授)
「そうですね、例えば親が子どもに危険な場面に遭遇させたくないということで、親が入れるとか、そういうケースも考えられます。しかし、そもそも入れてほしい人が自分で入れない可能性もあって、ちょっと難しい点はありますね。」
”ながら運転”は厳罰化も、“歩きスマホ”に罰則なし
国はこの歩きスマホに対し、どのような対策を取っているのでしょうか?2019年、道路交通法の改正に伴い「ながら運転」は厳罰化されました。自転車でも、5万円以下の罰金が科せられるケースもあります。しかし現状、“歩きスマホ”を罰する法律はありません。
一方、各自治体の条例で規制されている状況もあります。2020年7月、神奈川・大和市が全国初の試みとして施行したのは「“歩きスマホを禁止する”条例」。大和市の大木哲市長は「高齢者社会にも入りますから、高齢者は若い人と比べて瞬時に避けるのは難しい」と、条例制定について語っていました。しかし、罰則規定はありません。この条例の効果を確かめるため、2020年1月と2021年1月に、大和市内の2か所で調査したところ、条例施行前の2020年1月は、歩行者6123人中、歩きスマホをしていたのは740人で、その割合は約12%。一方、条例施行後の2021年1月の調査では、歩行者3667人中、歩きスマホをしていたのは241人で、その割合は約7%。単純計算で5%減ったことになります。このほか、東京都足立区と荒川区、大阪府池田市、京都府、徳島県、三重県に同様の条例があります。
Q. 条例で罰則規定はありませんが、もう1段階厳しい規制というのは考えないといけないかもしれないですね?
(小塚一宏名誉教授)
「例えば法規制まで行くと、公平性を持って取り締まることができるか、ということもありますし、難しい点があると思っております。周りを見ればたくさんの人が同時にやっていますから、それをどう公平性を持っていくかということは難しいですよね。」
「視界に入っている」と「見えている」の違いの認識を
Q. ご提言として、この歩きスマホの危険性を皆さんにアナウンスしていただけますか?
(小塚一宏名誉教授)
「1つだけ技術的な点を言いますと、視界に入っているから見えているんだというのは思い込みで、視界に入った人や車に視線がちゃんと移動して、その知覚情報が脳に届いて初めて本当の意味で“見えている”ことになります。一般的には、スマホをやっていても周辺の状況が視界には入るんですが、視線が行っていないから、それは見えていないんですね。そこが一般的には誤解されている点ですから、みなさん理解していただきたいと思います」
(情報ライブミヤネ屋 2021年9月16日放送)