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【独自解説】元理事長・田中容疑者の妻は「人事にも口出す『相撲部屋の女将さん』」 背任、脱税…不祥事続きの日本大学、謝罪会見を専門家が徹底評価
2021年12月16日 UP
加藤学長の会見は“生焼け”
10月に元理事の井ノ口忠男被告が背任罪で逮捕されその後起訴、11月に前理事長の田中英壽容疑者が所得税法違反容疑で逮捕と、不祥事が続く日本大学。12月10日に開いた謝罪会見の中で加藤直人学長は、「日本大学は田中前理事長と永久に決別し、その影響力を排除いたします」と宣言しました。さらに、今後田中容疑者には日本大学の業務に携わらせないこと、役員報酬・賞与・退職慰労金を一切支払わないことを明らかにし、背任事件の舞台になったとされる日本大学事業部については「清算を視野に対応する」としています。
この会見について、大学ジャーナリストで、就活や大学教育をテーマに論評・執筆活動を行う、石渡嶺司(いしわたり・れいじ)さんが独自解説しました。
Q.加藤学長の会見はどのように感じましたか?
(大学ジャーナリスト・石渡嶺司氏)
「ひと言でいえば、『黒焦げにはなっていないが生焼けで終わった』と見ています」
Q.会見で、なぜ田中前理事長が権力を一手に掌握できたのか、日大で何が起こっていたのか、などについて、加藤学長は「ちょっと…」とおっしゃっていたが?
(石渡氏)
「そのあたりが“生焼け”でした。加藤学長は『就任1年目』をやたら強調されていましたが、『大学の理事』という、経営の責任を負う立場としては長い期間在任されています。ですから、なぜ理事会が機能不全に陥ったのかを、ご自身の経験を含めて話すべきだったのを『私はそれほどでも…』など曖昧な答えに終始されていた。これではちょっと期待外れだったかなと見ています」
井ノ口被告のリベート要求 田中元理事長の権威を借りて…
そして、日大附属病院の建て替え工事を巡り、設計・管理を受注した設計会社に対して、井ノ口被告が2億2000万円のリベートを要求、その送金先が、井ノ口被告の指示のもと、医療法人前理事長・籔本雅巳被告の関連会社に変わっていたとされる背任事件。日本大学は中間報告書で、「井ノ口被告は日大関係者が知らないところでリベートを、日大事業部以外の受け皿で受け取ろうとしていたものと考える」と記しました。
さらに、日大附属病院の建て替えの設計管理者を選定する手続きにおいて、最初に出された提案書が差し換えられ、元々17億3700万円だった設計料が、19憶8000万円になっていたという「水増し」も、井ノ口被告の“働きかけ”によって行われたとされています。
Q.井ノ口被告が、田中元理事長の権威を借りて、意のままに操っていたというのが我々でも分かりますが?
(石渡氏)
「そうですね。しかもこの報告書では『井ノ口容疑者の部下3人も改ざんに関わっていた』と明記されています。であれば、その部下、職員に対して、今後どのような処分を下すのか、“田中カラー”がどれだけあったのかなかったのか、先週の記者会見の時点で明らかにすべきだったと見ています」
設計管理者選定時に評価点を改ざん
日大附属病院の建て替えの設計管理者の選定手続きは、参加した4社がプレゼンなどをして、審査を受け、評価を受けて決まる、というものでした。その結果、4社の中で2位となったB社について、井ノ口被告の意向で、審査員の評価点に点数が加算され、B社に決定したということです。1位だったA社とB社の設計管理料を比較しても、A社は15億6200万円、対するB社は26億6100万円と、B社の方が金額が高いにも関わらず、そちらが選定されたということになります。
日本大学の中間報告書によると、「井ノ口被告の業務遂行に対して、管理部門からのけん制がほとんど利かない状態になっていた」ということです。井ノ口被告が「田中元理事長の了解を得ている」と言い、理事長の名前をかたって立ち振る舞っており、逆らうと人事で報復されるのではないかと恐れられる存在になっていたということです。
Q.田中元理事長は大雑把な人で、お金をどこから引っ張ってきたかよく知らず、井ノ口被告が田中元理事長の名前を利用してお金を集めていた、という可能性もある?
(石渡氏)
「そうですね、そのあたりを今後もっと踏み込んで調査するべきだと見ています。つまり、主体的にやっていたのが田中前理事長なのか、井ノ口被告なのか、今後の捜査が待たれるところです」
田中容疑者の脱税疑惑 関与の疑いある妻の素顔
田中容疑者の脱税について特捜部が示した証拠に、田中容疑者の妻が医療法人前理事長・籔本被告に残した留守番電話があります。田中容疑者の妻が「たくさん頂いてありがとう、主人も喜んでいる」という内容のものでした。田中容疑者が隠していたとみられる所得の中には、籔本被告から提供された現金もあるとみられており、これを裏付ける証拠とみて捜査が進められています。
Q.舞台が奥さんの経営するちゃんこ屋さんで、そこでお金のやり取りが行われていたとしたら、奥さんは金額やもらった相手をすべて把握していたともとれますね?
(石渡氏)
「その可能性が高いと見られています。田中前理事長の奥さんは、大学の理事長婦人というよりは、『相撲部屋の女将さん』と当てはめればしっくりくるんです。『相撲部屋』に所属する学生の相談に乗ったり、職員の人事に口を出すなど、結構されてきた方と言われていますので、これは他の大学の理事長の配偶者では、なかなか無い話です」
資金不足による学費値上げは?
日本大学に対し、日本私立大学振興・共済事業団は、文科省から与えられる補助金交付の「保留」を決定しました。来年1月下旬に、減額・不交付について最終判断を下すということです。この流れを受け、学費の値上げを懸念する報道も出たのですが、日本大学はHPで「在学生及び令和4年(2022年)度入学予定の皆様の学費は卒業まで変更ありません」とお知らせをしています。
Q.学生さんに影響しないとは言っているものの、一連のお金のやり取りとは別に、今後日大をどうしていくのか、どう変わったのかを、ちゃんと説明しないとダメですよね?
(石渡氏)
「ダメなんですけど、12月10日の記者会見では、残念ながらそれを示せていないんですよ。一部報道などで、とありましたが、これは多分私の記事のことです。その記事にも書いたのですが、過去10年間で、日本大学は学費を10%~20%程度値上げしています。これは、同じ偏差値ランクの同じ系統の学部と比較した場合、他の大学の場合数%程度の値上げしかしていないんです。高くても9%。今回、補助金の不交付という厳しい処分も予想されますので、そうなると値上げは避けられないのかなと見ています」
Q.学生さんにとって、「ちゃんこ屋さんの自宅におれの払った金があるのか…」と思うと嫌ですよね?
(石渡氏)
「そうですね。日本大学って、実は資産が3000億円ある大学なんです。だから本来は、学費値上げなんて必要ないんです。ところが客観的データとして、過去10年間で2回の補助金カットの処分を受けていまして、それを受けて学費を値上げしている。だから本来であれば、先週の金曜日の記者会見のときに、『過去は学費を値上げをしていました、だけど今回の不祥事では、うちの資産を売却してでも学費は値上げしません、学生をちゃんと守ります』と、加藤学長が言うべきだったんですが、それを言っていないというのが、生焼けの記者会見の象徴的な場面だったと見ています」
Q.日本大学は、早い段階でもう1回、きちんとした会見をやらないとダメですよね?
(石渡氏)
「少なくとも、『田中前理事長や井ノ口容疑者と、今後永久に決別します』と言っていますが、その決別するというのは具体的にどういう方法なのか?あるいはその部下がまだ山のようにいるはずなんですが、その部下に対しての調査はこのようにします、など、今後改めて記者会見をして方向性を示さないと、なかなか日本大学は信頼されないのかなと見ています」
(情報ライブ ミヤネ屋 2021年12月14日放送)


