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北朝鮮も深刻な少子化

【異変】北朝鮮で五つ子誕生を大々的に報道 背景に深刻な少子化?「ヤギミルクの無料配布」「住宅の提供」など支援策推進も…専門家からは苦言

 今、北朝鮮では、国内初となる“五つ子”の誕生を大きく報じていて、その背景には深刻な少子化問題があると指摘されています。金正恩(キム・ジョンウン)総書記が多くの子育て支援策を打ち出すも、専門家からは苦言も…。朝日新聞の外交専門記者・牧野愛博氏の解説です。

■出産報道ラッシュの背景にあるのは少子化問題か

北朝鮮で初の五つ子

 2025年6月、北朝鮮の国営メディアが報じたのは、国内初の五つ子の誕生です。2025年1月31日に生まれた三女二男の五つ子で、北朝鮮屈指の専門病院で最上級の医療と医師らのサポートを受けたということです。赤ちゃんはチュンジョン、ソンリョン、タジョン、ハリョン、リジョンと名付けられたといいますが、上の文字をつなぎ合わせると、『チュンソンタハリ』となり、韓国語で『忠誠を尽くす』という意味に。母親は「朝鮮労働党と社会主義制度により、見たこともない福をもらった。子どもをしっかり育てて、党に恩返しがしたい」と話したといいます。

 7月11日付の『中央日報』では「子どもの名前まで最高指導者への忠誠を表す道具になっている」と指摘しています。

別の日には三つ子も誕生

 また、別の日には、女の子の三つ子の赤ちゃんの誕生が報道されました。このほかにも毎月のように伝えられている三つ子誕生のニュース。なぜこれほど頻繁に報じているのでしょうか。その背景にあるとみられるのが、少子化問題です。

深刻な少子化問題

 日本・韓国・中国でも少子化が進む中、実は北朝鮮の少子化もかなり深刻だといいます。国連によると、北朝鮮の女性1人が生涯に産む子どもの数を表す『合計特殊出生率』の推計は、2024年で1.78と、人口を維持していく2.07を下回っていて、2034年には人口が減少に転じるとされています。

感極まる金総書記

 少子化に歯止めをかけるべく動きだした金総書記は、2023年には母親の存在をたたえる『全国母親大会』を開催しました。開会のあいさつでは「出生率の低下を防ぎ、子育てや教育の問題も母親たちと力を合わせて解決しなければならない」と、公式の場で初めて少子化について言及し、母への思いに感極まったのか、ハンカチで目元を拭う場面もありました。

11年ぶりの大会

 さらに閉会式では「子どもをたくさん産み、育てることが愛国心だ」と強調しました。11年ぶりに大会を開き、最高指導者自らが呼びかけるほど、少子化は差し迫った課題となっています。

■手厚い出産・育児支援があるも少子化加速のワケは

ヤギミルクなどを無料配布

 北朝鮮では一体、どんな出産・育児支援が行われているのでしょうか。

 朝鮮中央テレビによると、子どもたちの栄養源として、国は1万頭余りのヤギを飼育し、毎日、ヤギミルクなどの乳製品を無料で配布。働く親のための託児施設も作ったということです。

手厚い支援があるものの…

 さらに3人以上の子どもを産んだ世帯には、新しい住宅が提供され、子どもの数によって、特別補助金が支給されるなど、手厚い支援があるといいます。出産・子育て対策がされているにもかかわらず、なぜ少子化が加速しているのでしょうか―

出生率低下の主な要因

 北朝鮮の人口研究所は、若者の晩婚や結婚の放棄、家庭を築いても子どもを少なく産もうとするのが出生率低下の主な要因だと指摘しています。

韓国・統一省によると

 一方、韓国統一省『2023北朝鮮の人権報告書』では、“食料不足・女性の過酷な労働が要因”なのではないかと分析しています。“過酷な労働”とは、機械工場で働く“臨月の女性”が倒れて流産したことや、農場で働く“妊娠5か月の女性”は、休暇を取ることができず、倒れて流産してしまったことなどを挙げています。

矢継ぎ早に支援策を推進

 北朝鮮は2022年には育児法を改正し、栄養食品の無償供給を約束しました。2023年11月には子育て中の母親を積極支援することを各組織に通達。そして2024年8月には多子世帯優遇として、平壌(ピョンヤン)ニュータウンに優先入居させたり、8歳以下の子どもを2人以上育てる母親は、労働時間の短縮や有給休暇の倍増、育児休暇の取得が可能になるよう制度を改正するなど矢継ぎ早に支援策を推進しています。

朝日新聞 外交専門記者・牧野愛博氏

Q.続々と支援策を出していますが、全てできているのでしょうか?
(朝日新聞 外交専門記者・牧野愛博氏)
「全てやろうとしていますが、ザルに水をかけているような状態だと思います。取材によると、北朝鮮の小学校は、午前グループと午後グループに分かれていて、一日中勉強しているわけではないんです。国が給食を提供できないので、給食の時間は家に帰っています。そして午前中に勉強した子は、午後は勤労奉仕で、鉄くずを集めたり、草むしりに行ったりしないといけないんです。そういう過酷な状況を、まず改善しなきゃいけないのに、そこを放っておいて、こんな事業をしても、多分解決にはなりません。根本的なインフラが弱すぎるという印象です」

離婚を禁止?

 韓国統一省によると、支援拡充の一方で、行政処罰法で離婚を禁止しているといいます。「性格の不一致」「親の扶養」「金銭問題」などの不当な動機と目的で離婚した者は、“労働教養処罰”に科せられ、さらに2022年からは中絶も処罰を強化しているということです。

■“ある人物”の影響で韓国製の子ども向け栄養剤が人気?

子ども向け栄養剤が人気?

 『朝鮮中央通信』によると、2025年5月12日、『第23回平壌春季国際商品展覧会』が開幕し、110社以上が電子機器・医薬品・食品などを出品しました。『KBS』によると、会場では子ども向けの栄養剤も販売されていて、特に“身長成長サプリメント”が関心を集めたといいます。その理由としては、“ジュエ氏”とみられる金総書記の娘の急成長した姿が影響しているのではないかということです。

 そして『RFA』は、現地情報筋の話として「韓国製の“子ども栄養剤”の効果が高いと評判で、韓国の4倍の価格でも、品薄になるほど」、「背が低い人は集団生活の中で委縮してしまう。子どもに満足な食事を与えられなくても、背を伸ばす薬だけは買おうとする」と報じています。

(牧野氏)
「北朝鮮は、1980年代ぐらいまでの名残で、男の子を中心に“身長は高くないといけない”という考え方があります。男性は軍隊に行くので、背が高くないと、軍隊の入隊検査の時点で外されてしまいます。軍にも行けない人間は、社会的に評価されない風潮があったので、親は子どもを一人前にしなきゃいけないという意識があり、『身長を高くしてあげないと』という気持ちが今も残っているんだと思います」

(「情報ライブミヤネ屋」2025年7月17日放送)

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