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ロシア国内で一体何が?

【独自解説】ロシア国内で数々の「異変」 軍関係者の不審死、処刑動画を称賛する次期大統領候補、反旗を翻した大富豪…プーチン大統領“窮地”の実態

 11月13日、プーチン大統領が一方的に併合を宣言していたウクライナ南部・ヘルソン州から、ロシア軍が撤退しました。ウクライナ当局によると、ロシア軍はドニエプル川の西岸から撤退し、ザポリージャ州のメリトポリやドネツク州のマリウポリに、兵力や装備を集中しているということです。新たな局面を迎えているロシアによるウクライナ侵攻ですが、一方で、軍関係者の不審な死や、大富豪がロシア国籍を放棄するなど、国内でも様々な「異変」が起こっているといいます。今、プーチン大統領に何が起こっているのでしょうか?ロシア情勢に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授が徹底解説します。

ヘルソン州“ナンバー2”が「事故死」 浮上する殺害疑惑

ロシア軍の動き

Q.プーチン大統領にとって、ヘルソン州から撤退しないといけないというのは想定外ですよね?
(筑波大学 中村名誉教授)
「そうですね。知人のロシアの政治学者がメールで教えてくれたのですが、ヘルソンから撤退したことは、『日露戦争以来の戦争になってしまうのではないか』という声が出ていると。それほどロシア全土でも、非常に大きな話になっているということです」

ロシア軍撤退を批判していたストレモウソフ氏(写真:AFP/アフロ)

 タス通信は11月9日、ヘルソン州の親ロシア派“ナンバー2”・ストレモウソフ氏(45)が、交通事故で死亡したと報じました。ストレモウソフ氏は事故当日の朝、ラジオ番組で、ヘルソン州からのロシア軍撤退は「裏切りだ」と批判していました。ストレモウソフ氏が亡くなったことを受け、親ロシア派のヘルソン州・サリド暫定知事が弔意を示した動画をSNS上にアップしました。しかしこの動画は、事故前に撮影した疑いが浮上しています。ウクライナの内務相顧問は、「ロシア情報機関『連邦保安局』が事故を仕組んで、撤退に反対するストレモウソフ氏を殺害した」との見方を示しています。

筑波大学 中村逸郎名誉教授

(中村名誉教授)
「そもそもこの事故はなかったのではないか、という話もあります。確かに事故の写真はありますが、人が誰も写っていないんです」

元戦闘員の処刑動画を称賛した次期大統領候補

元戦闘員の“処刑”に「素晴らしい演出」(写真:AP/アフロ)

 ロシア独立系メディア「メドゥーザ」は11月13日、民間軍事会社「ワグネル」の元戦闘員で、ウクライナで投降し「ウクライナ側として戦う」と語っていた人物が、“裏切り者”として処刑された疑いがあると報じました。「ワグネル系」のSNSには、元戦闘員が処刑される動画が投稿され、物議を呼んでいます。この動画について、ワグネル創設者・プリゴジン氏は「素晴らしい演出だ」と称賛し、関与を示唆しています。元戦闘員は、殺人罪で服役中にプリゴジン氏から勧誘を受け、戦闘員になったということです。

「ワグネル」創設者・プリゴジン氏とは(写真:AP/アフロ)

 中村名誉教授によるとプリゴジン氏は、1990年代にレストランなどを経営していて、“プーチンの料理人”と呼ばれる人物です。2002年には、プーチン大統領とブッシュ元大統領との食事会が、プリゴジン氏の経営する水上レストランで開催されました。その後、新興財閥「オリガルヒ」の一人に上り詰め、ウクライナ侵攻では「ワグネル」の戦闘員を続々と派遣するなど、ロシア軍のキーパーソンとなっています。米・戦争研究所の10月25日の報告書には、「非常に発言力や影響力を強めてきていて、プーチン大統領はプリゴジン氏の言うことを聞かないといけないところまできている」とあり、中村名誉教授は「次期大統領に最も近い男か」としています。

Q.「素晴らしい演出だ」という言葉、非常に恐ろしい表現ですね?
(中村名誉教授)
「プリゴジン氏は、どんどん囚人の動員をかけているのですが、『戦地に行けばお金を渡すが、裏切ったら殺害すると予告している』と開き直っているんです」

Q.プーチン大統領は民間軍事会社である「ワグネル」に頼らざるを得ない、そしてプリゴジン氏はどんどん力を持ってきているということですか?
(中村名誉教授)
「そうです。アメリカで中間選挙がありましたが、その直前にプリゴジン氏は、『これまでのアメリカの大統領選挙、今回の中間選挙にも、どんどん介入している』と豪語しました。まるで自分がロシアの大統領かのような言動です。さらにすごいのは、次期大統領のポストを狙うには財力がなくてはいけませんが、『ワグネル』という組織は2014年以降、アフリカに進出して政府軍をサポートしています。その代わりに、アフリカの10か国以上のダイアモンドの採掘権を得ていて、本当にたくさんの金を持っている人なんです」

プーチン大統領の“健康不安説”

 一方のプーチン大統領について、イギリスメディアの「ザ・サン」は11月1日、ロシア治安当局の情報として「プーチン大統領は初期のパーキンソン病と膵臓がんと診断された」と報じました。根拠として、右手甲にある注射痕をあげています。ロシア情報員は、「最近診断されたすい臓がんを抑制するために、あらゆる種類のステロイドと鎮痛剤治療を定期的に受けている」としています。

Q.健康不安説はやはり消えないですね?
(中村名誉教授)
「はい。神経科の医者が『プーチン大統領はかなり精神的なストレスが強くて、表情や体の動かし方を見ると、精神的にもかなり病んでいるのはないか』とみている、という情報もあります」

大富豪の国籍放棄に強硬派の台頭、窮地に立つプーチン大統領

ロシア国籍を放棄したオレグ・ティンコフ氏

 そんな中、11月1日、ロシアのオンライン銀行の創業者、オレグ・ティンコフ氏が、自身のSNSで「私はロシアの国籍を捨てる。プーチンのファシズム政権とは付き合えない」としました。ロシアメディアによると、2022年にロシア国籍を放棄した人物は5人目になるということです。オレグ・ティンコフ氏は、2021年現在の総資産が6600億円という、長者番付に載るような大富豪です。4月にはSNSで「Zの文字を書くバカがいるが、どの国にも1割はバカがいるものだ。ロシア人の9割は戦争に反対している」とし、さらに西側諸国に対して「プーチン氏が面目を保ちつつ、虐殺をやめられるよう出口を明示してほしい」としていました。

 さらに、モスクワ市職員の2~3割がロシア国外に出国しており、住宅・医療・教育に影響が出ています。国外への出国数は、2022年7月~9月末の間に約1000万回に上りましたが、これは4月~6月の約2倍にあたります。また、「動員令」が発令された9月21日は、近隣の出国便の航空券はすべて完売し、陸路の国境では数kmの渋滞が発生しました。

Q.大富豪たちがどんどん国外に脱出してしまうとロシア経済も厳しくなるし、プーチン大統領も戦費がないということですよね?
(中村名誉教授)
「そうですね。なぜこういう人達が国外に出てしまうかというと、自分の持っている企業をロシアが国有化しようとしているんです。例えば、オーナーが持っている株をタダ同然で売れと迫られているのです」

ヘルソン州をめぐる動き

Q.今後のロシア軍の動きについて、撤退の際に橋なども壊していますが、怖いのはダムの破壊ですね?
(中村名誉教授)
「そうなんです。破壊したダムの北側に原発があります。その原発の冷却水は、ドニプロ川から取っているんですが、ダムが決壊していくと水位が落ちて、原発が冷やせなくなる危険性があります」

Q.プーチン大統領の周りには、影響力が強い人がいるのでしょうか?
(中村名誉教授)
「周りには3人、強硬派がいます。今回の戦闘がロシア側に不利になればなるほど、この強硬派の発言力がどんどん強くなっていって、プーチン大統領自身の実権が段々と弱体化してくるという、非常に危険な状態になってきます」

Q. ロシアやソ連の歴史を見ると、大きなクーデターが起こって突然大統領が代わることは少なくて、2~3年経って、気付いたらいない、というのが多いですよね?
(中村名誉教授)
「多いです。ロシアの歴史、ソ連の歴史を見てみると、プーチン大統領ももしかしたら突然いなくなってしまう恐れだってあるわけです。それに代わって、強硬派の人たち、プリゴジン氏が一番有力だといわれていますが、政権を乗っ取るという事態もあります。まさに今のプーチン大統領は、窮地にいます」

Q.強硬派の人たちは侵攻をやめないのですよね?
(中村名誉教授)
「この先どうなるかという予想も出ていますが、強硬派たちが実権を握ると、まるで北朝鮮のようになるんじゃないかという説もあります」

(「情報ライブ ミヤネ屋」 2022年11月15日放送)

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