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【独自解説】プーチン大統領を支える4人の女性 忠誠心誓う“女帝”、信頼厚い“ミニプーチン”、経済支える“救世主”、ウクライナ出身の“元検事総長”…人物像を徹底分析
2022年4月11日 UP
いまや一部の側近すら信頼できなくなっているといわれているプーチン大統領ですが、その能力を高く評価し抜擢している4人の女性が存在します。プーチン政権を支えてきた彼女たちの、生い立ちや過去の言動、大統領の思惑まで、ロシアに28年間在住した国際関係アナリスト・北野幸伯さんが解説します。
影響力No.1の“女帝” ワレンチナ・マトビエンコ氏
1人目は、ロシア初の女性上院議長となった、ワレンチナ・マトビエンコ氏。1949年生まれで、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国(現ウクライナ)の出身です。
とにかくお酒が強く、“グラスのバーリカ“(ウォッカをグラスで飲む人)というニックネームがつくほどです。1989年旧ソ連時代に議員になり、その後1998年にロシアの副首相に就任、2003年~2011年にはサンクトペテルブルク市長に就任しました。2013年には、ロシアで調査された「最も影響力のある女性ランキング」の1位になっています。
ロシアの国会では、プーチン大統領のウクライナ派兵を全面的に後押して「今回の“特別軍事作戦”は戦火を止めるためのもので、そのためには軍事作戦を行うしかありません!」とロシア議会のトップとして、派兵を全面的にサポートする発言をしています。筑波学院大学の中村逸郎教授によると「一時期、プーチン大統領に影響力を持っている人の中でNo.1だろうという話もあり、日本でも北方領土問題の交渉をするなら『まず最初にマトビエンコ氏を窓口にすべき』と言われていました。プーチン大統領に忠誠を誓うだけでなく、大統領の意をくんで様々な発言ができる人です」ということです。プーチン大統領からも高く評価されていて「現代ロシアの“女帝”」とも呼ばれています。
Q.ワレンチナ・マトビエンコ氏はウクライナ出身なのに、ウクライナ侵攻を支持しているのですか?
(国際関係アナリスト 北野幸伯さん)
「マトビエンコ氏は、ロシアと一つの国だったソビエト時代のウクライナが長いので、それほどウクライナ人という意識がないのだと思います」
プーチン外交の秘蔵っ子 マリア・ザハロワ氏
2人目は、“大統領の防波堤”とも言われるマリア・ザハロワ氏。2015年に就任した、ロシア外務省初となる女性報道官です。幼少期は東洋学者の父の仕事の関係で、上海で暮らしています。1998年に、ロシア外務省附属モスクワ国際関係大学を卒業しており、北野さんの後輩にあたります。
1998年から外務省に勤務していて、2005年にニューヨーク国際連合でロシア報道官を務めています。2011年には外務省情報局長次長に就任し、そのときにラブロフ外相の外国訪問の情報支援などを行いました。そして、3月18日“クリミア併合8周年イベント”で「私たちは平和を守り、悪と戦う国民だ。真の自由とは“悪から自由を取り戻すこと”です」と強いメッセージを出しました。
また、2016年のASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議で、ロシア民謡の「カリンカ」に合わせてダンスをして、“踊る報道官”と話題になりました。Facebookでも情報発信を行っていて、親しみやすい一面もある一方で、誰に対してもストレートにものを言う人物でもあります。中村教授によると「外交政策における、プーチン大統領の一番のスポークスパーソンで、それが正しいか間違っているかはともかくとして、どんなに“欧米から批判”を受けてもブレないというのが最も大きな特徴です。芯の強さとやわらかさを兼ね備えた“ミニプーチン”と言える存在で、プーチン外交の秘蔵っ子といえます。プーチン大統領は、ラブロフ外相よりザハロワ報道官の方を信頼しているのでは?」ということです。
Q.プーチン大統領の前座を一人で務めるというのは、普通の報道官ではないですよね?
(北野さん)
「彼女の前の報道官は、そういう目立つ動きはしなかったんですが、彼女は個性が立っていて、若いころから人気がありました。ただ、今はロシアが悪い事ばかりしているので、なかなか苦しい言い訳が多くなっています」
Q.ポストプーチンとして、このザハロワ氏が出てくる可能性は?
(北野さん)
「プーチン大統領は、2030年代半ばまで大統領を続ける意向ですが、プーチン体制が続いていたら、次期大統領という可能性もあるかもしれません」
ロシア経済を安定させた“救世主” リビラ・ナビウリナ氏
3人目は、世界が認めるバンカー(銀行家)、エリビラ・ナビウリナ氏。“プーチン経済の頭脳”といわれる、ロシア中央銀行総裁です。1963年に、運転手の父、計器工場で働く母のもと、一般的な家庭で生まれました。
中学は成績トップで卒業し、1986年にはモスクワ国立大学経済学部を卒業して、1991年に旧ソ連の科学産業同盟で主任専門官などを務めています。その後1994年からロシア経済省経済規制部長や経済省次長など、数々の役職を歴任しています。2013年にはロシア中央銀行総裁に就任していて、これがG8(主要8か国)初の女性中央銀行の総裁になります。その後、2015年〈クリミア編入から1年後〉石油の価格崩壊により、ルーブルの価値が約半分に“大暴落”しましたが、この危機に対しナビウリナ氏は、外貨の浪費を抑え、返済に苦しむ銀行やエネルギー企業を支援して、数か月で経済を安定させました。2016年には、この功績が称えられ「世界で最も影響力がある女性100人」に選出されています。
Q.この方は叩き上げの人ですね
(北野さん)
「本当に天才的な人だと思います。2014年のクリミア併合の時も、ロシアはひどい経済制裁をされているのですが、ナビウリナ氏のおかげで、ある程度の安定をすぐに取り戻せました。この人の功績は、緊縮財政を行って外貨を集め、ロシアの外貨準備高を世界5位にまでしたことです」
実はナビウリナ氏は、今回のウクライナ侵攻を機に「中央銀行総裁を辞任する」と言ったのですが、プーチン大統領は「ダメだ」と言って、再び中央銀行総裁に指名しました。事情を知る関係者によると、「ナビウリナ氏は、プーチン大統領と20年近くに渡って緊密に連携してきた。この段階で辞めると、プーチン大統領は裏切り行為とみなすだろう」ということです。
Q.プーチン大統領が辞任を認めなかったのは、ナビウリナ氏の手腕を認めているからですか?
(北野さん)
「ナビウリナ氏ならなんとかやってくれるであろうという信頼があると思います。プーチン大統領は経済に興味がなく、彼女に丸投げにしているのですが、彼女が辞任を切り出したのは、今回のウクライナ侵攻の停戦後に、ロシア経済を回復させる自信がないからだと思います」
フォロワー20万人以上の人気議員 ナタリア・ポクロンスカヤ氏
4人目は、クリミア共和国の元検事総長、ナタリア・ポクロンスカヤ氏。1980年 ウクライナ・ソビエト社会主義共和国(現ウクライナ)出身で、2002年にウクライナの国立大学を卒業し、検事の道を進みました。
現在はロシア連邦交流庁の副局長で、2014年のクリミア併合の時にプーチン政権が、クリミア共和国の検事総長に任命しています。
Q.自分の祖国が占領されていて、ポクロンスカヤ氏はどういう思いなのでしょうね?
(北野さん)
「実はポクロンスカヤ氏は、反戦の動画を出していて、冷遇されています。今は以前のような、プーチン大統領の側近ではありません」
ポクロンスカヤ氏はツイッターでも「この狂気をとめて、憎しみをこれ以上強くしないで、全てのロシア人とウクライナ人に訴えます。今は割れるべきときではなく、一緒になるべきときです」とつぶやいています。
Q.直接ロシアを責めているわけではありませんが、微妙なニュアンスですね…
(北野さん)
「ポクロンスカヤ氏の動画も見たのですが、見れば反戦だと分かります」
Q.この4人の女性のような人たちがいて、一方で側近は離れていっている。そんな中でもプーチン大統領は、世界を見ていなくて、ロシア国内で自分がどう見えていればいいかということを一番に考えているように思えますが、そういう人なのですか?
(北野さん)
「本来はそうじゃなかったと思います。大統領の一期目・二期目の頃は、西側ともうまくやって、国際社会で良い地位に就こうとしていました。しかし、クリミア併合で国際的に孤立してしまい、“自分の権力を守らなければ失脚することになる”ということになって、国内での守りに入っているのだと思います」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月6日放送)


