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事件概要

【独自解説】山梨・住宅放火事件で19歳少年逮捕 計画的に思える犯行後に出頭、なぜ? 犯罪心理学者「少年は犯行後の状況に思いを馳せられていない」

悲惨な事件の背景に何が?

10月12日、山梨県甲府市で放火された住宅から2人の遺体が見つかった悲惨な事件。警察によると、逮捕された19歳の少年はこの家の高校生の長女に好意を寄せていたということですが、事件の背景には何があったのでしょうか。複数の人が犠牲になる凶悪事件、残忍な犯行にエスカレートする心理はどういうものなのか、犯罪心理学者の出口保行(でぐち・やすゆき)さんとその闇に迫ります。

住宅全焼、2人の遺体には刺し傷が― 事件の概要

山梨県甲府市で10月12日の未明に井上盛司さんの住宅が放火され、焼け跡から2人が遺体でみつかりました。2階にいた中学生の二女によると「言い争う声が聞こえ1階に行ったら見知らぬ男がいた。追いかけられたのでベランダから逃げた」ということです。二女は逃げる際、男に凶器のようなもので殴られ頭にケガをしたということです。その後、2階で寝ていた長女を起こし、長女が警察に通報しました。

逮捕の経緯

警察は、傷害の疑いで19歳の少年を逮捕しました。ガソリンなどをまき住宅に放火したとみられている少年は犯行当日、県内の駐在所に出頭した際に「人を殺してしまった」と語っていました。

2人の遺体 死亡の状況

焼け跡から見つかった井上さん夫婦とみられる遺体には、複数の刺し傷が残っており、中には臓器に達する深い傷もあったことが新たに分かりました。死因は、多量の出血による失血死。捜査関係者によると、夫とみられる遺体は1階の寝室付近、妻とみられる遺体は1階の洗面所付近で見つかったといいます。少年は、寝室で寝ていた夫を最初に刺し、その後で、逃げる妻を追いかけ刺したとみられています。

少年は放火・殺人に関与か

少年は放火についてほのめかす供述をしており、現場からは油を入れる缶も見つかっていて、警察は就寝中を狙った計画的な犯行とみて捜査しています。少年は高校生の長女の知人で「長女に一方的に好意をもっていたが、思い通りにならなかった」と供述しています。警察へのストーカー被害の相談やトラブルなどは確認されていませんが、長女は「少年が以前から気がかりだった」と、警察に話しているといいます。なぜ、一方的な好意からこれほどの重大事件に発展したのでしょうか。犯行の動機は、まだ明らかになっていません。

計画的に思える犯行も、その後の行動に違和感

犯罪心理学者・出口保行さん

Q.犯行時間が就寝中で、複数の刃物を持ち、灯油やガソリンをまいて火をつけた。殺害、放火に至るまで非常に計画的ですね?
(犯罪心理学者・出口保行さん)
「色々なものを準備して犯行に臨んでいるということであるとすれば、非常に計画性の高い犯行であるということは言えるわけです。そもそも殺人や放火というのは、人を殺害することを目的として行うわけですから、計画性が高い犯行というのは圧倒的に多いわけです。やり過ぎたから亡くなってしまった、という話ではないわけですから、そういう面では計画性が非常に高かったんだろうなと考えています。」

少年の犯行状況について出口さんの分析

Q.明確な殺意で証拠隠滅まではかっている。時間をかけて色々なものを用意して計画をたてていた人間が、30キロ離れた駐在所に泣きながら出頭したというのは違和感がありますが?
「少年事件を多く心理分析していて、全国の少年鑑別所に勤務していたんですけれども、たまにこういう重大事件っていうのを起こしてしまった子どもが入ってくるんですね。彼らと話をして面接をして心理分析をしている時に1つ特徴的なのは、少年事件の場合は犯行を実行するっていうところまでは、非常に計画性を持って実行していくんですけれども、その後、そのことがどれぐらい大きなことになるのかっていうところまで思いを馳せていない場合が多いんです。ですから、今回も犯行を起こしました、火をつけましたというところまでは、たぶん計画どおりだったのだろうと思うのですが、それがあまりにも大きく、あまりにも凄惨な状況になってしまったということに対して、本人なりにびっくりして、驚愕してしまって、感情が非常に乱れてしまったってことはあると思いますね。」

Q.火を放ったらこんなに燃えるのかと驚いた、という19歳の少年ですが、非常に幼さ、幼稚性を感じますね?
「そうですね、まだ本当に人格の発達途中の子どもな訳ですから、そういうところまでに至っていない所がたくさんあります。この事件は、ご一家を殺害する、ご一家の誰かを殺害するという、それが大きな目的であっただろうとは思います。とはいえ、火をつけるというような、その家庭に対して攻撃行動を仕掛けるっていう中では、自分も死のうと思っていたということも考えられると思うんですね。自分も死のうと思う、要は自分がうまくいかないから自殺をする、その時に相手を巻き込んでいく、というような事件である可能性も、当然あるわけです。そういう“拡大自殺”という視点も入れていかないと、この事件の解明にはなかなか至らないだろうと思います。」

なぜ家族を?待たれる動機の解明

犯行の動機は?

Q. 容疑者がストーカーのように長女に付きまとっていたとするならば、警察に長女が相談するというのもあるのかもしれないですけど、そこまででもなかったけど『気がかりだった』というのは引っかかるのですが?
(出口保行さん)
「たぶん、好意を持っていたということで、一方的に何か思いを伝えるようなことはあったんだろうと思うんです。ただ、それが上手くいかなかった、それが不満に繋がることはあるでしょう。じゃあそれが相手を殺害するということ、ましてやその家族、家庭まで対象にして事件を起こすということに繋がるのか、という話ですよね。もっと言えば、家庭の中の誰かに対して不満を持っていたというのであれば、個人を狙えばいいことであって、家族を狙う、家庭を狙うという犯行にはなかなか結び付かないですよね。」

少年法改正で考えるべきこととは―

2022年4月から変わる少年法

少年法が2022年4月から変わります。少年法の適用年齢は変わらず20歳未満ですが、改正後は18歳~19歳は「特定少年」として特例規定が設けられます。また原則逆走事件の対象、つまり20歳以上と同じように、検察官に送致される事件の対象を、これまでは16歳以上で故意に被害者を死亡させた事件となっていましたが、改正後、「特定少年」は1年以上の懲役、禁錮にあたる罪も対象となります。また報道規制も変わります。これまで名前や顔写真などの掲載は禁じられていましたが、2022年4月以降は、特定少年は起訴された場合は実名報道が解禁されます。

Q.少年法の改正で、「特定少年」は起訴された場合は実名報道が解禁されますが、どう思いますか?
(出口保行さん)
「“少年の保護”をどういう観点で考えるのか、ということが重要なポイントになってくると思います。そもそも我が国の少年法というのは、皆さんご存じのように『国親思想』といって、国が親になって子どもを育てる、という背景を持ってこの法律が定められているわけで、わたしたちは実務家として、その子どもたちを保護するという立場でずっと今まで働いてきているわけです。その時にこのように、少年法が改正される、報道規制が緩くなる、というようなことに、“今後どうやって子どもを守るのか”という観点も、常に頭の中に入れておかないと、一方的なことになってしまうんじゃないかということを危惧しています。」

(情報ライブミヤネ屋 2021年10月15日放送)

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