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【独自解説】緊迫するウクライナ情勢 「プーチン大統領は合理的に考えられないことを決断した」、狙いは「パニック」…スペシャリストが解説
2022年2月24日 UP
2月17日、ロシアはウクライナ国境周辺に配置していたとする軍の撤収の様子を公開しました。しかし、欧米諸国は「撤収は確認できない」とし、「撤収どころか最大7000人増員されている」と指摘していて、ロシア側と主張が真っ向から対立していました。
そんな中、21日にロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部の親ロシア派が実効支配する「ルガンスク州」と「ドネツク州」の二つの地域について、一方的に独立を承認しました。さらに、これらの地域で平和維持活動を行うとして、ロシア軍の派遣を指示しました。
これを受け、アメリカのバイデン大統領は、その地域で新たにアメリカ人が投資や貿易を行うことを禁止する大統領令に署名、EUヨーロッパ連合も制裁を発動する方針を表明しました。そうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領も「いかなる領土も引き渡すつもりはない」と宣言。緊張高まるウクライナ、はたして軍事衝突は起きるのでしょうか?防衛省の研究機関「防衛研究所」の米欧ロシア研究室・主任研究官の山添博史(やまぞえ・ひろし)さんが解説します。
五輪中から計画されていたロシアの動き
「ルガンスク州」と「ドネツク州」の二つの地域は、2014年4月以来ずっと親ロシア派との内戦状態にある地域です。2014年・2015年に停戦合意があり、これを「ミンスク合意」と呼んでいますが、そのあとも紛争は続いていて、2022年の2月に入って衝突が激化、1日1500件以上の停戦合意違反があったとされ、双方、相手が仕掛けたと言っています。
Q. プーチン大統領は、この地域の住民が危険な状況に置かれているので、“平和維持”のために軍隊を派遣すると言っているんですか?
(山添 主任研究官)
「そういう理屈になっているんですが、親ロシア派はウクライナ軍の攻撃が激化したと2月17日くらいに言い始めて、21日にはロシアによる独立承認までいっているので、これは“計画された”動きです。発表された緊急避難の様子の映像も、2日前に用意されていることがバレている。ウソをついてでも何とでもするという、仕掛けられた情報戦です」
Q.プーチン大統領は北京五輪の期間中に準備をしていたのでしょうか?
(山添 主任研究官)
「準備していたと思います。五輪の期間中に緊張を緩和するようなサインを見せていながら、今回どんどん行っているわけで、我々は意図的に揺さぶられています」
“親ロシア派”の支配地域の実情
Q. 「ルガンスク州」と「ドネツク州」の二つの地域の住人は、みんな“親ロシア”で、独立を支持しているのでしょうか?
(山添 主任研究官)
「親ロシア派は一部の人です。モスクワの指示を受けている一部の人が動いていて、それが広がっているということだと思います。実際2014年4月にハリコフ州でも同じような動きがありましたが、そこはすぐウクライナが取り戻しています。ウクライナ東部は“ロシア語”が優勢な地域ではありますが、親ロシア派の奪った地域はその一部です。独立は住民の総意ではなく、ロシアに避難せずにウクライナに残っている人も多くいます。ロシア語を話せる人が、ロシアの国の行動によってかなり被害を受けていて、ロシアの味方をするはずの人々が死んでいっています。これは重大なことです」
今後のロシアの動きとプーチン大統領の狙い
Q.西側は今回のロシアの動きに反発していますが、中国はどういう態度になるでしょうか?
(山添 主任研究官)
「このような、内政に干渉して一部地域を独立させるような行動を、中国は嫌うはずです。ロシアも本来内政に干渉されるのは嫌うのですが、旧ソ連圏は別で、ロシアは特権があるから何でもやるというダブルスタンダードがあって、ウクライナだけでなくジョージアやモルドバなどでいろいろやっています。これは中国の原則と反していますので、中国が発言するのはなかなか難しいと思います。ただ、NATO拡大の批判などは言っています」
Q.ロシアは首都のキエフまで行く可能性があるのでしょうか?
(山添 主任研究官)
「ロシアとしても、落としどころを見つけるのが第一のはずです。ただ、独立の承認や軍の派遣を指示したことは、『本当にここで止まるかわからないですよ、何をするかわからないですよ』というのが、一番大きなメッセージだと思います。その前までは、元に戻れるという範囲にとどまって圧力をかけていたのですが、21日になって独立承認という現状変更をしてしまって、元に戻れないところに来ています。合理的に考えられないことをプーチン大統領は決断して、行ってしまった。そういうことをする人が本当に止まりますか?ということが、より切迫感をもってあるわけです。紛争が拡大したときに、ロシアが攻撃を受けたと言えば、ロシアは自衛権を発動して、南からも北からも攻めていけます。その場合、最初に航空作戦でキエフやハリコフを目標とすることもありえます」
Q.いま、このウクライナ問題で我々ができることは?
(山添 主任研究官)
「しっかり見て、パニックにならないことがとても大事です。ウクライナのキエフなどは、平穏に見えますが、それは抵抗でもあるんです。プーチン大統領はパニックを狙っているので、ウクライナもアメリカも西欧も分断してそれぞれ騒いでいるとなると、プーチン大統領の思うつぼなんです。我々は落ち着いて、誤った言説を排除し、ウクライナに心を寄せるというのが今できることだと思います」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年2月22日放送)


