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京都大学 鎌田 浩毅 名誉教授(火山学・地質学)

【独自解説】通常とは異なる“津波”その特異性と、これから来るかもしれない 冷夏とカルデラ噴火の怖さを京都大学 鎌田 浩毅名誉教授が解説

異例の“今回の津波”は何が“今までの津波”と違うのか

1月15日午後1時頃、南太平洋のトンガ諸島で、大規模な噴火が発生、衛星画像でみると、噴煙の広がりは、半径300kmに及びました。そして、午後7時、気象庁は『日本の沿岸では、若干の海面変動が起きる可能性はあるが被害の心配はない』と発表した1時間後、日本の全国各地で急激な気圧変化を観測。その後、“異例の潮位上昇”がみられ、気象庁は鹿児島県の奄美群島、トカラ列島、岩手県に津波警報、太平洋沿岸などに津波注意報を発表しました。

この、“異例の津波”に関して、火山学者で京都大学の鎌田 浩毅(かまた・ひろき)名誉教授に解説していただきました。

日本に津波が到達した理由

Q日本に“津波”が到達した理由はなんですか?

(鎌田名誉教授)
「噴煙の広がりが半径300km、北海道に匹敵ということですが、これほどの噴火はめったにないことで、1000年ぶりという学者もいます。この大きな噴火の爆発力と衝撃波2つの複合によるものです。海面上の空気が海を押して、波を起こし一気に遠く8000Kmも離れた日本まで来るわけです。最初に衝撃が来て、そのあとで津波が来ましたので、前代未聞というか、専門家も見たことがない現象です。」

津波かどうか不明

 Q気象庁が「津波かどうか不明」といったのはなぜですか?
(鎌田名誉教授)
「潮位の上昇は恐らく噴火にともなう気圧変動だろうと現時点では考えていますが、トンガから日本への津波の伝播経路上にある国外の津波観測点で高い津波が観測されていなかったため、今回の潮位変化は地震にともなって発生する通常の津波とは異なると考えています。現時点で本当にこれが津波かどうかは分かっていません。気象庁は、『原因はわからないが潮位変化による被害のおそれがあるので、津波警報の仕組みを使って防災対応を呼びかけた』ということです。」

日本トンガ間は約8000km

Q日本で潮位が上がったのに、なぜトンガとの間の8000Kmでは上がっていないのでしょうか?

(鎌田名誉教授)
「衝撃波というのは空気の振れです。その空気の振れが先に日本に来て、津波を作ったんです。非常に珍しい現象です。例えば、東日本大震災においても海底が隆起して、20mぐらいの津波が来たわけです。その場合順番に来るのでわかりやすい。今回、飛び越してきたというのは衝撃波によるもので、海底の断層がずれたのとは違うメカニズムです。」

Q気象庁は衝撃による潮位変化というのは想定していないので、観測できないのでしょうか?

(鎌田名誉教授)
「観測はできるんですが、因果関係が分からないんですよ。噴火で津波が起きるのは想定しているんですが、全然違うメカニズムでそういう意味では本当に初めて知ったということです。空気による潮位変化は、とても珍しいものです。」

たとえ1mの“津波”でもあなどってはいけない

これまでに観測した“津波”

Qたとえ1mの潮位変化でも気を付けなければいけませんか?

(鎌田名誉教授)
「津波は、たとえ50cmでも足を取られて倒れると、水中をゴロゴロ転がって、息ができなくなって人は亡くなるんです。津波というのは来る前に逃げないと、これぐらいはいいだろうというのは危険です。海外の映像で動画を撮っていますが、ぜひやめてほしい。津波が来たらすぐ高台に逃げて欲しいです。撮っている間に5m、10mとどんどん高くなる場合もあります。」

トンガの噴火はまだ終わらない、これから起こること…

トンガ沖さらなる噴火の恐れは?

Qさらに最大級の噴火の恐れもあると言いますが、このトンガの噴火の今後の影響を教えてください。

(鎌田名誉教授)
「まだマグマが上がり始めただけですから、どうなるか分らない、もっと大噴火をすると、カルデラといって、マグマが出て陥没するんです。そうなると大きな津波も発生するかもしれません。もう1つは気候変動です。大量の火山灰が出ると、地球を火山灰が覆って寒冷化が起きるんです。今回の噴火は、1991年にフィリピンのピナツボで起きた噴火と同じぐらいの規模なんですが、ピナツボ噴火のあと、気温が0.5度ぐらい下がったんです。その時は記録的な冷夏になって、米不足で『平成の米騒動』といわれました。しかし、本当に怖いのは、次の最大級の噴火です。今回の噴火でエネルギーが抜けたわけではなく、始まりだとすると、今後カルデラ噴火を起こしたら海底が1回沈んで、そこに海水が入ってまた爆発する。そうすると世界中を波が襲うわけです。」

Q.日本近海にも、こういう海底火山っていうのは、沢山あるんですか?
(鎌田名誉教授)
「ありますね。気象庁と海上保安庁が観測してるんですけれども、噴火っていうのは起きてみないとどうなるかって予測ができないんです。予測はできないけれども、観測を地道に続けて、次の、あしたの警戒をすると、そういうような状況なんです。今回のデータでまた新たなマニュアルを作って、進化していくと思います。」

Q. 我々は今回、異例の津波、潮位の変化を経験したんですが、やはり南海トラフ地震などによる津波は必ず来ると思って、備えを改めてするという、一つの教訓にしなきゃいけないですね?
(鎌田名誉教授)
「そうですね。大事なのは、今回、逃げるときに車で逃げた方いらっしゃるんです。それで渋滞したんです。これは東日本大震災の教訓で、車は渋滞するから、やはり歩いて高台に逃げないと、車内で津波に襲われる可能性があるんです。そこはちょっと、覚えといていただきたいです。」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年1月17日放送)

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