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【波紋】「住民に裁判を起こす資格なし」と大阪地裁は“門前払い”⁉住宅街に建てられた『納骨堂』巡り近隣住民と大阪市が対立…8年にも及ぶ泥沼裁判の争点を法律のプロが徹底解説
2025年5月16日 UP
“墓じまい”が増える一方、都市型の『納骨堂』は増加しています。しかし、近隣住民とトラブルになる寺も…。大阪市淀川区にある納骨堂では、近隣住民が大阪市を相手取り、8年にも及ぶ裁判沙汰に。なぜ住宅地に納骨堂が?注目の裁判の行方は?弁護士・嵩原安三郎氏の解説です。
■反対の声をあげていたのに…『納骨堂』経営許可した大阪市を近隣住民らが提訴
納骨堂『宝蔵寺・大阪御廟(ごびょう)』があるのは、大阪の玄関口・新大阪駅と“キタ”と呼ばれる繁華街の真ん中あたり、大阪市淀川区の住宅密集地です。マンションにも見える建物は、地上6階建て・約6000基を収容できる『都市型納骨堂』で、2020年4月に建設されました。経営元の『宝蔵寺』は、大阪市から東に10km以上離れた大阪・門真市にあるといいます。
納骨堂の建設前から、近隣住民は「なぜ縁もない門真の寺の勝手な都合で、子孫代々まで不快な生活をしなければならないのか」と、反対の声をあげていました。しかし、大阪市が納骨堂の経営を許可したため、住民らは許可の取り消しを求め、2017年に大阪市を提訴。
住民側の主張は、『①自宅のすぐ近くに大量のお骨が設置され、多大な苦痛』『②参拝者が多い時期にはゴミ増加など衛生面悪化の恐れ』『③違法駐車が増え、生活環境が悪化する恐れ』というものです。
Q.大量のお骨が家の近くにあることについて、どう思いますか?
(弁護士・嵩原安三郎氏)
「人それぞれの考え方があると思います。僕は沖縄出身なので、お墓の上で鬼ごっこをしたり、お墓の周りで宴会してお酒を飲んだりする感覚が普通です。かといって、日本式のお墓の前ではしないので、これは『自分はいいから他の人もOK』と割り切れるものではありません」
■“許可が出ないはずの場所”に、なぜ…?争点となる『個々の利益』と『一般的公益』
大阪市の規則では、「納骨堂の所在地に関して、学校・病院・人家からおおむね300m以内にあるときは許可しない」となっていて、今回の納骨堂の半径300m以内には人家や小学校もあるので、本来なら許可が出ないはずでした。
しかし、規則には続きがあり、「ただし市長が『付近の生活環境を著しく損なう恐れがない』と認めるときは、この限りではない」としています。『①周辺環境と調和が保てること』『②公衆衛生その他公共の福祉の見地より、周辺住民の理解が得られること』が条件です。
裁判資料などによると、これまで住民側が「日常生活で常に接するのは苦痛」「不動産価格も下落」「市の規則は住民などの個々の利益も保護すべきだ」と主張してきた一方、大阪市側は「『おおむね300m』の規則はあいまい」「精神的苦痛をもたらさない」「市の規則は一般的公益を保護している」と反論してきました。
Q.『個々の利益』と『一般的公益』は、どう分けて考えたらいいんですか?
(嵩原弁護士)
「例えば、僕が誰かの物を盗ったら、僕とその人の問題です。でも、今回の問題は、『納骨堂が必要』という国民の利益と、それによって不利益を受ける近隣住民が対立していて、どちらを優先するかという話なんです」
■住民に裁判を起こす資格なし⁉提訴から8年も、『差し戻し』で地裁へ…
住民が大阪市を提訴したのは2017年ですが、2021年に大阪地裁は「(市の規則は)住民側の個別利益を保護するものではない」との判決を出し、“住民に裁判を起こす資格なし”として中身を審理しませんでした。
Q.裁判は誰でも起こせるものではないんですか?
(嵩原弁護士)
「例えば、誰かが何か資格を取りたいとなったとき、僕が『いや、あなたにその資格を取らせる必要はない』と文句を言ったら、『あんた関係ないじゃん』と思いますよね。でも、行政では『何かを言う権利があるのか』が細かく決まっているので、行政訴訟では入り口で撥ねられるケースが非常に多いです」
ただ、2022年の高裁では「住民に重大な精神的苦痛を与える恐れがある」、2023年の最高裁では「個別具体的に影響を受けるのは住民」だとして、住民に裁判を起こす資格はあると判断され、地裁へ『差し戻し』に。住民側の弁護士は、「周辺住民が裁判できると最高裁が認めたことは今までなかった。非常に大きいことだ」と話していました。
■注目の裁判、ついに判決も…「予想していなかった不当な判決」泥沼の争いは続く
しかし、2025年4月25日、大阪地裁は「原告側の請求をいずれも棄却する」として、住民側の訴えを全面的に退ける判決を言い渡しました。住民側は会見で、「予想していなかった不当な判決。裁判所が司法としての役割を果たしていない。『裁量権があれば何をやってもいいのだ』という内容だった」として、控訴の意向を示しています。
Q.前回は高裁でひっくり返りましたが、今回はどうなると思いますか?
(嵩原弁護士)
「今回は、高裁でも、どうなるかわかりません。“半径300mの基準”がなければ、もともと行政の裁量はかなり広い法律です。でも、わざわざ300mの基準を入れているということは、『人家などがあると嫌な人が沢山いるのではないか』という推定が働くことを、大阪市が決めているわけです。だったら、『なぜ納骨堂が周辺の環境に影響しないか』をもっと深く説明してもいいのではないかということが、高裁でどう判断されるかです」
住民側の主張について、大阪地裁は「主観的な嫌悪感を述べるものに過ぎない」「抽象的なものに過ぎない」との判断を下し、『生活環境を著しく損なう恐れになるとは認められない』としました。
また、市長が本件納骨堂は「周辺環境との調和型も保てるもの」であり「公衆衛生や公共の福祉」の見地から周辺住民の理解が得られると判断したことについては、『裁量権の範囲の逸脱や乱用があるとは認められない』として、本件許可処分は適法であるとしました。
Q.裁判所の判断としては、納骨堂は一見マンションに見えるので、市長が「環境は保てている」と判断したことは問題ないということですか?
(嵩原弁護士)
「ハッキリとは書いていないでしょうけど、極端に言うと、“反対している人たちはいるけど、他の人たちは受け入れている施設ではないか”というような見方をしたということです。それが正しいかどうかは、また高裁で争われるでしょう」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年4月25日放送)


