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【独自解説】アトピー・高血圧・気管支炎など約3割の薬が今、入手困難!深刻な供給不足の背景に製薬会社の相次ぐ不祥事…対策は?専門家が解説
2022年12月16日 UP
今、医師の処方により薬局で調剤される薬が、大規模な供給不足に陥っています。中には継続して使用しないといけない薬や、命にかかわる薬もあるという事です。どのような薬が不足しているのか?原因は何なのか?医薬品問題に詳しい神奈川県立保健福祉大学大学院の坂巻弘之教授が解説します。
深刻な供給不足となっている薬の現状
12月5日に製薬会社の団体が出した、223社の薬の供給状況調査(8月末現在)によりますと、多くの品目で供給が足りていないということです。継続して服用しなければならない薬では、アトピーや高血圧、狭心症、リウマチ、気管支炎、うつ病、などとなっています。原因の一つは、新型コロナ感染症が広がったためで、解熱鎮痛剤や痰を切る薬、喉の腫れを取る薬などが入手困難になっているのですが、これらは感染症の患者だけでなく、持病がある患者も継続して飲んでいるものです。また、抗てんかん薬など、代わりがない薬も不足していて、毎日飲む必要がある人は不安を抱いています。現在、出荷停止の薬が1099品目、限定出荷になっている薬が3135品目あり、全品目の28.2%が供給減となっています。そして、この減っている品目の9割が、ジェネリック医薬品だという事です。
Q.薬の供給が減っているという事ですが、供給停止や限定出荷が増えているのでしょうか?
(坂巻弘之教授)
「この製薬会社の団体が、2021年も同じ調査をしているのですが、2021年と比べて2022年は、供給停止や限定出荷の割合が増えています」
供給が滞っているジェネリック医薬品とは、先発薬品の特許が切れた後、別の会社が同じ有効成と用量分で同じ効果や作用のある薬を作ることができるというもので、新しく薬を開発する場合と比べ、開発期間の短縮や治験などの費用が掛からないことから、約1/300の費用で開発でき、販売価格が低くなるというものです。国が負担する医療費の削減にもつながるため、国は使用を促進してきたという経緯があります。2022年には、そのシェアは約80%に上り、売り上げはこの20年で、22兆円から44兆円と倍増しています。
Q.これから冬に向けて薬の需要が高まる時期ですが…
(坂巻教授)
「新型コロナの問題で、解熱鎮痛剤や咳止めなどが足りなくなってきています。ただ、そういった感染症関連の薬不足と、ジェネリック医薬品の問題はきちんと分けなければいけません」
この薬の供給不足に対する薬局の対応ですが、薬剤師によると薬を「2~3つ注文しても1つしか入荷しない」という事はよくあるそうで、その場合、近くの薬局と連携して融通しあったり、処方箋を出した医師と効能が似た薬に変えて良いか相談したり、粉薬がない場合は同じ成分の錠剤を砕いて処方するなどの対応をしているそうです。
Q.今は、薬の供給不足を、薬局の工夫でしのいでいる状態なのでしょうか?
(坂巻教授)
「薬の供給不足をあまり気にせずに処方箋を出してしまう医師がいて、薬剤師が大変なパターンもあります。注文しても入荷しない状態で、現場の薬剤師が苦労していると思います」
ジェネリック医薬品、供給不足の原因
このジェネリック医薬品の供給不足は、不祥事が原因だといいます。2020年12月に中堅製薬会社の「小林化工」が、水虫用の飲み薬の製造過程で睡眠導入剤の成分を誤って混入させてしまい、それによって2人が死亡、240人近くに健康被害が出るという事例がありました。「小林化工」は、これにより2021年2月から116日間の業務停止命令を受けることとなりました。さらに「小林化工」は、国が承認していない方法で薬を製造していたり、一部製品の品質結果をねつ造していたことが発覚。これを受けて、自治体や企業が再点検をしたところ、他の製薬会社にも相次いで問題が発覚します。ジェネリック大手の一つ「日医工」は、2021年3月に薬品の試験を、手順に反して良い結果が出る方法で再試験をしたり、品質規格に不適合な薬を出荷したりして、32日間の業務停止命令を受けました。
こういった行政処分を受けた製薬会社は、2021年に8社、2022年に5社となっています。坂巻教授は「品質よりも利益を重視した結果の表れ。政府のジェネリック使用促進によって、需要は増えたが生産キャパシティが追いつかず、不正を生んだ」と指摘しています。
Q.この13社に及ぶ行政処分の影響は大きいのでしょうか?
(坂巻教授)
「実際にこの行政処分の影響が、30%近い供給不足の数字に表れています。行政処分が終わればすぐに出荷できるというものではなく、実際の製造手順に合わせて手順書を作成して、承認されている品質基準に合わせたものを作るように工程も作り直さないといけません。そこに時間がかかりますので、すぐに生産再開とはいかないのです」
Q.不祥事による供給不足という事で、ジェネリック医薬品を作る会社の倫理観が問われているのでしょうか?
(坂巻教授)
「こういった問題が生まれた背景には、経営者が“品質”より“売り上げ”を重視したという事がありますので、経営トップが原点に立ち戻って、『薬は国民の命にかかわるものだ』と、品質を重視することを再認識してもらうことが大切だと思います」
供給不足はいつまで続くのか?
Q.坂巻教授は「不祥事を根絶し、安定供給を保障する新たな管理指導体制が必要」と提言していますが、具体的にはどんな体制ですか?
(坂巻教授)
「現在、査察は都道府県が行っています。ただ、都道府県の査察専門官も人数が少ないですし、人事のローテーションで経験が蓄積されないなどの問題もあります。例えば都道府県を超えた地域で行うとか、国が直接行うなどの監視体制の強化も考える必要があると思います」
この供給不足はいつまで続くかについて、坂巻教授は「不祥事を起こした企業の生産力を戻すのには、正しい手順書の国の承認が必要だが、その承認に2~3年かかる」と予測しています。
Q.2~3年も供給不足は続くのでしょうか?
(坂巻教授)
「残念ながらそう予想せざるを得ません。1つの製品ですと数か月で承認を得られると思いますが、今はその品目数が非常に多いので、これを全部解決するのには2~3年かかると予測します」
Q.私たちはどうすれば良いのでしょうか?
(坂巻教授)
「安心して薬を使っていくためには、日ごろから薬をもらっているかかりつけの薬剤師や医師とよく相談していくことが、唯一の方法かと思います」
(情報ライブミヤネ屋2022年12月14日放送)


