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【独自解説】激化するロシアの侵攻 2回目の“停戦交渉”どうなる?アメリカや中国はどう動く?“キューバ危機”再来の恐れは?専門家が解説
2022年3月3日 UP
緊迫するウクライナ情勢。3月3日にも2回目の“停戦交渉”が行われるだろうという情報がきこえるなか、ロシアによる攻撃はますます激化しています。ウクライナのゼレンスキー大統領は「爆撃をやめること」を、協議を行う条件としていますが、このまま“停戦交渉”は行われるのでしょうか?国際安全保障に詳しい慶応義塾大学・鶴岡路人(つるおか・みちと)准教授、そしてアメリカ連邦議会に10年勤め、国際政治に精通する早稲田大学・中林美恵子(なかばやし・みえこ)教授が解説します。
民間人への被害拡大…ロシアの狙いは?
Q.民間人への被害が拡大していますが、ロシアは一線を越えてきたという感じでしょうか?
(慶応義塾大学 鶴岡路人准教授)
「そうですね。理由は2つあると思います。1つは、最初の数日あまり計画通りに進んでいなかったということでそれを挽回しようとしている部分と、もう1つは、やはりこの“停戦交渉”を見据えてウクライナ側に圧力を強めていることなのかなと思います。」
Q.ロシア側が2回目の“停戦交渉”を有利に進めるため、かなり強硬に出てきているということですか?
(慶応義塾大学 鶴岡路人准教授)
「はい、ウクライナから譲歩を引き出すために、より追い詰めておく、というような戦術なんだと思います。」
Q.一方、アメリカなどはプーチン大統領の精神状態を分析していると、非常に怖いことを言っていますよね。
(早稲田大学 中林美恵子教授)
「はい、実は実際にキエフを攻撃するまで、『ウクライナを全て取ろう』という行動に出るのは、いくつかあるオプションの最悪のパターンということで、必ずしもそうはならないという見方もあったわけです。しかし、プーチン大統領が最悪のケースを選んだ2月の時点で、これはかなり常軌を逸した心理状態になっているのではないか、というふうに指摘されていました。その後、『核抑止の準備態勢を整えよ』という言葉が出てきて、核兵器の話が出てきました。今は“戦略核”“戦術核”と言われるように、トラディショナルな大がかりな核戦争ではなくて、もっと小さい核を使うのもありうるわけですよね。こういう言葉が出てくること自体、本当に精神的に安定しているのかどうかに最大の関心が持たれていて、議会でもかなり議論されています。」
北京パラリンピックへの影響は?
Q.まもなく北京でパラリンピックが始まりますが、例えば各国の選手がウクライナ支援や、ロシアへの抗議のメッセージというのを、自分の競技終了後などに出してくる可能性がありますが、それがロシアに対してどういう影響を与えるのか、北京という場で行われることに影響があると思われますか?
(慶応義塾大学 鶴岡路人准教授)
「直接影響があるかは分からないですけれども、やはりこの戦いがウクライナとロシアの戦いだけではないし、さらに西側、欧米諸国とロシアの戦いだけでもないと、国際社会全体とロシアとの闘いなんだと、そういうメッセージとしては、パラリンピックも使われることになるんだろうと思います。」
Q.中国はパラリンピックもありますし、民間人への被害が出たことで、静観しているわけにはいかなくなったのでしょうか?
(早稲田大学 中林美恵子教授)
「そうですね。オリンピックが開会する日にプーチン大統領と習近平国家主席が会って、エネルギーの問題や色々な政策でも歩調を合わせていけそうだ、といった2人の関係をアピールしたわけです。中国は、ロシアがウクライナ全土を取ろうというような行動に出るとは想像していなかったかもしれません。そしてロシアの方は、ウクライナとは圧倒的な軍事力の差がありますので、パラリンピックが始まる前に片がつくと思っていたかもしれません。しかし今、ロシアは世界から孤立してきていますし、中国もロシアとこれから一心同体で歩んでいくわけにはいかない、ということになってきているのではないでしょうか。」
“停戦交渉”の行方は?
Q.ロシアは「ウクライナの非武装中立」か「クリミア半島でのロシアの主権承認」を要求していますが、とてもじゃないけどウクライナが飲めないものをわざわざ持ってきたという感は否めないですよね?
(慶応義塾大学 鶴岡路人准教授)
「全くその通りだと思います。飲める訳ないですし、これだとほとんど無条件降伏に近い形になっているので受け入れられないと。ただ、最初に交渉を言い出したのはゼレンスキー大統領側なんです。その時は追い詰められていて、これ以上戦いが続くと国民の犠牲が増えてしまうと、非常に苦渋の決断だったと思うんですね。主権国家として生き残る道がなくなるような妥協をせざるをえなくなるのか、国民の犠牲がこのまま続いてしまうか、という選択です。ウクライナにとっては非常に厳しいですけれども、ロシアにとっても作戦がいまひとつ上手くいっていない中で、焦りというものが出てきているんです。どちらがより焦り、早く交渉をまとめたいか、そこにこの交渉のバランスがどうなるかが掛かっているなと思います。」
アメリカは動くのか?
Q.アメリカの「一般教書演説」は通例では国内向けの話をする場所ですが、今回はプーチン大統領に向けたメッセージを出しました。バイデン大統領はどう動くのか、それとも動かないのでしょうか?
(早稲田大学 中林美恵子教授)
「バイデン大統領が動くというのが、ウクライナに派兵するということかと問われれば、それは非常に難しい、事前からこのオプションはもう外していると言っていいと思うんです。なぜならば、国内的に国民の支持がそこまで派兵に傾いていないからです。ウクライナに兵を送るということは、アメリカ兵がロシア兵と戦うということになってしまうわけです。やはりこれは、まだまだ避けていかなければいけないという気持ちがアメリカ人の中にある。しかも今年は中間選挙もありますので、バイデン大統領もそこは慎重でしょう。例えば、NATOの加盟国に攻撃があったとか筋の通る話でないと、同盟国でもないし防衛義務があるわけでもない関係の国の場合は、これは一足飛びにはいけないんです。」
「一般教書演説は、本会議場に上院と下院が並んで、その前で演説をするんですが、そこに出てきた議員さんたちがブルーと黄色の物を身につけているんです。これはウクライナの国旗の色をイメージしているもので、バイデン大統領がウクライナのことについて語る時、ウクライナの国民の勇気をたたえるときは、民主党も共和党も関係なしに、両方がスタンディングオベーションしました。ある意味アメリカ国内も認識というものがだんだんと変わってきている。問題は、どうやってプーチン大統領の心を変えるかっていうところなんですけど、だからこそ精神分析が今、議会の中でももっぱらの話題になってしまっているというそんな状況です。」
Q.もしアメリカが出ていくとなるとキューバ危機の再来になるような怖さがありますよね?
(早稲田大学 中林美恵子教授)
「そうです。まさに第3次世界大戦になるかもしれない。プーチン大統領が核という言葉さえも出してきているような状況で、もっともっと大きな戦争になってしまったら、もう歯止めが利かないっていう恐ろしさが実際ありますよね。精神分析をした結果『そんなことはない。絶対に合理的に計算するから大きな戦争にならない』って保証があればいいけれど、そんな保障は誰もできない状況にあって、やはり事を大きくすることについては慎重でなければいけないって側面があります。バイデン大統領がアフガニスタンから撤退したのは民意でもあったんですが、撤退の仕方が非常に悪かった。これでプーチン大統領に足元を見られた。『バイデン大統領は弱腰だから大丈夫だ』と思われたっていう非難は特に共和党側からは出ています。」
プーチン大統領を止めるには?
Q.どうやったらこの戦争を止められるのか、突破口はなんでしょうか?
(慶応義塾大学 鶴岡路人准教授)
「これから先どう止めるかっていう所で、唯一可能性があるとしたら、ロシアにとってこの戦闘を続けることが難しくなっていく状態をどうやって作り出せるか、ということなんだと思います。ロシア軍側の犠牲者があまり増え過ぎると国内的にもたない、そして経済制裁も徐々に効き始めているんだろうと思います。通貨の暴落などで、国民の間でこの戦争への不満が高まっていくと。ただ、それをもってしても今日、明日の軍事作戦を変えることはできませんが、この政権への重荷として圧力をかけていくというようなことは、ロシア国内の方の動きに着目するということもあるかと思います。」
Q.ウクライナ市民がゲリラ戦を仕掛けて、思わぬ長期的な戦いになる可能性もありますか?
(慶応義例えば塾大学 鶴岡路人准教授)
「そうですね、ウクライナ国民の士気が今きわめて高いと言われていますので、たとえ今の政権がキエフを追われるようなことになっても、もし本当に徹底抗戦するということであれば、ゲリラ戦みたいなこともシナリオとしてはあり得るんだろうと思います。」
Q.第三国の介入も含めて着地点はどうなるのでしょうか?
(早稲田大学 中林美恵子教授)
「これは本当に難しいところなんですけれども、実はウクライナは中国との関係も深くて、貿易額では最大ですよね。したがって、中国に仲介をリクエストしたということも報道されています。もしかしたら、これは本当にワイルドカードですけれども、中国が動くのかもしれません。しかし、中国もロシアに対する関係がありますので、それは分かりません。さらにアメリカでは、3月11日につなぎ予算でつないでいた22年度予算が途切れてしまうんです。それまでに正規の22年度予算案をまとめなければいけないんですが、今この予算の中にかなり大きい、ウクライナ支援の予算が入る予定です。安全保障上、武器の供与もそうですけれども、色んな支援が入ってくるということで、議会もこれは民主党も共産党も関係なく、一丸となってこの予算を通そうということですから、11日までもつかどうかちょっと不安ではありますけれども、そういう動きも中にはあります。」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年3月2日放送)


