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【独自解説】“統一教会”へ「質問権」は行使されるのか?行使の基準素案が判明 ポイントは「継続性」と「悪質性」 紀藤弁護士が解説
2022年11月11日 UP
11月8日、“統一教会”に対する「質問権」の行使の運用基準を検討する文化庁の第2回専門家会議が行われました。政府が年内の行使を目指す中、どんな素案が示され何が課題となっているのでしょうか?“統一教会”問題に詳しい紀藤正樹弁護士が解説します。
「質問権」の行使の基準素案では、所轄庁が宗教法人法に定める解散命令事由に該当するような事態についての疑いがあると判断すると「質問権」の行使が行われますが、そのためには、「行為の組織性、悪質性、継続性等を把握する上で、その端緒となる事実がなければならない」としています。
宗教法人法の『解散命令』に関しては二つの要件があります。一つ目の「法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたことについて疑いがある場合」については、宗教法人に属する人による法令違反が相当数繰り返されていることや法令違反による広範な被害や重大な影響が生じている疑いがあると認められることが必要としています。要件の二つ目の「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」について疑いがある場合」は、目的の範囲を超えた行為による結果、影響の内容及び程度や、目的の範囲を超えた行為を行った動機・理由などを総合的に判断して、疑いがあると認められることが必要としています。
Q.素案には「宗教法人に属する人による法令違反が相当数繰り返されていること」とありますが、「属する人による法令違反」は組織性にあたるのですか?
(紀藤弁護士)
「私は、組織性の要件を緩めてきたと理解しています。『行為の組織性・悪質性・継続性等』というのは、司法が宗教法人の解散命令を出す要件だと行政側が一方的に考えた要件なのですが、重要なのは悪質性なのです。例えばオウム真理教のようにサリンを1回でも作れば、その悪質性は法人の解散要件を満たすと思いますので、悪質性が最も重要で、組織性や継続性はそれを補うものと考えるべきです。これまで司法が『解散命令を出す要件』と言われてきた『組織性・悪質性・継続性』のなのですが、今回は『質問をするための要件』ですので、より緩やかに考えて、繰り返されていることと悪質性の方を念頭において質問権を行使することにしたのではないかと思います」
Q.「属する人」には信者は含まれるのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「『属する』という言葉を形式的に解釈すると労働者や職員に限られるとなりかねないです。しかし、過去の裁判例で “統一教会”の使用者責任について、『信者がした行為について教団が責任を負う』という判決が30件近く出ていて、使用者としての責任を労働者でない信者に対しても認めています。今回は『信者も含める』と判断の幅を広げてきたと思います。解散ではなく質問をする基準なので、将来“統一教会”以外の問題にも対応できるように基準は広い方がいいと思います」
“統一教会”の法的責任を認めた民法の法令違反は、少なくとも29件あるといいます。10月、岸田首相は質問権を行使する理由として「法人自体の組織的な不法行為責任を認めた民事裁判の2例がある」ことや「10月末時点で 政府の相談窓口に1700件以上の相談があった」ことを上げています。
Q.民法の法令違反が29件もあれば継続的と言えますよね。
(紀藤弁護士)
「今回の『質問権』の行使の基準から見ると、この29件というのは、『継続的』な不法行為ということで、『質問権』を行使できると思います」
“統一教会”の組織的不法行為の判例の一つ、ある女性信者の元夫が起こした裁判では、「婚姻期間中に 意思に反して夫名義の財産から多額の献金をさせられた」という訴えに、東京地裁は2016年1月13日の判決で、「“統一教会”は、組織的活動として夫の財産状態を把握した上で妻に献金によって夫を救い、夫の家計を救うことが使命であると指導していた」として、組織的な不法行為を認定し、その後東京高裁で判決が確定しました。もう一つの判例は、“統一教会”の元信者の女性が「多額の献金を強いられた」との訴えに、東京高裁は2017年12月26日に「家庭連合が構築した勧誘、教化の過程に取り込まれ、家庭連合が計画し信者となったことは確か」「社会的に不相当な勧誘、教化、現金の支出をさせれば、宗教活動の一環でも不法行為」と「勧誘行為」の組織的不法行為を認めた判決を出しています。
Q. 「元信者の女性が『多額の献金を強いられた』件は紀藤弁護士が担当したということですが、この裁判でどんな組織性が認められているのですか?
(紀藤弁護士)
「この事案は“統一教会”の直接責任が認められたという意味で、より組織性が強固に認められた事案です。この事案では、勧誘のマニュアルなどが大量にあったということがとても大きかったと思います」
Q.「質問権」行使の判断に「公的機関に寄せられた具体的な資料と情報など」とあります。情報はたくさんあると思うのですが、この資料というのは、何を指すのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「“統一教会”の資料は国の機関の様々なところに分散されていると思われます。その中で一番重要な資料は検察庁に保管されているこれまでの“統一教会”に関する捜査記録と確定された刑事記録です。そのほか、児童虐待やいじめの相談なども考えられます。また、政府の相談窓口に来たたくさんの情報の中にも重要な資料があると思います。そういったものを持ち寄ってまとめる作業が大変になります」
Q.“マインドコントロール”の定義が問題になっていましたが、この場合はあまり関係ないのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「“マインドコントロール”は過程なので、結果の方が証拠としての価値が高いと思います。例えば“マインドコントロール”の結果、児童虐待が起こったとすると、結果の児童虐待の方がよほど重要だということです。教団には様々な違法行為の記録がありますが、その中で刑事事件の記録が一番重要だと考えられます。『解散命令』の根拠は、『過去に公序良俗に反する行為をしたこと』ですので、過去の事例をどこまで集められるかが『解散命令』を出す要件になります。そのための質問をするのが今回の『質問権』の行使だろうと思います」
Q.今回の「質問権」の行使などは、すべての宗教に当てはまることなので、「拡大解釈になると危険だ」という意見もありますが、そこのストッパーのようなものはあるのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「偶発性・一回性については、『質問権』の行使をしないということで、多くの宗教団体には可能な限り行使をしないように、今回文化庁宗務課がはっきり基準として打ち出したと思います」
(情報ライブミヤネ屋2022年11月8日放送)


