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【独自解説】家計を守る値上げ対策、オススメは「フリマアプリの活用」政府に必要なのは「中長期的方向性を示すこと」専門家が提言
2022年6月20日 UP
24年ぶりの水準となる1ドル=135円台に突入するなど、今、急激な円安が家計を直撃しています。帝国データバンクによると、コロナ禍やウクライナ情勢に加えて円安により、6月までの累計で1万品目以上が値上げをしていて、7月以降も4504品目が値上げ予定だということです。止まらない物価の上昇に対し、私たちはどう対処すべきなのか?経済評論家・加谷珪一さんが解説します。
進む円安・物価高…今後どうなる?
Q.なぜ円安が進むのですか?
(経済評論家・加谷珪一さん)
「日本と海外の金利差が、円安を進めている要因です。この円安はしばらく続くでしょう」
Q.日本の10年国債の金利が0.25%なのに対して、アメリカの金利が3・47%と約14倍にも達しています。この金利差が円安の原因なのに、日銀の黒田総裁は「今の低金利路線を維持する」と表明しました。なぜ日本は金利を上げないのですか?
(加谷さん)
「金利が上がると、個人が家を買うにも、企業が設備投資するにも、お金が借りにくくなります。また日銀としても、国債の金利が上昇するのは利払いが多くなるなどデメリットがあります。この20年間“低金利”に慣れてしまっていて、急にこの状況を変えると混乱が生じるのも理由の一つですし、日銀としては今まで行ってきた“量的緩和策”をちゃんと成果が出るまで継続したいという思いもあり、これらが合わさって当面政策の変更はないということです」
一方で6月15日、アメリカ・FRB(連邦準備制度理事会)は0.75%の利上げを発表しました。さらに7月にも、0.5%または0.75%の利上げを検討するとしています。
Q.金利を上げていくと景気が後退しますが、アメリカもどこかでバランスをとるのでしょうか?
(加谷さん)
「確かに金利を上げすぎると、景気が冷え込みます。ただアメリカの場合、ガソリン代が上がると政権批判に直結するので、場合によっては、多少景気が悪くなっても金利を上げるという選択肢もあって、せめぎ合いになっています。現在の程度でアメリカの金利が落ち着いてくれると、円安も落ち着く可能性があるのですが、インフレ対策が最優先だという決断をアメリカがした場合には、もう一段金利が上がって、さらに円安が進む懸念があります」
Q.このまま円安が進み続けるとどうなりますか?
(加谷さん)
「もしかすると外国資本が、日本の不動産を買いあさるかもしれません。また、日本の企業を買収する動きも出るかもしれません。外国資本が増えると、日本の安全保障上の問題に発展する恐れもあります。日本企業の人材や知識が多く失われ、将来の日本経済に悪影響が出る可能性があります」
Q.今後、我々の生活の見通しは?
(加谷さん)
「今回の物価高は長期化する可能性が高く、仮におさまったとしても物価は高止まりになる恐れがあります。賃金が大幅に上がらない限り、生活水準は下がったままになると思います」
Q.賃金は上がりますか?
(加谷さん)
「日本は低賃金がずっと続いているのですが、今後も大きく賃金が上がる雰囲気はありません。あまり我慢が必要だとか、大変だとは言いたくはないのですが、やはり近年にない危機的状況ですので、必要なもの以外はできるだけ我慢するという姿勢が必要だと思っています。ただし、あまりにも買い物をしなくなると、消費を冷やしてしまいますので、必要な消費はすべきです。メリハリをつけて、漫然とお金を使うというような価値観を転換すべきだと思います」
また、物価が上昇していく中で、年金の支給額が減っています。自営業者などが加入している国民年金は、ひと月当たり259円、年間で3108円の減少に、また、会社員などが加入している厚生年金は、1日903円、年間だと1万836円の減少になります。昨年も0.1%の引き下げがあったため、2年連続の減額となりました。
Q.年金は物価連動ですので、物価が上がれば年金額も上がると思うんですが、なぜ減額なのでしょうか?
(加谷さん)
「不思議に感じている方も多いと思います。年金は、物価と賃金に連動する仕組みになっているのですが、前年の物価と賃金が前提です。2021年は賃金がマイナスでしたので、その分年金も減額になります。では、物価や賃金がプラスになれば、年金が順調に上がるのかというと、必ずしもそうではありません。“マクロ経済スライド”という、現役世代の負担を減らすための年金の減額制度も同時に走っているので、仮に将来物価と賃金がプラスになっても、それほど年金は増やしてくれない仕組みになっています。年金受給者の方は、物価に年金支給額が追いつかないという状態がずっと続く可能性が高いと思います」
私たちがすべきコト、政府がすべきコト
Q.今、家計を守るために私たちがするべきことは何でしょうか?
(加谷さん)
「一つ目は、聖域なき支出の見直しです。具体的には、交際費やブランド品、過大な保険など、余分な支出のカットです。保険なども、よく見直すと無駄がありますので、もう一度ゼロベースでよく見直すことも大事だと思います」
Q.余分な支出のカットは多くの方がしていると思いますが、ほかには?
(加谷さん)
「フリマアプリや本業の延長線上で行える副業をして、収入を増やすことです。フリマアプリを使うことで、家計をスリムにできます。余分なものは、捨てるより売った方が僅かでもお金が入ってきますし、欲しいものを安く手に入れられますので、社会全体で最適化が進むということです」
副業については、副業したい人と企業をマッチングさせる「副業特化型マッチングサービス」というものがあります。これに登録している人は、2年前に比べて8倍に増えており、登録している企業も3倍に増えているそうです。中には、30代の会社員の男性で、2018年に働きながらファイナンシャルプランナー2級の資格を取得し、妻が育児のため仕事をやめたものの、世帯収入は150万円増えたという例もあります。
我々の生活が厳しくなっている中、政府は4月に緊急経済対策を打ち出し、原油元売りへの補助や、低所得の子育て世帯に補助金の支給を行いました。6月15日には岸田総理が「10月以降も(小麦の)輸入価格が突出して急騰している状態であれば、パンや麺類などの価格高騰を抑制する」として「物価・賃金・生活総合本部の設立」を表明しました。
Q.なかなか実感がない中で、今後どういったことが求められますか?
(加谷さん)
「今、政府が打ち出しているのは、比較的短期の経済対策です。物価が今上がっているので、とりあえず高いものを抑えようというものです。これは、ある種“場当たり的な政策”ということになりますから、中長期的な対策も必要になってきます。最終的には、企業の競争力・供給力を高めてインフレに負けないようにすることや、“人への投資”が必要です。岸田政権も“人への投資”という項目は打ち出してはいるのですが、これがどのようにインフレに利いてくるのかという道筋は、まだ明確に説明されていません。政府にもそろそろ、中長期的な方向性というものを示していただきたいなと思います」
Q. 最後に改めて、家計防衛策を教えていただけますか?
(加谷さん)
「節約は非常に重要ですが、いかに世帯収入を増やしていけるかと、生活のスリム化をどれだけ進められるかの2つを同時に進めないと、抜本的な防衛策にはならないと思います」
(情報ライブミヤネ屋 2022年6月16日放送)


