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【独自解説】「卒業すると即失業」中国の若者襲う就職難 背景に大学増加 変わり身の早さ 勝気な文化 専門家が解説
2023年7月24日 UP
中国で大学を卒業したばかりの若者たちがSNSに相次いで投稿しているのが、力なく倒れる姿の写真です。“ゾンビスタイル”と呼ばれるこれらの写真が次々と投稿されるワケは?今、中国の若者が置かれている状況とは?ジャーナリストの高口康太氏が解説します。
「卒業すると即失業」中国の若者襲う就職難の実態
今中国では、大学の卒業式の後にゾンビのような写真をSNSに投稿するのが流行っているといいます。その理由は「卒業すると即失業」などの悲観的現実に、若者同士が共鳴しているからだということです。
Q.以前「寝そべり族」というのが流行ったと思うのですが、今は「ゾンビ」ですか?
(ジャーナリスト高口康太氏)
「中国の若者の間でよく言われているのが『ゼロコロナが終わったと思ったらゼロ雇用だよ』ということです。コロナ禍が明けて、『晴れ晴れとした気持ちで卒業したけれど、なかなか良い仕事がなくてがっくりした』と笑い飛ばしながら、悲痛な感じでもあります」
中国では、大学院への進学が増えています。また、わざと留年する学生も増えています。その背景には6月で21.3%、5人に1人以上にも上る16歳~24歳の若者の失業率があります。高口氏は、「2020年に大学院の定員を大幅に増やしたが、これは問題の先送りに過ぎない」「卒業後に就職できない実情を大学側も隠したい思惑がある」ということで、今の中国では「大卒者でも職に就けない」実情があるといいます。
Q.大学を卒業しても就職できないから、大学院に行って時間を稼ごうということですか?
(高口氏)
「私も日本の就職氷河期世代ですが、そのときも就職先が見つからないので大学院に行こうという人がたくさんいましたが、中国も同じような感じです。さらに中国の大学は、共産党に厳しくコントロールされていて、良い報告を上げなければならないので、就職実績も高くしないといけないということもあります。自分の不用品を中古品販売サービスなどで売買していたのを、『君はそれで就職したことにしなさい』と学生に就職の報告をさせて、大学側も低い就職率を隠そうとしていたことが、最近話題になっていました」
就職難のワケは大学の増加
中国でなぜ大学生が就職苦難に陥っているかというと、そもそも大学を増やし過ぎたということがあります。2000年時点で約1100校あった大学が2023年には2800校以上と3倍近くになっています。
Q.少子化が進んでいる中国でなぜ大学を増やしたのですか?
(高口氏)
「今、中国はイノベーションによって経済成長させようとしています。これまでは“世界の工場”だったけれど、これからは”世界の研究所“としてイノベーションの源となるのだという気持ちがあって、高学歴な人を増やそうとしたのです。『人口大国から人材大国へ』という言葉もあります。そのために大学を増やすことは良いこととされていました。しかし大学を増やし過ぎて、全ての卒業生に望み通りの仕事を見つけるのが難しくなっています」
今の中国では、就職は“ところてん”だといいます。どういうことかというと、就職希望者が詰まっていて、不景気の圧力で枠が減ってしまうと、超一流といわれるランクの学生も一つ理想を下げて就職することになります。そして各ランクの学生が一つずつ希望を下げていった結果、下のランクの学生は就職できずに放り出されるということです。
Q.中国はまだまだ経済力があるので、どうにかなりそうなものですが?
(高口氏)
「“中国スピード”とも言われていますが、中国は、非常にドラスティックに産業構造などを変えていきます。必要な時は人を採りますが、いらないときには採らない、社員にもやめてもらうということを徹底的にします。今は、それが一気に噴き出ている状況だと思います」
Q.時代の変化が早すぎてついて行けないというのもあるのですか?
(高口氏)
「変わり身の早さが中国の魅力でもあるのです。そのスピード感でここまで成長してきたわけです。しかし、一度いらない分野だとなると、すぐ無くなってしまう。経済が悪くなればすぐ解雇が始まって失業が増える。というような変化が起きているので、追いかけるのが大変です」
対策も空回りする政策
中国政府も就職難に対策をしているのですが、空回りしているといいます。2020年から公務員を増やしましたが20万人の募集に770万人の応募があったといいます。2022年に共産党の下部組織が10万人の就職を斡旋しましたが、大卒者が1076万人もいて焼け石に水だといいます。また、60代の再就職奨励も行っていて、求職者も増えています。地方の“農村への赴任”を促進していますが不評で、大卒者の“家政婦採用”を拡大しましたが、なりたいという人は少ない状況だといいます。
Q.大卒者の希望は、都会の大企業への就職ですよね、それも就職難の原因では?
(高口氏)
「中国の人の多くの考えは昔と変わってなく、『大学を出たら、ホワイトカラーのいい仕事で幹部になるんだ』と思っているのですが、現実は大学生が増えて、そういう仕事になかなか就けないという構造的なギャップがあるのです。中国は“科挙”の国ですから千年以上昔から『学歴競争を勝ち抜いてエリートになるんだ』というカルチャーがあります。これは簡単には変えられないと思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年7月20日放送)


