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“新型コロナ”と「サル痘」対処法は?

【独自解説】国内初確認の「サル痘」、専門家「感染力高まり病原性弱まったと推測」強い懸念は「母子感染」ワクチンは?治療薬は?徹底解説

 世界で感染が拡大し、WHOが緊急事態を宣言した「サル痘」について、7月25日、日本国内でも初めて感染者が確認されました。一方、新型コロナウイルスの感染拡大も止まりません。今年は2つのウイルスと戦う、未曾有の夏となるのでしょうか?ウイルス学が専門でコロナの治療薬開発や疫学調査に従事する、大阪公立大学大学院・城戸康年(きど・やすとし)教授が、2つのウイルスについて解説します。

国内初確認の「サル痘」、危険性は?治療薬は?

「サル痘」世界の感染状況

 日本で初めて「サル痘」の感染が確認されたのは、ヨーロッパから帰国した、都内に住む30代の男性。6月下旬にヨーロッパへ渡航し、渡航中に感染者との接触があったということです。7月中旬に帰国し、15日に倦怠感を覚え、25日に医療機関を受診したところ、感染が判明したということです。発熱や頭痛、発疹、倦怠感などの症状がありますが、容体は安定していて、東京都内の病院に入院中です。濃厚接触者については調査中ということです。「サル痘」は、アメリカやヨーロッパを中心に世界で感染が拡大していて、7月23日にはWHOが「緊急事態宣言」をしています。これまでに75の国と地域の1万6千人以上の感染が確認され、23日時点で死者は5人確認されています。

大阪公立大学大学院 城戸康年教授

Q.過去に「サル痘」がここまで世界で感染拡大したことはあるのでしょうか?
(大阪公立大学大学院 城戸康年教授)
「これまでには、ありません。もともと、アフリカから始まった“風土病”のようなものだったのですが、それがたまにアメリカ等で散発的に出たという報告はあるものの、大きく広がったことはこれまではありませんでした」

Q.これだけ大きく広がった要因はあるのでしょうか?
(城戸教授)
「これに先駆けて、2021年の終わりから2022年の始めにかけて、アフリカではすでに多くの症例がありました。恐らくその一部がアフリカの外に飛び出て、そこで大きく一部の集団に広がったと考えられています」

「サル痘」の感染経路

Q.「サル痘」の感染はどのようにおこるのでしょうか?
(城戸教授)
「もともとは動物からヒトに感染がおこり、ヒトからヒトへうつるのは珍しいと言われていたのですが、現在アフリカ外では『ヒト・ヒト感染』が主になっています。いくつかの遺伝子変異が報告されていて、従来アフリカにあったものよりも感染力が高まって、病原性はやや弱まったのではないかと、現在推測されています」

Q.今、新型コロナウイルスが急拡大していますが、コロナの感染の仕方とは違うと思っていいのでしょうか?
(城戸教授)
「はい、全く形態が異なるものと思われます。新型コロナウイルスは『エアロゾル感染』ということで、同じ空間を共有していれば感染する可能性があるわけですが、サル痘の場合は、例えばベッドを共にするぐらいの濃厚接触にならないと、感染しないとされています」

「サル痘」の症状

 WHOは、「サル痘」は「密接な接触により誰もが感染する可能性があり、特定のグループの人たちの病気ととらえずに警戒すべきだ」としていて、WHOのテドロス事務局長は「差別や偏見はウイルスと同じくらい危険だ」と警鐘を鳴らしています。

Q.「サル痘」に感染すると、発熱、頭痛、発疹、リンパ節の腫れなどが見られるということですが、発疹が出てから初めて気が付くという方もいらっしゃるようですね?
(城戸教授)
「ほとんどの方がそうだと思います」

Q.2週間で治るといわれていますが、発疹が残ったりするのですか?
(城戸教授)
「痕が残ったりしますが、もっと重要なのは、母子感染を起こして子に伝わったりすることが、非常に強く懸念されています」

Q.コロナのように、どこでかかったか分からないというものではないのであれば、防ごうと思ったら防げるウイルスだと思っていいのでしょうか?
(城戸教授)
「おっしゃる通りで、現在は男性間の性交渉をするグループで特定的に広がっていますが、それは決して女性に広がらないというわけではなくて、特定の行為で誰にでもうつる可能性があるのがサル痘の特徴です。ただ、食事をした後に感染するとか、気が付かないうちに感染するということは原則ないと思われます」

ワクチンと治療薬は?

 「サル痘」には「天然痘」のワクチンが有効で、発症予防効果は約85%とされ、厚労省は接種の準備を急いでいるということです。また、アメリカの天然痘の治療薬「テコビリマット」が有効で、日本国内では未承認ですが、確保はされているということです。未承認のため「特定臨床研究」の枠組みで投与されます。城戸教授によると「天然痘はすでに撲滅している病気のため、有効性についてヒトでは未確認。そのため臨床試験の名目で投与する」ということです。

Q.「臨床試験の名目で投与する」と聞くと、感染が確認された方に「臨床試験」という名で投与するくらいで感染が収まるのではないか、と思ってしまうのですが?
(城戸教授)
「そういう意味ではなく、このサル痘、天然痘というのは『バイオテロ』と言う観点から、非常に注目されている感染症です。そのために、天然痘のワクチンが備蓄されていたり、テコビリマットがアメリカで特別に承認されているわけです」

Q.このワクチンは日本にも十分に備蓄されているのでしょうか?
(城戸教授)
「日本がどのぐらいの量を備蓄しているのかというのは、安全保障上の観点から公開していませんが、一定程度備蓄していると言われています」

コロナの感染急拡大、今後必要なことは?

JR九州で特急120本が運休

 一方で、新型コロナ感染拡大により、JR九州は「運転士・車掌の計38人が感染または濃厚接触者となり、列車運行に必要な乗務員の確保が困難」とし、7月27日~8月5日まで一部特急列車を運休すると発表しています。運休期間は延長する可能性もあるということです。公共交通機関にも影響が出る中、政府は7月22日から濃厚接触者の待機期間を短縮しています。

Q.濃厚接触者の待機期間や定義は、将来どのようにしていけばいいのでしょうか?
(城戸教授)
「濃厚接触者の定義は、『積極的に疫学調査を行って、これから広げていかないように周りで止めましょう』という考え方です。しかし、一日に数十万人というペースで拡大している今、もうその次に感染の恐れがある人の同定が困難になってきています。このような状況で付け焼刃的に待機期間を短くしたところで、実際の実効性はほとんどなく、社会の混乱を招くだけですから、私としては濃厚接触者という考え方自体、このウィズコロナの社会の中では廃止すべき考え方だと思います」

Q.普通のクリニックで診てもらえないことで、発熱外来の電話はパンク状態でなかなか治療もしてもらえない、というところもありますよね?
(城戸教授)
「はい、各症状によって行ける病院が限られているので、このような感染拡大期においては、病院がいくらあっても全く足りないです。一日に15万~20万人も感染しているとすれば、日本の病院全部を使ったとしても、数的に全く間に合わないんです。なので、ご自分で歩ける方々には自宅で自己検査、自己治療ということができるような社会環境を整えるということのほうが、非常に重要な課題だと思います」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年7月26日放送)

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