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元キャリア官僚、桜井真被告・新井雄太郎被告に有罪判決

【独自解説】”新型コロナ”給付金1500万円以上を詐取 元経産省キャリア官僚“主犯”に実刑判決…“堕ちたエリート”犯罪の軌跡

「あり得ない犯行」“主犯”に実刑判決

 元・経済産業省のキャリア官僚2人が“新型コロナ対策”の給付金を騙し取ったとして、詐欺の罪に問われている裁判。主導的な役割をしたとされる桜井真(さくらい・まこと)被告に懲役2年6か月の実刑判決、共謀した新井雄太郎(あらい・ゆうたろう)被告に執行猶予付きの判決が下りました。キャリア官僚がなぜ卑劣な犯行に手を染めたのか…その全貌を徹底解説します。

同級生が“共謀” 2人の人物像とは…

 2021年6月、元・経済産業省のキャリア官僚2人が「“新型コロナ対策”給付金詐欺」容疑で逮捕されました。 “新型コロナ”の影響により、売り上げが減った事業主を支援するためスタートした「持続化給付金」や「家賃支援給付金」などの国の支援策。この制度を主管する経済産業省の職員が、給付金を不正に受給したとして、詐欺の罪に問われたのです。この2人が騙し取った金額は1500万円以上…全て国民の“血税”という驚愕の事件でした。

(検察官)
「被告人桜井は、法軽視の態度が甚だしく、厳罰をもって臨む必要がある。被告人新井は、法的知識を悪用し犯行を実行している点で悪質である。」

 2021年10月から東京地裁で始まった、詐欺事件の裁判。この裁判の異様さを際立たせているのは、裁きの場に立つ2人が経済産業省の“キャリア官僚”だということでした。

(桜井被告・11月4日「被告人質問」より)
「私たち2人は親友…というよりも…“運命共同体”でした。」

 桜井真被告、29歳。私立の名門・慶応義塾大学卒。身長は180センチ近い長身で、省内でも将来有望な人材が集まるとされる「経済産業政策局」に在籍していた、エリート中のエリートでした。

(新井被告・11月4日「被告人質問」より)
「実行犯は…私です。いつでも切り捨てられるリスクがありました。」

 新井雄太郎被告、28歳。東京大学を卒業後、司法試験に合格。弁護士資格を持つエリートとして2020年、桜井被告と同じ経済産業省に入省。「産業政策局」に在籍していました。

裁判を取材した 日本テレビ・福永沙也佳記者

 裁判を取材した記者は、2人の様子について…

(日本テレビ 福永沙也佳記者)
「一般の事件の被告人とは少し違って、経産省で働いていた人たちの論理的な話し方だと感じました。どちらか一方の被告が、証言が終わった後、席に戻る際に物理的に体が向き合うんですけれども、どちらかが少しうつむいていたり…裁判中に2人の目線が合うと感じることはありませんでした。」

 国を動かすキャリア官僚として、輝かしい未来が約束されていたはずの2人。“堕ちたエリート”の転落の始まりは、およそ10年前までさかのぼることになります。

同級生が“共謀”…法廷で明かされた“主従関係”

 桜井被告と新井被告は慶應義塾高等学校の同級生でした。2009年、2人が高校2年の時、ゴルフ部で知り合い、大学も同じ慶応大学に進学しました。しかし新井被告は東京大学を受験し見事合格。桜井被告と別れ、東大生となりました。その後、司法試験を突破しましたが、法曹の道には進まず、キャリア官僚を目指すも志望した省庁には不合格…失意のどん底にあった新井被告を励ましたのが古い仲間である桜井被告でした。新井被告は、法廷でこう語っています。

(新井被告・11月4日「被告人質問」より)
「官庁試験に不合格になって、絶望の最中にあった頃…社交性のある桜井さんと共鳴できるような人間にならないと社会には出られないと思いました。」

 事実、桜井被告は対照的に順風満帆、派手な生活を送っていました。慶応大学卒業後、3大メガバンクのひとつに就職。その後、2018年に国家公務員総合職試験に合格し、経済産業省に入省しています。そして2020年、新井被告は桜井被告の後を追うように経産省に入省しました。

桜井被告のもう一つの顔…“猜疑心”と“拝金”

 しかし…“明るく社交的でスマート”に見えていた桜井被告には、もうひとつの“顔”があったのです。経済産業入省直前の2017年、桜井被告は大学時代の友人たちとベンチャー企業を立ち上げました。そこには、もちろん新井被告の姿もありました。
 
 ところが桜井被告は、同僚のA氏と金銭問題で衝突。A氏を陥れるため信じられない行動に出たのです。この時、桜井被告は既に経済産業省の職員だったにもかかわらず、A氏に対し3000万円の損害賠償を求める民事訴訟を“でっち上げ”、勝つために他人の実印を偽造した上、ありもしない借金の契約書を偽造したのです。その全てが違法行為。とても現役のキャリア官僚がするとは思えない違法行為でした。

 さらに桜井被告は、新井被告にベンチャー企業の同僚B氏を説得し、偽証させる工作を命令しました。新井被告はB氏にこれが“でっち上げの裁判”であるという真相を話した上で協力を求めましたが、偽証を依頼する会話がB氏に密かに録音されており、その音声が裁判で公開されたため、計画は崩壊し、桜井被告は逆に和解金200万円を支払うという追い込まれた状況に陥りました。桜井被告は激昂し、新井被告を激しく非難したのです。この出来事が、慶応高校ゴルフ部以来の同級生、2人の上下関係を決定したと新井被告は証言しています。

(新井被告・11月4日「被告人質問」より)
「桜井さんは、私を“パシリ”のように使っていたと今となっては思います。いつでも切り捨てられるリスクがある…そう思っていました。」

 裁判を取材した記者は…

(日本テレビ 福永沙也佳記者)
「桜井被告は新井被告を『本当の友達で大切な存在』だったと度々主張していましたが、新井被告は『自分はいつ切り捨てられてもおかしくない』と思っていたと…2人の温度差に大きな違いがある、一般的な友人関係とは違って少しゆがんだ関係だったんではないかなと感じます。」

「逆らうことはできない…」 犯罪行為に手を染めていく新井被告

経産省“元キャリア官僚” 給付金詐欺の構図

 桜井被告は、経済産業省で働きながら、2つのペーパーカンパニーを新井被告に作らせていたといいます。ひとつは、『新桜(しんおう)商事』。社名は新井被告と桜井被告、2人の名字から1字ずつ取ったとみられます。もうひとつは、『バートゾーデン株式会社』ドイツの地名からとったといわれています。桜井被告はこのペーパーカンパニーを使って、株式運用の副業をスタートさせました。明らかに「公務員倫理規定」に違反する行為です。

 桜井被告は、株式投資で利益を得ながら、個人的な飲食代や遊興費をペーパーカンパニーの経費として処理、税金の支払いを逃れるために利用していました。そんな中、日本でも“新型コロナウイルス”の感染が急激に拡大し始めた2020年5月、桜井被告が新井被告に対し「新桜商事のコンサル業務の売り上げを偽装して、ウソの申請をしろ」などと命令、「持続化給付金」の不正申請に打って出たのです。

 「桜井被告に逆らうことはできない…」いびつな上下関係にどっぷりと嵌った新井被告は次々と犯罪行為を実行していきます。「持続化給付金」は、“迅速な給付”を優先し、手続きが簡素化されていました。経産省に勤め内情を知り尽くした2人は、“コロナ”で売り上げがゼロになったと証明する、税理士のハンコ付きの売上台帳を偽造し、自分の職場である経産省の外局、中小企業庁が運営する「持続化給付金」に虚偽申請。1社200万円、計400万円を騙し取ったのです。

 さらに目を付けたのが「家賃支援給付金」。新井被告はペーパーカンパニー2社とのありもしない「賃貸契約書」を偽造。家賃支払いの実態があるかのように口座内の現金を様々に移動させた上で、またもや中小企業庁に虚偽申請し、2社合わせて1150万円を騙し取ったのです。

“コロナ給付金”・・・相次ぐ不正受給

 「持続化給付金」は“新型コロナ”の影響で売り上げが大きく減った中小企業などに最大200万円が支給される制度で、申請が始まった2020年5月以降、約424万件、約5.5兆円が支給されています。そして、「家賃支援給付金」は“新型コロナ”の影響で売り上げが大幅に減少した中小企業などの家賃負担を軽減するための制度で最大600万円が支給され、これまでに約104万件、約9000億円が支給されています。

 この「持続化給付金」の不正受給額は公表されているだけでも、8億5857万円、「家賃支援給付金」は総額で5357万円となっています。

 この2人が騙し取った国民の税金は合わせて1550万円。そのほとんどは、桜井被告が彼女に渡していた毎月150万円の小遣いに消え…超高級腕時計の購入費用に消え…東京の一等地、千代田区に建つタワーマンションの家賃に消えました。

 そして、2021年6月、銀行関係者から「警察が桜井被告の会社を捜査している」と告げられ、警察に目を付けられていることを知った2人は、すぐに証拠隠滅を図りました。その場所は、あろうことか経産省の地下室。電動ドリルを使い自分たちのスマートフォンなどを破壊したといいます。さらに、その残骸を横浜・山下ふ頭で海に投げ捨てました。そして、6月25日、2人は逮捕されました。

 桜井被告は法廷で『給付金詐欺』行為における2人の関係性をこう語りました。

(桜井被告・11月22日「被告人質問」より)
「『持続化給付金』の詐欺も新井君に相談したら『形さえ整えれば受給できる』そう言ったのでやることにしたんです。経済は私、そして法律は新井君。そうやって補完し合っていたんです。」

 法廷で一度も桜井被告と目を合わせなかった新井被告は最後に…

(新井被告・11月22日「被告人質問」より)
「桜井さんに追い詰められても“自分は有能”という思いから、周囲や家族に相談できませんでした。自分一人で考えることが正しい…そう思い上がっていました。制度を乱用するという卑劣極まりない行為を私が実行しなければ止められたと思う。責任は重いです。」

 桜井被告は最後に、法廷で犯罪に手を染めるに至った自らの“心の闇”をこう証言しています。

(桜井被告・11月22日「被告人質問」より)
「金には強い力があり、ことを起こすには金だという思いが自分の根底にあったと思う。勉強やスポーツ、いろんなところで努力しても、世の中的には評価されないところがあり、自信をお金で補完していたんだと思います。資産を増やすことで傲慢になり、拝金主義者に成り下がってしまいました。」

下された判決…桜井被告には“実刑”

12月21日東京地裁での判決の様子(画・宮脇周作)

 そして、12月21日、午前11時。判決の時がやってきました。

(裁判官)
「被告人・桜井真を懲役2年6か月に、被告人・新井雄太郎を懲役2年に処する。新井被告に対し4年間、刑の執行を猶予する。」

 桜井被告には、懲役2年6か月の実刑判決。一方、新井被告には執行猶予付きの有罪判決が下りました。裁判官の口からは厳しい言葉の数々が飛び出しました。

(裁判官)
「被告人両名は若手官僚であり、公共の利益のために職務遂行することを求められていたにもかかわらず、詐欺という犯罪を繰り返したこと自体、国家公務員への国民の信頼を裏切るものである。こともあろうに経済産業省に所属する両名が、重要政策の足を引っ張るということは本来ありえない犯行というべきであって強い非難に値する。」

桜井被告への判決の理由

 一方で、桜井被告に執行猶予がつかなかった点については…

(裁判官)
「桜井被告は、華美な生活を改められない中で、私利私欲を伴って犯行に及んだ。のみならず、桜井被告は、新井被告が以前にした失言やそれに伴う事態を執拗に責め立てるなどして、犯行動機のない新井被告を巻き込んで、実行行為を担当させたのであるから、非難の度合いは一層強くなる。新井被告は桜井被告がいなければ犯行には及んでいなかったものであって、経緯には酌むべき余地がある。」

 こうして、裁判は終わり、判決を聞いた桜井被告は新井被告と一度も目を合わせることなく、小走りで法廷をあとにしました。

中央大学法科大学院教授 野村修也弁護士

Q.注目すべき判決理由ですが、完全に上下関係、主従関係みたいなものが見えますね。
(中央大学法科大学院教授 野村修也弁護士)
「そうですね。多くの方には2人でやった犯罪だろうと見えていて、同じ刑罰になるのではないかと思った人もいると思うんですけれども、この犯行全体の中での主導権、いわば主犯格というのは、完全に桜井被告であって、新井被告は道具として使われていたというようなニュアンスの強い面があるので、これだけの量刑の違いが出てきたということが言えると思います。」

「給付金詐欺」求刑に込められたメッセージ

「給付金詐欺」求刑に込められたメッセージ

 元大阪地検・検事、亀井正貴(かめい・まさき)弁護士によると、検察の求刑には“重要なメッセージ”があったといいます。従犯とされる新井被告の3年の求刑は執行猶予が付く上限で、「新井被告の執行猶予はOKだが、主犯とされる桜井被告を実刑にしなければ、控訴も在り得る」という検察から裁判官へのメッセージだったのではないかということです。

(元大阪地検・検事 亀井正貴弁護士)
「一般的に、懲役4年6か月求刑というのは“実刑”をくれという求刑です。検察は桜井被告の方の犯罪性が深いというふうに考えていたと思います。」

被告は不正受給した全額を国庫へ納付・弁償した

Q.経済産業省を「懲戒免職」され、不正受給した全額を弁償したことで社会的制裁は受けていますが、厳しい刑が下されたことについてはどう思いますか?
(亀井弁護士)
「一般的には、詐欺罪の場合、全額弁償したら初犯の場合は原則、執行猶予がつきます。ですが、この場合には、やはり本人らの立場があり、かつ犯罪性が深いですよね。それから『持続化給付金』は不正請求が多く、厳しく処罰しなければならないという傾向はありますから、全額弁償しても、実刑判決が出るケースもあります。この場合は4年6か月という求刑ですから、やはり実刑が必要だと考えたのだと思います。」

Q.社会的制裁を受けていても実刑がでるという側面もあるんですか?
(野村弁護士)
「やはり、普通の詐欺罪と違って、かなり重く見たと思います。『持続化給付金』の募集のホームページに『今回は迅速に払うから不正はしないでくれ、もし不正をしたら厳罰を持って処す』と、はっきり書いて支給しているんです。それも知った上でやっていることもあるし、中央省庁は役人自ら法律を作りますので『法律より自分が上にいる』と思ってしまう役人が時々出てくるんです。ほとんどの人はそんなことなくて、世の中のために一生懸命やっているんですけど、たまに勘違いする人が悪質な犯行に及んでしまうんですね。そこを見て、動機において酌むべきところが全くないというふうに判断したのではないかと思います。」

(情報ライブ ミヤネ屋 2021年12月21日放送)

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