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写真:猛暑の中マスクを着用して外出する人々

マスクで熱中症になる?
コロナか熱中症か・・・よく似た症状で医療現場も困惑
例年とは違う夏をどう乗り切るか
危険な暑さ続く コロナと熱中症で救急搬送者が急増 困惑する医療現場の実態

連日続く猛暑。8月に入り、40度を超える地域も出る中、新型コロナウイルスの感染者とともに急増しているのが熱中症による救急搬送者です。8月11日、東京消防庁管内では、熱中症の疑いで今年最多となる250人が救急搬送され、うち19人が重症となりました。千葉では習志野市の工場で作業中の男性が熱中症で死亡するなど、危険な暑さが日本列島を覆っています。一方で、同日時点で東京都の新型コロナ入院患者数は1710人となり、うち重症者は22人、また2人の死亡も確認され、都が確保している病院のベッド数2400床のうち7割が埋まっている状況です。感染経路も家庭内感染が依然として多く、全国各地の学生寮やクラブ活動でクラスターが発生しています。
ここに今後、熱中症患者も増加すると、十分な医療体勢が確保できなくなる可能性も。
今年はコロナと猛暑、双方に対策を取らなくてはならない、例年とは異なる夏。炎天下でもマスクを外すことをためらう人も多く、熱中症のリスクが高まっています。医療現場では熱中症とコロナ両方の対応に追われ、医療従事者のさらなる負担も懸念されています。

★汗が止まったら要注意 熱中症のメカニズム

写真:熱中症の分類

暑い環境下で起こる体調不良は全て熱中症の可能性があります。暑さで上昇した体温を下げようと汗をかき続けることで体液(体の中の水分)が不足し、脱水症が起こります。すると発汗が止まり、体温調節機能が維持できなくなるために熱中症になってしまうのです。
重症度によってI度〜III度の3段階に分けられ、I度は立ちくらみやこむら返りなどの症状で、現場での応急処置で対応できる軽症です。II度は頭痛、吐き気、全身の倦怠感などが現れ、病院への搬送を必要とする中等症。そしてIII度は意識障害やけいれん、体温の上昇など、入院して集中治療の必要性のある重症でいわゆる”熱射病”と診断されるものです。熱中症に詳しい帝京大学医学部附属病院高度救急救命センターの三宅康史教授は、熱中症かなと感じた際には症状にこだわる必要はなく、暑い中で少しでも体に異変を感じたら、体を冷やす、休む、そして水分補給をすることが重要といいます。

コロナと熱中症は「症状が似ている」 困惑する医療現場の実態

写真:熱中症と新型コロナ 症状の見分け方

発熱や倦怠感、頭痛、意識障害といった症状はコロナにも共通して見られるもので、その判別は医師でも難しいといいます。一方で味覚障害や嗅覚障害、咳、息切れといった症状は新型コロナの特有のものです。
三宅教授(帝京大学)は、救急患者が運ばれてきた際、「医療従事者も、患者を運んできた家族も、入院している患者も守るためには、熱中症と新型コロナ両方の可能性を考えて、治療も同時に始めるしかない。医療従事者の負担は非常に大きい。」と話します。各医療分野の関係者13名で組織された熱中症・脱水症の予防啓発を行う団体である「教えて!『かくれ脱水』委員会」は今年5月に緊急提言を発表し、「新型コロナの対応に追われる医療機関に例年通りの熱中症患者が緊急搬送されたら未曾有のパニック状態を招き、医療機関の多くが機能しなくなる」と警鐘を鳴らしています。

マスクで熱中症リスクが高まる!?

写真:急増する熱中症患者 

コロナと熱中症、双方の患者への対応に当たっているふじみの救急クリニック(埼玉県三芳町)の鹿野晃院長はマスクの影響で、今年は熱中症患者が例年に比べて2〜3割増えているといいます。

「お年寄りの方は、律義に家の中でマスクをしている方もいる。そうすると口の中が意外と潤ってしまうので、水分補給はあまりしていなかったということもあります。」(ふじみの救急クリニック鹿野晃院長)

さらに、一人暮らしの高齢者宅では、コロナの影響で介護ヘルパーなどの訪問回数が減っているために、熱中症で倒れていても発見が遅れるケースが頻発していると危機感を強めています。鹿野院長(ふじみの救急クリニック)によると、症状が似通っているため、運ばれてくる患者が熱中症かコロナなのかを見分けるのは医師でも非常に難しいといいます。
「咳や呼吸苦、胸痛などがあれば、コロナを疑いますが、そのような症状がなく、だるい、頭が痛い、吐き気がある、発熱しているとなると、コロナなのか熱中症なのか、判別は非常に難しいです。」(ふじみの救急クリニック鹿野晃院長)

写真:救急搬送されてきた男性

取材中、鹿野院長(ふじみの救急クリニック)のもとに救急患者受け入れ要請の電話がかかってきました。患者は70代の男性で、40.1度の熱があり、トイレで動けなくなっていたところを救急搬送されてきたといいます。熱中症かコロナかは分からないまま、治療にあたる鹿野院長。肺のCT検査では、コロナの症状は見られず、誤嚥性肺炎と診断されました。男性はエアコンはつけていたものの、風邪をひくかもしれないと心配になり、暑い場所に長時間いたといいます。PCR検査の結果は陰性でした。男性患者は点滴などの治療を受けて、熱中症の症状が収まり帰宅しました。

写真:炎天下でPCR検査を行う医療従事者

一方で、治療にあたる医療従事者側も猛暑の危険にさらされています。あゆみクリニック(埼玉県春日部市)では、近隣の駐車場でPCR検査を行なっています。炎天下の中、マスクにゴーグル、フェイスガードを装着し、防護服に身を包んで、検体を採取する医療従事者たち。
「途中で頭痛がして、吐き気がして、顔が真っ赤になって。これは熱中症だなと思って、とてもつらかったです。検査に来た人も車内で30分待たないといけない。コロナの検査に来たのに、熱中症になってしまったという状況なんかも起こしかねない。」(あゆみクリニック藤川万規子院長)

マスクと熱中症の因果関係は証明されていないものの、厚生労働省は熱中症を防ぐために屋外では人との距離を十分に保った上で、マスクを外すことを推奨しています。
三宅教授(帝京大学)も、「本来、外気を吸って、吐く息で体の熱を捨てることで体を冷やすが、マスクはそれをブロックしてどんどん暑い空気を吸い込んでしまう。呼吸という新しい運動をしてるので、さらに体から熱が作り出される。」と、マスクで熱中症のリスクが高まる可能性を示唆しています。

熱中症になったらどうする?応急処置と対処法は「FIRE(ファイヤー)」で確認を

写真:熱中症の対処法「FIRE(ファイヤー)」

三宅教授(帝京大学)は熱中症になったときに自身や周囲の人が取るべき行動を「Fluid(フルイド):適切な水分補給」「Icing(アイシング):体を冷やす」「Rest(レスト)安静」「Emergency(エマージェンシー):救急搬送/119番」の4つにまとめ、それらの頭文を取り「熱中症対策 FIRE(ファイヤー)」という指針を提唱しています。例えば、「意識があるか?→なければEmergency(エマージェンシー)」にあたり、119番で救急搬送の判断を。救急車が来るまでの間は「Icing(アイシング)」涼しい場所へ避難させ、服を緩めて体を冷やすなど、目の前の患者の容体をわかりやすくチェックリストにまとめ、応急処置をしながら、対応することができます。熱中症で亡くなるのは約8割が高齢者で、半数以上が自宅で発症しています。コロナの影響で、家にこもりがちの人も多く、三宅教授(帝京大学)は、離れて暮らす高齢者家族への声かけが重要と訴えます。

「一番暑い午後2時ごろに電話をかけて、エアコンをつけているか、室温は何度になっているか。そして2時間後にもう一回電話をかけて、大丈夫かどうかを確認してほしい。」(三宅康史教授 帝京大学)

「正しい水分補給」と「こまめな喚起」で熱中症とコロナを同時に予防

写真:熱中症予防のポイント

熱中症を予防するために水分補給は欠かせませんが、注意すべき点もあります。 ただ水分を摂取するのではなく、塩分と糖分も同時に取ることが重要で、利尿作用のあるカフェインや、脱水状態を進めてしまうアルコールは避けた方がいいといいます。

「特に高齢者は喉が渇きにくく、トイレを気にして水分を取らない傾向があるため、無理して大量のお茶を飲むよりも、コップ1杯の経口補水液を飲む方がいいですね」(三宅康史教授 帝京大学)

経口補水液は塩分や糖分がバランスよく配合され、スポーツドリンクと比べると塩分が多く、糖分が少ないのが特徴で、自宅でも手軽に作ることができます。作り方は、水1リットルに砂糖40グラム(大さじ4と2分の1)、塩3グラム(小さじ2分の1程度)、そして適量のレモン汁を混ぜて飲みやすくします。大量に飲めばいいというわけではなく、体調が優れないときに少しづつ飲むこと、また砂糖と塩の分量を間違えると脱水を改善できない場合があります。
日中はエアコンを付けたまま部屋を締め切ってしまいがちですが、熱中症とコロナ双方の対策として、こまめな換気が推奨されています。ウイルス感染や免疫学に詳しい近畿大学医学部の宮澤正顯教授によると、エアコンを付けながらでも、できれば換気は1時間に一回、さらに窓は2方向以上開けて風が通るようにすることが重要で、サーキュレーターを使って部屋の空気を循環させることも効果的だと話します。

空気の壁でウイルスをブロック 暑さ対策にもおすすめ「アクティブマスク アネモイ」

写真:アクティブマスク アネモイ

夏場のマスク着用に伴う不快感の改善と、医療現場で不足する高機能マスク「N95」に変わって活躍が期待される斬新なアイデアのマスクが開発されました。「アクティブマスク アネモイ(8月より販売開始 価格12万5000円)」は空気の壁でウイルスをブロックするマスクです。腰に装着した郵便葉書ほどの大きさの高性能フィルターが空気を吸引し、浄化された空気はホースを伝って顔の前に設置された棒状の排出装置から吹き出されます。この排出装置からの風が顔の前に空気の壁を作り出し、飛んでくるウイルスや飛沫を跳ね除けます。このマスクは、神戸大学医学部附属病院の伊藤智雄教授が空気の力でウィルスに対抗できないかと研究を重ね、青森県の企業(マトリクス株式会社)と共同で開発されました。

「口を布で覆う従来のマスクと違って、顔の周りに爽やかな風が流れるので、暑さ対策にも優れています。口腔外科など患者さんがマスクを付けられないような環境で診療に当たる方に活用していただきたいと思います。」(伊藤智雄教授 神戸大学)

棒状の排出装置はフェイスガードの中にも入れて装着することができるので、二つを併用することで非常に大きな効果が期待され、すでに複数の医療機関から注文が入ってきているといいます。共同開発を行った企業では医療現場以外に、接客業やマスクを付けられない過敏症の人などに向け、製品の簡素化や費用を抑え、日常生活でも使いやすくなるよう研究、開発が進められています。

(読売テレビ 「情報ライブ ミヤネ屋」8月12日放送分より)

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