9997「『いまだ』の『いま』」

2025 . 7 . 8

9997

 

 

「いまだ」「いまだに」

を漢字で書くと、

「未だ」「未だに」

ですよね。「未」という漢字は「常用漢字」なのですが、その「常用漢字表」には、

「ミ」

という「音読み」しかなく、

「いま」

という「訓読み」は載っていません。そもそも「訓読み」は載っていないのです、常用漢字表には。だから新聞や放送では、

「いまだ」「いまだに」

と「平仮名」で書くのですね。「音」だけ聞けば、

「今だ」「今だに」

と書けそうな気がするのですが、「未だ」の「いま」は、「今」ではないのでしょうか?

調べてみました。まず「精選版日本国語大辞典」で「いま」を引くと、かなり何通りもの詳しい説明が書かれていました。

*「いま(今)」

<一>(1)過去と未来との境になる時。現在。

【イ】ただいま。現在の瞬間。

【ロ】現在の時点に少し幅をもたせた時間。(例)「今はむりだが、半年後ならひきうけよう」

【ハ】(「昔」に対して、【イ】を含んだある期間を表わす)現代。今の時代。現今。今日(こんにち)。

(2)略

(3)(ごく近い過去に関して用い、互いに経験や知識で知っている物をさしていう)

【イ】(副詞的に用い)ちょっと前。いましがた。たったいま。

【ロ】(多く「いま」の形で用い)いましがた。ただいま。さきほど。

<二>(1)(ごく近い未来に関して)すぐに。今すぐに。直ちに。

(2)さらに。その上に。あと。もう。

 

そして「いまだ」も引いてみましょう。

*「いまだ(未)」=(名詞「今」に助詞「だに」の語根と同じ「だ」が付いたもの)

 

これだけ見たら、

「今だ」「今だに」

でもよさそうな感じですが。続きを見てみましょう。

(1)(あとに否定の語を伴って、現在でもなお事柄が実現していない意を表わす)まだ。

(2)(否定の語を伴わないで、「事柄や状態が今になっても変わらずのままでいる」の意味を表わす)今でも。まだ。

 

これには「語誌」が記されています。

(1)「ある事態が実現していないという否定的ニュアンスでの現在の動作継続・状態の記述を表わす。外見上は肯定文で「ある時点まで…である(=その逆の事態の未実現)」という場合(=2)と、否定文の「ある時点まで…でない」(=1)という場合の二つのケースがあるが、後者は漢文の「未」の字に極めて近いために、訓読にも用いられるようになった。

(2)肯定の場合の「いまだ」は現在における継続性を表わすために、副次的に過去からの継続性をむしろ強調するようなニュアンスのある場合もある。

(3)平安時代には「いまだ」から変化した「まだ」という語が発生し、「いまだ」と同義で和文専用語としてもちいられるようになった。それに対して「いまだ」は漢文訓読にもっぱら用いられたため、否定との呼応がつよく意識されるようになった。

 

やっぱり!

「まだ」は、「いまだ」の「い」が脱落したものだったのですね!つまり「意味は同じ」だったんだ!

そして「いま(今)」と「いまだ(未だ)」の関係は、

「時間をどこまで含むのか」

という違いで、さらに「いまだ」は、

「肯定(継続)の場合と、否定の場合がある」(「今」には、そういうニュアンスはない)

ということですかね!?

だいぶん、すっきりしてきたぞ!

 

(2025、7、7)