和歌山県の名勝、
「三段壁」
その「壁」の読み方ですが、「ヘキ」でも「ペキ」でもなく、
「ベキ」
なのです。そして看板の「ローマ字表記」も、
「SANDANBEKI」
で、「BEKI」=「べき」で、「壁」の前の「三段」の「ン」は、
「N」
です。普通、「N」のあとの「ヘ」は、
「ペ」
と「半濁音」になり、「ベ」と「濁音」になる場合の「ン」は、
「M」
で書かれるのですが、これはなぜ「N」なのに「ベ」なのでしょうね?
「壁」を「べき」と読むケースは他にあるのでしょうか?調べてみましょう。
まず、辞書(「精選版日本国語大辞典」の電子辞書)の「逆引き」機能を使って、
「○んべき」
の形のものを検索しました。しかしそこに「壁」を使った、
「『○ん壁(べき)』はありません」
でした。
次に「○んぺき」という「半濁音」で「壁」はないか探したところ、こちらは、
『合壁(かっぺき)・環壁・岸壁・鉄壁・九年面壁・絶壁・前壁・鉄壁・粉壁・面壁・連壁』
というのがありました。
「壁」以外の「○んぺき」では、「璧」「碧」「癖」を使った、
『暗碧・完璧・癇癖・金碧・肩癖・紺碧・三碧・深碧・全璧・丹碧・淡碧・藍碧』
などがありました。
また、濁音でも半濁音でもない「清音」の「へき」の「○んへき」は、
「防音壁」
だけでした。「癖」を「へき」と読むものは、
「完全癖」
がありました。
やっぱり「○ん壁」の「壁」は、
「『ぺき』と半濁音で読むものがほぼ全て」
で、「べき」と読むものは国語辞典には載っていないのですね。
そこで「漢字のことは、漢和辞典を引け」と、いうことで、引いてみました。「新潮
日本語漢字辞典」です。
*「壁」=ヘキ(漢)ヒャク(呉)
かべ・なまめぼし
つまり、「音読み」は漢音で「ヘキ」、呉音で「ヒャク」。「訓読み」は「かべ」と、
「なまめぼし」
ということですね。「なまめぼし」って初めて見た!「なまめ」を干しているのか?意味は、
*「二十八宿」の第一四。壁宿。
???わからん!これは「精選版日本国語大辞典」だ!…なんと載っていました!
*「なまめぼし」(壁宿)=二十八宿の一つ。壁(へき)の和名。ペガサス座γ(ガンマ)星座付近をいう。
え!「星座」なの?「二十八宿」は「星座」?
*「にじゅうはっしゅく」(二十八宿)=(1)月・太陽・春分点・冬至天などの位置を示すために黄道付近の星座を二八個定めこれを宿と呼んだもの。二八という数は月の恒星月二七・三日から考えられたといわれ、中国では蒼龍=東、玄武=北、白虎=西、朱雀=南の四宮に分け、それをさらに七分した。すなわち、東は角(すぼし)・亢(あみぼし)・氐(とも)・房(そい)・心(なかご)・尾(あしたれ)・箕(み)、西は奎(とかき)・婁(たたら)・胃(えきえ)・昴(すばる)・畢(あめふり)・觜(とろき)・参(からすき)、南は井(ちちり)・鬼(たまおの)・柳(ぬりご)・星(ほとほり)・張(ちりこ)・翼(たすき)・軫(みつかけ)、北は斗(ひつき)・牛(いなみ)・女(うるき)・虚(とみて)・危(うみやめ)・室(はつい)・壁(なまめ)。
(2)連句の様式の一つ。表六句・初裏八句・名残の表八句・名残の裏六句とあわせて日八句を一巻とするもの。
ほおー。
明らかに(1)があって、その「二十八」を用いたのが(2)ですから、元は(1)。
しかもそこに、「四神」の、
「蒼龍(青龍)」「玄武」「白虎」「朱雀」
が出て来て、それをさらに7つずつに分けたうちの一つが、「壁(なまめ)」ですか!
「昴(すばる)」
も知っていますよ!
それに「北の斗(ひつき)」は「北斗七星」の「斗」ですよね。
うーん、やっぱり「太陰暦」=「月の運行」を基にした暦の時代は「星」が重要だったわけですからね。「星座」も当然、重要。夜の「天体観測」が、いろいろな自然の摂理を知り利用する手段だったのですね。
それはさておき、「べき」とは読まない。あくまでこれは
「音便の問題」
ですね。
あ、そうか、「三段壁」のある、
「和歌山県の訛り」
ということではないか?ほら、例の有名な、
「雑巾」(ぞうきん)→「どうきん」
「象さん」(ぞうさん)→「どうさん」
「銅像」(どうぞう)→「どうどう」
という、
「ざ行→だ行」
になるという「あれ」です。
「ざ」→「だ」
になるんだったら、
「ぺ」→「べ」
になるのは「わけない」ように思いますが、いかがでしょうか?
ちなみに名前の由来は
「魚(クジラ)の見張り場」=「見段(みだん)」があったので、これが転じて、
「見段壁(みだんべき)→みだんぺき→さんだんべき(三段壁)」
になったと「ウィキペディア」に書いてありましたが、肝心の、
「なぜ『べ』なのか」
は記されていませんでした。


