『昭和20年8月15日~文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』(中川右介、NHK出版新書:2025、6、10)

2025 . 7 . 1

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中川さんの新著。出足好調で、すぐに重版が決まったらしい。おめでとうございます!

「戦後80年の年」の「8月15日」の前の発売という「戦略」の勝利。しかしそれだけでは売れない。やはり「内容が良い」から売れているのだろう。

サブタイトルの「文化人たちは玉音放送をどう聞いたか」は確かに興味深いし、その「文化人たち」とは誰か?「135人」の文化人を、三島由紀夫をはじめとした若手作家「若者たち」、川端康成など、すでにその時点で地位を固めていた「文豪たち」、映画界からは「東宝」「松竹」「大映」の監督・俳優・女優と会社を分けて書いているのが中川さんらしい。そして、「音楽・演劇界」は作曲家・歌手あるいは、歌手で女優・指揮者、さらに章を分けて「新劇」、そして「歌舞伎」。歌舞伎の章が、一番中川さんの筆のすべりが良いように感じた。滑らかに文章が綴られている。全部つながっている。

そして「遅れて来た少年たち」は、終戦当時はまだ15歳未満ぐらいで参戦できなかったが、その後の「戦後」を支え築く活躍をした、小澤征爾、武満徹、大島渚、大林宣彦、高倉健、岸惠子など、ある意味「新人類」の指揮者・作曲家・映画監督・俳優・女優。さらに現在の「アニメ」の世界化にもつながる手塚治虫をはじめとした、藤子不二雄(A)、楳図かずお、さいとう・たかを、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、水木しげる、やなせたかしといった「マンガ家たち」(ここで取り上げたマンガ家で生存しているのは「ちばてつや」だけか…)、更に戦後を支えた大江健三郎、井上ひさし、野坂昭如、星新一、小松左京、田辺聖子、筒井康隆といった「未来の作家たち」である。

よくぞこれだけの人たちの「八月十五日」を調べて書いたなと、まずそのことに敬服する。あとがきを読むと、実は中川さんの多くの作品の「書き出し」は、

「八月十五日から始まっている」

と種明かしし、それが、

「こういった作品を書くきっかけになった」

と。中川さんの膨大な作品群は、切り口によって「別の料理」に形を変えて、違う味わいで出て来るということですね。分かります。あれだけ膨大な「裾野」と「深さ」があればそれも当然のことでしょうね。

巻頭に、それぞれの登場人物が当時どこで「玉音放送」を聴いたのかの「地図」なども配し、立体的に「八月十五日」を見つめることができる一冊である。とりあえず「玉音放送」の「玉音」を、「ぎょくおん」とちゃんと読めるように、若手に教えないといけないと思う。

 

 

(2025、6、27読了)