『健康帝国ナチス』(ロバート・N・プロクター著、宮崎尊・訳、草思社:2003、9、8)

2025 . 5 . 20

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この本は、2007年以出版した拙著「スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56」(小学館)執筆の際に参考図書として購入、必要箇所のみ、読んだのだが、全編は読んでいなかったのを、ようやく「約19年越し」で読み終えた。(拙著出版の前年から数えて。)

書名タイトルを見ると「健康」と「ナチス」のつながりが意外で「えっ?」という感じがするでしょ。ナチスは「酒」も「たばこ」も「健康の敵」として(公には)国家的に排除する政策だったのです。なぜなら、「富国強兵」の「強兵」のためには「健康な男子国民」が必要だから。「戦力としての兵隊」のフィジカル面の「健康」を担保することが必要と考えたのです。もっとも、ナチス幹部でも、ヘビースモーカがいたりしましたが、少なくともヒトラー自身は(若い頃は別にして)、酒もたばこもたしなまなかったと。

私はこれを読んでいたので、日本の政府が「健康増進法」という名前の法律を作って推進し始めた頃から「なんか、怪しい」と思っています、今も。普通の人は「健康を増進して何が悪い?良いことじゃないか」と思うのでしょうけど、それを「法律を作って、国が推進」というところが、ね。もちろん私自身は、酒は飲みますが、たばこは吸わないし、煙は好きではないのですが、それは「好きではないから」で、「健康のため」という思いはそれほどありません。「国」が「健康」を押し付けてくるのは、けっきょく「健康でない人を排除する」という方向にもなりかねず、やっぱり「ナチスに通じる恐れがある」のです。「最高血圧」とか「メタボ」「腹囲」とかね。

ナチスの目指した方向性の中には、「良い」こともあったかもしれないけどその「目的」が「良くないこと」であると、内容そのものも「良くないこと」になるのだなと思いました。日本でも同じことです。「文脈」の中で「行為の価値づけ」が行われるのだと。

詳細なデータに基づいて、いろいろ考えさせられる一冊でした。

 

 

(2025、5、11読了)