『賢人たちのインテリジェンス』(佐藤優、ポプラ新書:2024、10、7)

2024 . 12 . 27

2024_125

 

佐藤さんの著書と言うより、佐藤さんと「賢人」の対談集。その「賢人」は「12人」。名前を挙げると、

吉藤オリィ(分身ロボット発明家)

大屋雄裕(法哲学者)

萱野稔人(哲学者)

富永京子(社会学者)

泉谷閑示(精神科医)

永井玲衣(哲学者)

新井紀子(数学者)

古谷経衡(作家)

塚越健司(社会学者)

名越康文(精神科医)

新 雅史(社会学者)

小川仁志(哲学者)

という面々。「哲学者」「社会学者」「精神科医」が多い。「数学者」、数学も哲学的な部分

があるしな。そういう意味では偏っているというか、その道の専門家ばかり、しかも若い

人が多い。僕が名前を知っていたのは、萱野稔人さん(哲学者=「ミヤネ屋」にもご出演

頂いています)・新井紀子さん(数学者)・古谷経衡さん(作家)・名越康文さん(精神科

医)・小川仁志さん(哲学者)の5人だけだった。印象に残った部分を抜き書きします。

【萱野稔人(哲学者)】

・カール・シュミットは「政治的なものの概念」のなかで「保護と追従という永遠の連関こそが、国家を成り立たせている根本的な原理である」と述べている。

【泉谷閑示(精神科医)】

・ヨハネの福音書の冒頭も「はじめにロゴスありき」です。ロゴスとは神であり、バラン

スであり、言葉であり。

・(佐藤)「精神の生態学へ」を書いたグレゴリー・ベイトソンは「ダブルバインド(二重

拘束)の概念を提唱したことで知られています。人類学者で生態学者で数学者でもあるお

もしろい人で、「キューバ危機とタコの喧嘩の類似性」に関する論文なども書かれている

んですよ。言葉を信用できなくなった国家間関係の行動は、タコの喧嘩と同じプロセスを

たどると。カワウソも同じだったかな。

~(私)ブワッハッハ!~

・政治や国際関係にしても、問題の根本にはロゴスの危機があると思っています。ロゴ

ス・クラッシャーは強い言葉で即断する。その短慮で強い発言がカリスマ的に見えてしま

うことがある。

【古谷経衡(作家)?

・(佐藤)民主主義が大好きな人は、犬好きな人が結構多い。警察官や自衛官は、犬好き

率が多いと思う。会社とか組織では、犬派:猫派が8:2くらいがバランスがいいんで

す。猫だけの会社は成り立たない。(ちなみに、佐藤も古谷も「猫派」)

・(佐藤)健康とか有機農業だとかに固執する団体でいうと、過去にナチスの例もある。

エコ右翼は危険ですよ。

・エコ右翼!土への執着と国粋主義は結びつきますものね。たしかに“純潔なるもの”へ

のこだわりの強さって、排他的な、ファシズム的な発想に近いですね。

【塚越健司(社会学者)】

・(佐藤)フランスの哲学者ジャン=フランソワ・リオタールは、1979年に発表した著作

「ポスト・モダンの条件」において「大きな物語」という言葉を提唱しました。

人間は自然と「大きな物語」を作る動物です。したがって稚拙であってもわかりやすいス

トーリーがあるものや、極端な意見に吸収されやすい。ナショナリズムはそのいい例で、

貨幣信仰、学歴や出世信仰もその一種です。

・実態としては不安の埋め合わせ、つまり精神的な依存のようなものなのでしょうね。

(佐藤)ケインズは、株式をはじめとする金融市場の動きを「美人投票」にたとえまし

た。

・真面目な人、知性の高い人ほど、陰謀論にハマりやすい印象がある。

【小川仁志(哲学者)】

・(佐藤)(同志社大学神学部の学生に)最初に守破離の話をするんです。みんなに型破り

な人間になってほしい、そのためにはまず型を覚えなければならない。「守」で完全に型

を覚え、「破」で別の流派を覚える。それが自分流の「離」を培っていく。型のないまま

斬新なことをしようとすれば、それはただのでたらめになる、と。

・(佐藤)現在のルッキズム批判も遡ればヘーゲルの頭蓋論に行きつく。でもそれは結果

論で、ヘーゲルの「精神現象学」を読むと「人生ってこんなもんだ」ということがよくわ

かる。

・(佐藤)挫折を挫折としてきちんと認める。それも教養、哲学の重要な仕事でしょう。

・(佐藤)私は50歳になったときに、人生の持ち時間を考えるようになりました。

・年齢や健康状態に合わせて、自分のやるべきことを考え直す時期というのは、誰にも訪

れるものなのだと思います。そして、それは日本の社会も同じかも知れません。

「疑って、視点を変えて、再構成して、言語化する」それをするのが哲学だと。

・(佐藤)ヴィトゲンシュタインの言葉を借りるならば、「はしごをかけて2階に上がった

ら、使ったはしごは落とさなきゃいけない。」

・フィロソフィー(哲学)、ソフィア(知)をフィリア(愛)し続けるという名がついて

いるわけです。

 

以上です。

 

 

(2024、12、5読了)